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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第一章 『ガラクタピエロと裸足の人魚姫』
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第17話 知り合い

「んじゃ、わたしは向こうの花壇をやっとくからこっちは二人に任せたよ」

「なんかあの人仕切ってんだけど……どう思う?」

「……」


 両手を腰に当て、如何にもまとめ役感を出している平山。委員長ならこれが当然なんだけど、悲しいことに平山の印象がサボり魔なので小言の一つや二つも言いたくもなる。隣で一緒に聞いていた七海さんに振ってみたけど、聞こえていないのか反応がない。


「そこ聞こえてるぞー」

「あの〜。僕は前回一人で教室の掃除頑張ったから、今日は部活に行ってもいいですか?」

「よくないです」

「なんで七海さんが答えるの!?」

「話しかけないで」

「そんな無茶苦茶だ!」

「また楠がやらかしたのか。ほんと最低だな」


 平山の委員長としての立ち振る舞いについて苦言を呈す時間だと思っていたんだけど、想定していたのとなんか違う。なぜか口を開くたびに僕の立場が悪くなっていく。


「デリカシーが無いから堂々とサボろうとするんだよ。きっと」

「マジかよ。くすのっきー最低」

「僕の話ちゃんと聞いてる? 前回一人で教室の掃除させたのはノータッチ?」


 それと平山は変な呼び方をするのはやめようか。絶対定着しないからそれ。あだ名って定着するのと何事もなかったかのように消滅するのがあるけど、あれってどこに違いがあるんだろう。中三にもなって未だ謎だ。


「自分のしたことちゃんと理解してる? 女の子一人の名前も覚えられないノーデリカシーさん」

「ノンデリノッキー」


 七海さんめ……いちいちノーデリカシーノーデリカシーって。一昨日はあんなに楽しそうにお昼ごはん一緒に食べたってのに、掌返して先生に報告するわ無視するわ……僕だって先生に告げ口しようと思えばできたのを見逃してあげたのに——


「いたっ」


 踏まれた。


「……あの、七海さん」


 踏まれてる踏まれてる。


「話しかけないで」


 その返し雑だけど強くない? 七海さん、もしかして今日ずっとそれ一本で押し通すつもりなの?


「二人とも、あんまりお喋りしてると怒られるから始めるよ〜」

「委員長、七海さんを注意してあげてください」

「話しかけないで」

「七海さんには話しかけてな——いででで!」


 抓らないでください。


「別に大丈夫でしょ。セーフセーフ、気にしなくてよし」

「待って! ちゃんと見て!」


 見ていないなんて、野球ならばベンチから監督が飛び出して詰め寄る案件だ。虚ろな目で指差し呼称はやめろ。


「はい解散解散」

「リクエストを要求する!」

「ゴメンわたし野球知らないんだ。じゃあね〜」


 ひらひらと手を振って自分の持ち場へと向かう平山。他にも物申したいけど、部活に遅れるのも嫌なので大人しく従うことにする。


「あいつ絶対野球のルール知ってるだろ……」

「……」


 僕がそう呟くよりも前に、七海さんは花壇の反対側について作業を始めた。ここでやいのやいの騒いでも評判が無駄に落ちるだけなので、僕もそれを真似て作業を始めた。

 前回の掃除に続いて今度は花壇を手入れするそうだ。なんでも連休明けに旧校舎の取り壊しが始まるらしい。

 旧校舎を取り壊した後に花壇に花を植えるから今日はその前準備。もっとも去年の秋を最後に、花の類は植えていなかったから大して荒れていないんだけど……。

 花壇の手入れとなれば環境委員一同はジャージだ。上下長袖だったり、ハーフパンツだったりと様々。流石に今の時期に半袖ハーフパンツはいない。


「よいしょ」


 七海さんはというと、ハーフパンツの下に黒いタイツを履いているようだ。屈んだりすると膝の部分の色が薄くなっている。ジャージを忘れたんだろうけど、寒いのか暑いのかどっちつかずの格好だ。


「ふーっ」


 作業に入ってからというもの、七海さんの声がやたらと耳に入る。案外独り言が多い。ここで変にちょっかいを出したり、相槌を打ったりするといけない。『話しかけないで』と、自動音声を彷彿とさせる無感情な返事が返ってくるのがオチだ。気になるけどここは我慢して聞こえないフリ。

