25.そして…①
仕事帰りに市場によっていつものように食料の買い出しをする。夕方の市場は人が多く、込み合っていて嫌いだ。
空いてる時間帯に行く事も可能だが必ず混雑している時間帯に行くようにしている。
――愛する人を探すために。
物心ついた時から自分が何者で誰を探すべきか分かっていた。成人してからは各地を転々として探し続けているけどまだ巡り会えていない。もしかして会えないのではないかと不安に押しつぶされそうになる時もあるが、諦めずに探し続けている。
俺が前世で死ぬ間際に使った禁術は、古の魔術師がその記憶と魂を来世に引き継ぐために編み出したものだった。膨大な魔力と命を代償にして禁術は成功したので、生まれ変わっても俺は前世で築いた記憶と魂は引き継げていた。
先に死んだ彼女の魂は消えかかっていたので、もしかしたら禁術が完全に効いていないのかもしれない。
俺とは違って、記憶がないかもしれないし魂は引き継いでいないのかもしれない…。
でも記憶がなくてもいい、俺が覚えているから巡り合えたら新たな関係を築けばそれでいい。
――絶対に見つけてやる。
一時間ほど市場をぶらぶらしていたが、今日も見つけることは出来なかった。そろそろこの街ではない所に引っ越そうかと考えながら、家の方角に歩き始めたその時だった。
そこに彼女がいた、ずっと探していた愛おしい人だ、姿が変わっていても俺には分かる。
ああ、見つけた!
彼女だ、間違いない!
俺と同じ年頃の女性が買い物かごを持って前を歩いている。人を掻き分け近づくと声を掛けるより先に彼女の手を掴んでしまった。
びっくりした彼女は振り返って手を掴んだ俺を見ている。
――ドサリ!
買ったものが入っている重そうなかごが地面へと落ちて、中にあった卵が数個割れているのが見えた。
俺を見る彼女の顔は驚愕からだんだんと苦しそうな表情に歪んでいく。
もしかして…喜んでくれないのか…。
「どうして…ここにいるの?はっきり大嫌いって言ったのに、全部嘘だって気持ち悪いって罵ったのに。
離れられて嬉しいって喜んでいたでしょう?あの時の私は。ちゃんと聞いてくれていたよね?それなのになぜ……ここに…」
「うん。ちゃんと全部聞いていたし見ていたよ。俺を嫌いだっていいながら君は辛そうな顔をしていたのも。離れられて嬉しいっていいながら、声が震えていたのも。そして悲しそうに泣き続けていた。
全部ちゃんと見ていたから、分かっていたよ。君が嘘を吐いているのも、俺の事を心から愛してくれていたのも。すべて分かっていたから」
そう言って優しく彼女を引き寄せ抱き締めるが、抵抗はされなかった。




