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68話 構想

ボールを宙に投げて、ヘディングした。

しばらく自分のところでキープして、あやへとヘディングでパスを送る。


なぜかあやも頭でポールを受け取り、同じようにヘディングでボールを頭の上でしばらく維持した後、今度は無事参加できた文月大夜へとパスを送る。


完全に縛りプレイと化して、文月大夜ももちろん頭でパスを受け取り、ヘディングしていく。

「春鷹様!」

「ほい」

パスが帰って来たので、再びヘディングでしばらくポーンポーンと頭の上でボールを跳ねさせて、あやへと質問を飛ばす。

「あや、今日はまたどうして急に?ほい、パスー」

質問と同時に、パスも。

もちろん頭で受け取ったあやは、同じく頭の上でボールを跳ねさせながら答えてくれた。


「うん、お父さんがね。春鷹のお父さんに用があるの。うちの親政治家だから、金持っている家にはよく行くのよ。癒着よ、ゆーちゃーく。マスコミに情報を流そうかしら。あー、お金の匂いがプンプンするわ。はい、大夜」

「サンキュ、あや」

いつの間にか下の名前で呼び合う仲になったのか……、ハウツーを伝授していただきたい。


「あやの家は政治家で、春鷹様の家は日本を支える一家、いやーなんだか改めて場違いなところに来たなって感じです。春鷹様!」

ボールが帰って来た。

「場違いなもんか。スカイフットボールを愛すものに壁はなし。ほい、あや!」

ボールがあやへ。


「おっ、いいこと言うー。そうそう、お父さんたちもちまちました駆け引きしてないで、スカイフットボールで決着つけたらいいのよ。はい、大夜!」

ボールが文月大夜へ。


「そんな世界があったらいいですね。それにしてもあやと春鷹様、うまいですね。魔法の素養がなくとも、技術じゃ負けてないと思ってたんですけど、技術面でも負けているかもしれない。はい、春鷹様!」

ボールが帰って来た。そろそろ首が痛いかも。


「大夜さんこそうまいですよ。俺たちは毎日やってたから。ほい、あや!」

ボールがあやへと渡る。


「そうそう。ボールの扱いが大夜は相当うまいよね。じゃあ、足技はどうかな?はい、大夜!」

ようやくヘディング縛りが解けて、ボールを足で蹴って渡す。

後二周あったら俺の細い首が折れていたかもしれない。


あやからのパスを、文月大夜はスーッとボールが吸い込まれるかのような足さばきで受け取る。ポーンポーンとその場で簡単にするリフティングも、動きの一つ一つが滑らかで美しい。

「「おおっ!?」」

思わず感嘆の声が漏れる。

マジで凄い才能を見つけちゃったかもしれない。


「どうかな?俺もいけるだろ……あっ、行けますよね?はい、春鷹!」

ボールが帰って来て、足で受け止めた。

足元の技術なら、こちらも得意である。


「大夜さん、今くらい敬語はなしでいいよ。ていう、普段も二人きりの時は全然ため口でOK。ほい、あや!」

あやも難なくボールを受け取る。

「そうそう、春鷹様なんて堅苦しいよ。私たち同じ学校だったら絶対一緒のスカイフットボールチームになってたし、ここはメンバーで呼び合おうか。はい、文月メンバー!」

……それはちょっと、あれな感じになっちゃうからやめない?


「大恩ある春鷹様にため口はきけません。それにしても、二人こそ信じられないくらい凄くうまい!少し自信なくすかも。ああ、想像してしまう。同じチームでプレイ出来たら、俺それ以上の喜びはないかもしれない!はい、春鷹様!」

ボールが再び帰って来た。


「あやは中等部のMVPだからね。そりゃうまいよ。はい、あや」

「春鷹だって得点王じゃん。はい、大夜」

「学生リーグ最強トーワ魔法学園のMVPに得点王か……。一緒にやりたいけど公式な大会じゃ、補助器具の使用はみとめられない。ああ、なんで俺には魔法の素養がないんだ。はい、春鷹様」

確かにそれは思ってしまう。

しかし、彼はいずれ魔法の力に目覚めることになる。

それまでしばしのお預けである。


ただ、俺もだんだん彼と同じ気持ちになりつつある。

あやもそうじゃないだろうか?

文月大夜の才能は間違いなく天才と呼ぶことにできるレベル。

こんな男がチームに加わった日には、我がチームカフェルオンの未来は輝かしいことこの上ない。なにより、一緒にプレイしたら楽しいだろうなー。無双する我らのチーム、そんな想像が容易にできてしまう。


