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69話 来客

あやは俺の部屋で泊っていった。

彼女は俺の部屋がお気に入りなので、客室に泊まろうとしない。

それの意味するところは、男女が一部屋で夜を明かすということである。

気恥ずかしいやら、嬉しいやら、嬉しいやら、めちゃくちゃ嬉しいやらで、ほとんど眠れなかった。


朝、よく眠れたーと元気な声を出すあやの隣で、俺は目の下にくまを作っていた。

これで今日も泊まるとか言われたら、これは大変である。

また嬉しいやら、恥ずかしいやらの葛藤が始まってしまう。

滅多にない機会なので、たまにはいいかもしれない。


一緒に朝食を取ることにして、食事は文月大夜が持ってきてくれた。

あやが泊っていったことは知っているので、二食用意してくれている。

我が家は基本和食である。

今朝も小ぶりのイワナの塩焼き、それに漬けた梅干しに、冷奴、雑穀米に味噌汁とかなりシンプル。

けれど、これが美味!


「美味しいー」

うっとりとした顔であやが言っているように、うまいんですよ、本当に。

焼き魚がうまいことは言うまでもないのだが、我が家は漬物と味噌汁がとびっきりうまい。

きっと魚はいいものを買っているだろうけれど、梅干しと味噌汁はここまで差が出るのかというほどうまい。

両方ともそれほどまでに塩っ気が効いておらず、しかし口に含むと味わい深いものが広がる。

梅の酸っぱさは殺し切らず、それでいてほんのり甘く、かつお節の香りもする。

味噌汁は少し甘みのあるタイプで、優しく胃に染みわたり、みそ本来のうまみが感じられた。

「美味しいなー」

気が付けば、あやと似たようなうっとり顔になり、そして似たようなことを言っていた。


「大夜はもう朝食摂ったの?」

「ああ、一時間前に。その後で春鷹様とあやの食事の準備に来たんです」

「へえ、偉い」

ほんとにね。


「今日も一緒に遊ぼうよ。ねえ、いいよね春鷹?」

もちろん俺はいいのだが、使用人は使用人同士の付き合いもあるだろうし、あまり誘い過ぎるのもどうかなーとは思ってしまう。

そんなことを思っていると、先に断れれてしまった。


「今日は仕事に専念します。いつまでも春鷹様に甘えていれませんので」

「えー、残念」

「まあ仕方ないさ。あやのお父さんは今日もいるの?」

確か昨日は泊っていったはず。

あや同様、パパ上も水琴邸がお気に入りのご様子である。


「どうせ汚い話がたっぷりあるから、まだいると思うよ」

「ならたっぷりと一緒に過ごせそうだ」

ここにいてくれるのは非常にうれしい。

特にやることもないが、課題を持ってきたらしいので一緒に取り組むことになった。


俺と同様に、彼女も非常に優等生であるので、課題に取り組む姿勢は非常に真面目であった。

涼しい風が流れる中、静かに課題を進めていった。

わからないところは助けい合いながら、疲れたらちょうどタイミングよく文月大夜が茶を淹れてくれたりする。

おかげで、たったの数日で課題の半分ほどが消化されてしまった。

これで夏休み明けにクリスティン先生にぐちぐち言われることもほぼ回避したと言っていいだろう。


課題に取り組んでいる間、少し水琴邸内が慌ただしく感じられた。

何か急な来客でもあったのかと思っていたが、お茶を差し入れにきた文月大夜を捕まえて聞いてみた。


「トーワ魔法学園の理事長と、魔法省の偉い方が急遽お見えになったようです」

「ほう、また凄いメンツだ」

「うちの理事長までお金の相談かしら……春鷹パパも大変ね」

要人が集まれば金の話だと思っているあたり、あやはいろいろとそういう汚い部分を見てきたのかもしれない。俺はまだそこまで達観しておらず、一体どんな話し合いが行われているかとても気になった。


