24.絶望③
俺に殺されることを悟ったのだろう。侯爵夫妻は俺に向かって『愛している!!やり直そう』と喚き始めた。
はんっ、愛しているだと?そんな言葉、初めて聞いたな。
やり直そう?何をだ…?
お前達とやり直すものなんて何もないだろう。
二人の首を真綿で締め付けるようにゆっくりと締め付ける。すぐには楽にしないつもりだったのに、呆気なく息絶えてしまった。
チッ、もう死んだか…。
最後までがっかりさせる奴らだったな。
次にあの女に目をやると恐怖からか失禁してガタガタと震えている。
「ご、ごめんなさい…。何でもするから…ゆ、許してちょうだい。あ、あれは本当に事故だったのよ。エリザベス様が転んでナイフが刺さったの。そ、それで偶々私が助けようとしたら周りが勝手に、そうよ、勝手に勘違いしただけなの!私は助けようとしただけだわ!アレクサンダー様、私はあなたの子を産んだのよ。あの子から母親を奪うのですか?
これから家族三人でエリザベス様を偲びながら暮らしていきましょう、ねっ?」
どこまでも醜く勝手な女を前にして怒りが抑えられなくなった。リズを直接殺したこいつだけは少しずつ切り刻みながら時間を掛けて殺そうと思っていたのに…。
ボンッ!!
『ギャアアアアア---』
一瞬でロザリンの身体は真っ青な炎に包まれ、その高温ゆえにすぐにその身は炭になってしまった。
呆気ないくらいに復讐は終わってしまった。人を殺したというのに何の感情も湧いてこない。あるのは『無』だけ。
俺は横たわるリズの傍に行き、その傍らに膝をつく。もうその身体は冷たくなり『リズ』と話し掛けても何の反応も返ってこない。
リズの冷たくなった頬を優しく撫でながら、禁術の術式を詠唱していく。やる直す時間も魔力もないからこれが最初で最後の機会、失敗は許されない。
間違いがないようにゆっくりと確実に術式を紡いでいく。
すべての詠唱が終わった…。
ゴッホ、ポツン…。
怪我などしていないはずなのに、口から血が滴り落ちてくる。
膨大な魔力を持つ俺でも流石に禁術を行うのは命という代償が必要だったらしい。まあ生き延びられても、その時はすぐさま自ら命を絶つつもりだったから手間が省けただけだ。
力が抜けリズの横に転がるように倒れる。自分に死が近づいていることに安堵こそすれ、恐れは感じない。
血と花びらの中で横たわるリズと自分。
傍から見たら悲惨な状況かも知れないが、俺は再び幸せを感じていた。
これでリズと一緒にいられる。
俺達の愛は永遠だから、いつまでも一緒にいようリズ。
愛している…。
絶対に一人に…しない…ら。
自分の死に顔は見ることは出来ないが、これだけは分かる。俺は安らかな顔をして死を迎えているはずだ。