文月大夜と水琴春鷹。

この因縁がなければ、俺は更に彼を心から受け入れることができたのに。

まあ、仕方ない。

どうしようもないことは、どうしようもないのだから。


今この楽しい時間を無駄にせずに、しっかりと楽しもう。

3人で炎天下の中しばらく遊んで、クタクタになってしまった。ちょうど文月大夜の休憩時間も終わったので、俺たちは一旦中へと戻った。


あやと二人で縁側でゴロゴロしていると、文月大夜が程よく冷えたお茶を持ってきてくれた。

「麦茶です。しっかりと水分補給をしておいてください」

「サンキュ、ちょっと座りなよ大夜。いいよね?春鷹様」

いたずらっぽくあやが笑いながらそんなことを言ってきた。

「仕方ない。女王陛下の仰せのままに」

「だそうです。主の命令だよ、こっちきんさい」

ほとんど強制的に座らされる。

あやを挟んで、俺たち二人の視線が集まる。


「じゃあ、作戦会議に入るよ」

「なんの?」

「そりゃスカイフットボールのよ。大夜はどこのポジションやるの?」

「センターだ」

「マークのポジションね。ふふふ、技術じゃ大夜の方が遥かに上、フィジカルはマーク。どっちを使おうかしらね」

まるで文月大夜の入学及びチーム加入が決まったかのように話を進める。まあ、この手の話が面白いことは否めないが。

これはちょうどいいタイミングと思い、ずっと言えていなかったことを暴露してみた。


「あや、その前に少しいいかな?」

「なに?急にかしこまって」

表情に出てしまっていたか。

「その、守君がチームを抜けるって。すまない、なかなか報告しづらくて」

最強ゴールキーパーの脱退、それにチームメイト思いのあやにはショックが大きいと思って、俺がずっと言い出せなかったことだ。


「……そっか。まあ、春鷹も、マーク達も、それに見えないけど影薄君もいるから、いいか!」

思ったよりあっさりしていた。

いや、それは表面上であり、やはり少し気分が沈んだようにも見えた。

「あと……」

「まだあるの!?」

やはり堪えているようだ。追撃は申し訳ないが、こっちは大事ではない。


「マークが大きく自身を失っているみたいだ。センターポジションを続けていく自信がないって」

「マークがね……。よし!じゃあ、マークがゴールキーパーね。ふふふ、空いたポジションには、大夜をおいちゃうぞー」

切り替えは意外と早かった。

センターでの自信を失ったマークをゴールキーパーに。

センターには天才文月大夜を!

素晴らしいアイデアだ。大賛成……とはいかない。だって、文月大夜は入学しないから。


「うちはね、基本的に超攻撃的なチームなの。守備への切り替え時、マークへの負担が結構かかってた分、大変な仕事を押し付けてたわね。大夜にもそのへん覚悟してもらうよ」

「……うっす」

まあ、水を差すこともないか。


「特に、起点になるポジションだから、攻撃にも力は当然入れてもらう。右の影薄君はバランスタイプね。守備も頑張るし、献身的なプレーも多い。逆にエゴがないタイプね。右から崩されることもないけど、右から崩すパターンも少ない」

「うんうんうん」

あやの説明に、文月大夜は見てきたかのように思いをはせて、楽しそうに頷いていた。俺も側で聞いていて、改めて自分のチームのことを思い出す。良いチームである。


「うちの一番の攻撃手は左の春鷹。ロングシュートは既に高等部でも通用すると思うし、高い速さでドリブル突破も可能。競り合いには弱いからパスの位置には配慮が必要。一番の攻め手だけど、守備に追い付かないことが多かったわね。春鷹がMVPを逃したのはそこらへんね。守備のサポートは常に心掛けて」

「春鷹様は攻撃の名手か……」

守備の点を突かれると痛い。とても痛い。

俺の超攻撃的ポジションでのミスから失点というのが何回かあったからなー。


「守備のマーティンとマーチスは堅実なタイプね。たくましいフィジカルを上手に使っているわ。前にいる大夜が相手の攻撃コースを絞ってあげれば、マーティンとマーチスは最大限に力を発揮できるわ」

「マークが……あれ?マーティン?」

それは仕方ない!

顔を見れば覚えられるから!ジムに行けばブラザー!飯を一緒に食えばファミリー!


「私とは縦のラインを作るわね。パスを入れてくれれば、キープもできるし、ディフェンスの裏へ一本パスを通してくれてもいいわ。私が囲まれたら、大夜に下げてロングシュートなんてのもありだし、駆け上がってディフェンスを追い抜いたらパス出してあげる。中央にディフェンスが集まって二人とも囲まれたら、左サイドを見てみて。大抵いやらしい顔で上手に春鷹がフリーポジションにいるから。それで一点よ!」

あやの言う通り、全員の集中が中心部に集まると、俺は守備の心配がないと見るやサイドに開いてパスを受けやすい位置にいる。ロングシュートの圏内に立つので、長所が爆発するわけだ。

しかし、まさかいやらしい顔をしているとは……気をつけよう。


「ああ、やりたい!そのチームに入りたい!」

「じゃあ入りなよ。ていうか、入ろう!」

「ははっ、気持ちは嬉しい。本当にうれしいけど、俺には魔法の素養もないし、学力もない。到底無理だ。春鷹様に仕えているくらいがちょうどいい。……じゃあ、仕事に戻ります!」

俺たちが止めないようにか、文月大夜は走って戻っていった。


……どうにかならないものか。距離を取らねばならないはずなのに、そう考えてしまっている自分がいた。

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