ダークを使って探るという方法もあったのだが、それは少しやり過ぎかなと思い、気になりはするが探るようなことはしなかった。

けれど、思わぬ展開になる。

女性の使用人が部屋に来て、俺を呼びに来たのだ。


「当主冬之介様がお呼びです」

「俺を?」

「はい、春鷹さまをです」

何の用かと考えたが、思いつくはずもない。

素直に使用人に着いて行き、父たちの話し合いの席に通された。


席には既に4名座っていた。

父冬之介、トーワ魔法学院理事長灯和秀則、高身長の男があやのお父さんだろう。目元が凄く似ている。そして最後の一人が魔法省の人間か。

ざっと見て、かなり凄いメンツだ。


この国を背負っている人材が集う場に呼び出されてしまい、若干緊張を隠し切れない。


「春鷹、よく来た」

一番に声をかけてくれたのは学園理事長の灯和秀則だった。

理事長は実は俺の名付け親で、影から俺のことを見守ってくれている人でもある。

秘書の田辺を苦手としているので、我が家にこうして訪れるのは少し意外であった。


「どこから話したものか……。面倒だ、冬之介、お前から頼む」

任されましたと父は快諾し、場を仕切った。

大企業のトップなのに軽々と引き受ける父である。

それだけ理事長への尊敬もあるだろうし、二人の関係性の良好さを表している。

何より父は日頃からフットワークの軽さをモットーにしている。

偉くなったからと言って、偉そうにしてはならない。よくそんなことを言っていたな。


「総理大臣、魔法省副代表、それにトーワ魔法学園理事長、御三方が是非にお前のことを見てみたいとおっしゃってな。わざわざ呼び出した訳だ」

「私をですか?」

正直心当たりは全くないので、困る。

そんな表情が出ていたからか、皆が申し訳なさそうに苦笑いした。

ていうか、早瀬パパは総理大臣なのか。

そういえば、現総理って早瀬賢三郎だったな。苗字が一緒の時点で少しは気が付くべきだったかも。


「まず、総理閣下の要件から。他愛もない洒落だ。娘を嫁にどうかって、申している」

「はっはは、自慢の息子をとってしまうのは申し訳ありませんが、どうですか?うちの娘も悪いものじゃないでしょう」

おっさんが二人して楽しそうにそんなことを話していた。

ここは少し照れて、いや抗議した方がいいのかもしれない。

だがしかし!


「是非によろしくお願いいたします!」

欲しいものがあるのなら、頭を下げて頼むべし!

堂々たる懇願!

娘さんのあやは私がもらい受けます!


「はっはは、こりゃ参った。冬之介様の息子は大層器が大きいと見える。つまらんおじさん同士の冗談に突き合わせてすまんな」

「いやはや、意外と冗談のわかる息子でホッとしております」

おい、おっさんども。

何冗談で済ませてんだよ!

こっちは本気だ。

いつ恋人ができるかもわからないこの身の上。若いうちに言質をとっておこうというこの器の小さい作戦を理解せい!


「まあ戯れはこのくらいで。本命は、理事長殿と魔法省だ」

二人の紹介をされるが、理事長は当然知っている。

もう一人の眼鏡をかけたインテリ女性、名を井川真理といい、現魔法省のナンバーツーであるらしい。


「よろしくね、ハンサムさん」

「いえ、ありがとうございます」

はい、好き。

このお姉さん好きです。

魔法省のお偉いさんとかどうでもいいので、我が家にちょくちょく来てくれるといいな、そう思った。


魔法省とは、この世界におけるエリート中のエリート組織である。

トーワ魔法学園を優秀な成績で卒業した者、そういった限られた人材のみが入れるスーパー上な人達なのだ。

見たところお姉さんはアラサーくらいのご年齢。その年齢で魔法の最高機関であるナンバーツーとは末恐ろしい。

魔法の秩序も、新しい魔法の創作も、そして魔法の起源の研究も、魔法に関することはほとんど魔法省からの指示で動いている。

その中でもトーワ魔法学園はこの魔法省から少し管轄が外れている。

詳しい事情は知らないが、両方とも力を持つ機関だということには違いない。


「理事長と魔法省はこの国の魔法の安全管理を担当されている。定期的に大規模な魔法測定が行われるのだが、今回その測定に大きく反応があった。反応レベルというのがあってな。最大で5レベル。これは魔法の根底を揺るがしかねない、それほど大きなことが起きるかも、とされる警戒レベルだ。それが出てしまった」

「はて」

少し規模が大きくて、あまり現実味がないな。

魔法測定とやらも、警戒レベルとやらも初耳だ。


「それが私となんの関係があるんでしょうか?」

父との会話だが、一応要人たちがいる前なので礼儀正しくした。

「測定された結果の中心地が、ここ水琴邸だったらしい。この家で優れた魔法使いは私とお前の他にはいない。そして私は現在、魔法よりも会社経営に身を捧げている。警戒レベル5、変革をもたらす可能性があるとしたら、春鷹、お前じゃないのかという話になっている」

「はあ……」

やべ、清掃ロボットの先輩たちの企てがバレるかもしれない……。

腐れ人間共は一度滅ぼさねばならんのだよ!

どんな拷問が来ようと、俺は秘密を口にはしません!

先にあの世で待ってます!


冗談はこのくらいにして、俺はもう一つ有力な方を思い浮かべていた。

その警戒レベル5、変革をもたらすかも知れない魔法使いへの心当たり。

タイミング的にも俺ではなく、文月大夜ではないか?という可能性だ。

「私だったらどうなるんでしょうか?」

父に質問したが、視線を井川さんへと向ける。

彼女が引き継いで、説明してくれた。

「詳しいことは決まっていませんが、監視の目はつくでしょう。なるべく日常生活に配慮して監視をつけない場合、休みに魔法省に出向いていろいろと調査する、という形になるかもしれません。とにかく、詳しいことはまだ決まっていません」

休みは中華屋でバイトがあるし、スカイフットボールの練習もある。

先輩方からの急な呼び出しもあるし、それは非常に困る。

監視の目が向けば、アジトの場所だって危うい。

ここは、意地でも思い浮かんだもう一人の説を立証して見せよう。

我が花の学園生活の為に!

「……私じゃないと思います。一人心当たりがいるので、連れてきます。少々お待ちください」


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