 散らばっている木の枝を拾い上げて花壇の外に避けておく。今こうしてちまちまと花壇の掃除をしているけど、取り壊されたらそれはそれで、また散らかってしまいそうだけどなあ……。


「平山さんサボってないかな……」


 あまりに単調な作業だが、野球や勉強以外のことをするのは良い気分転換になる。何気ないことに考えを巡らせたりも出来る。そう、たとえば夕飯とか。連休前夜ってことで僕の好きなお弁当屋でちょっとした贅沢もありだ。


「……」

「……」


 正面からの視線を感じて顔を上げると七海さんと目が合った


「……」


 七海さん完全に手を止めちゃってるけど、これは注意していいのだろうか……。頬杖なんかついちゃってるし。


「楠君ってさ」

「な、なに?」


 声をかけられるとは思わなかったのでバランスを崩しかける。


「ひょっとして不良?」

「違うよ」


 どこをどう見たらそんなワードが出てくるのだろう。そういえば美咲も初めて会った時にヤンキーだとか小馬鹿してきたな。


「遅くまで遊んでたって結城さんが言ってたから」

「あれは確かに事実だけど、ただ単に時間を忘れてただけ」


 訝しげな視線を向けられるが、不良じゃないのは事実だ。


「それならいいけど。ダメだよ、絶対」

「肝に銘じとく」


 心配してくれているのか、七海さんからさっきまでの刺々しさがなくなっている。作業の手は止まったままだけど……。


「僕も七海さんに訊きたいことがあったんだ」

「なーに?」

「今日ジャージの下忘れたの?」

「……え? 今訊くことがそれ?」

「いやだってさ、寒かったらジャージだろうし、暑かったら違う格好するからもしかしてと思って」

「着替えるのめんどくさかったの。はあ……だからさっきから足元ジロジロ見てたんだ」

「そういうわけではないんだけど……」

「見ないでくださーい」


 ずっとこっちを見てた七海さんに言われたくない。


「正面だとどうしても視界に入っちゃうし」

「ふーん」


 言って七海さんは軽い足取りでこっち側に移動してきた。


「じゃあこれでいい?」

「まあ……委員長の気分次第だと思います」

「平山さんはどうせ見てないから大丈夫だよ」


 これはこれで何やらくすぐったい。


「……実は七海さんに相談があるんだ」

「さっきみたいな変な話じゃなかったら聞いてあげてもいいよ」

「ちょっとさ、僕の知り合いが友達と軽い喧嘩になったんだ。それ以来少し気まずくなっちゃって……どうにかして仲直りさせたいんだ」


 我ながらバレバレな嘘だと思う。この手の『知り合い』は大概本人なのだから。


「……知り合いさんがどれぐらい本気で仲直りしたいか次第だよ? 楠くん?」

「そりゃもうすっごくだよ。ずっと悩んでるみたいだし。それとこれ知り合いの話だからね」

「ぼーっとしちゃうくらい?」

「もちろん」


「じゃあたくさんお話するのがいいんじゃないかな? まずは誠心誠意謝る。そしたら今まで知らなかったことを訊いてみたり、知って欲しいことを話してみたり」

「たくさんか……でも……その知り合い同士って中々話す機会がないんだよ」

「うーん……じゃあ会うための口実を作るんだよ」

「たとえば?」

「プレゼントはどうかな? もらって嬉しくない人はいないよ」

「なるほどね。参考になんだけど、七海さんは何をもらったら嬉しい?」

「私? 私はそうだなあ……一生懸命選んでくれたものなら嬉しいかな」

「……結構難しくない?」

「そんなことないよ」


 これ実質ノーヒントだよな。


「でもありがと。知り合いに伝えとくよ」

「絶対に伝えてね! 相手の人もきっと待ってると思うし」

「そうだといいな」

「絶対に約束だよ」


 プレゼントなんてあまり贈ったことないのだけど、相談に乗ってくれた七海さんのためにも一生懸命選んでみるとしよう。

 約束したはいいが、僕と七海さんとで微妙に話がすれ違ってるような……。

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