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62話 夏の訪れ

灰直全との戦いを終えて、季節は夏へと一気に加速していった。

ついこの間まで肌寒い日々が続いたかと思ったら、今度は半袖でも汗が止まらなくなる気温がやってきた。

照りつける日差しが、か細い俺には常に大ダメージである。

日傘が必要そうだ。今度買っておこう。


こういった日は室内でエアコンで当たりながら真面目に勉強するに限る。

テストでいい点を取るのが何よりも学生の本分だからな。エリートらしくちゃんと頑張るとしよう。


そうそう、灰直全とはあの戦いの後正式に友達になった。

結構ツンデレな奴で、たまに放課後廊下で待ってたりする。

おせーんだよ、と文句を垂れた後にきっちりとこの後どこ行く?とお誘いしてくる可愛い奴なのだ。


大抵はスカイフットボールの練習があるので、遊びには行けない。

一緒にチームに入るか?と誘うものの、そんな青春に興味はないらしく、彼はいつも俺たちの練習を見守っているだけだった。


「春鷹、あの目つきの悪い人チョー怖いヨ」

本当に何も言わずに見ているだけなので、マーク辺りは結構怖い思いをしている。

見ているだけじゃ面白くないだろうからと思って、マネージャーの仕事を振ってやると、結構マメな男だったようで、せっせとマネージャーの仕事に励みだした。


選手の特徴や、スコア、更には統計データなんかも集め出し始めて、気が付くと完璧にマネージャーの席に座ってしまった。

「全君、今日の私のシュート数は?」

「ん、16」

コミュニケーションお化けのあやなんかは2、3日で下の名前を呼びあう仲になって、新しく誕生したマネージャーをフル活用し出していた。

流石コミュニケーションお化け。


全は基本ツンデレなので、マーク達にジムに誘われると、行かねーよ!と声を荒げて断ったりする。

けれど、後で俺の方にひっそりと来てこう呟くのだ。

「おい、春鷹、お前はジム行かないのか?」

「え?」

何この行きたそうな感じ!?


せっかく皆と打ち解け始めたし、ブラックだった灰直全も徐々にその色が抜け始めている。

なので、俺は初めてマーク達のジム通いについていくことにして、灰直全も嫌々仕方なくという形でついてくることになった。


マーク達はジム通いが慣れているので、器具を上手に使いこなしている。

俺たちはまだ素人なので、ランニングマシンから使用することになった。


近くで笑顔で手を振ってきてくれているのは、担任のクリスティン先生。

スタイルを保つために彼女も来ている。あの美しさの裏では、こんな努力を……。素晴らしい精神だ。


ちなみにマーク達の側では、なかなか器具を上手に使いこなして筋トレをしている影薄君の姿も見えた。

あの様子だと以前から来ているようだけど、誰にも存在を認識されていない様子。実は一緒に来てたんだね、影薄君……。相変わらずである。


充実した日々が過ぎていく中、三瀬先店子からも連絡が入った。

どうやらあちらはあちらで、筒抜黒波をぶっ倒したらしい。


秘密を握って、拳で一発どついたったわ!と嬉しそうに報告してきた。

改造ショップに秘密を握られるなんて、恐ろしいことである。

まあ、喧嘩を売る方が悪い。

三瀬先店子の秘密も無事守られ、改造ショップもこれでひっそりとだが学園で商売を続けていくことができる。


こうしてダークマスター同士の戦いは、俺と三瀬先店子の連合が無事に勝利した。

灰直全は俺の友達に、筒抜黒波はしばらく改造ショップの為に働かされることになるのだろう。

万事うまくいったとはこういうことを言うのではないか。


俺たちのスカイフットボールチームは、全が加入以前から強かったのだが、いよいよその強さに歯止めが利かなくなった。

俺が守備をさぼり気味なのも、全の出したデータでしっかりと判明してからは、守備も必死に頑張るようになった。

日を重ねるごとに強さが増して行くチームは、上級生徒の試合にも負けなくなり、中等部最強の呼び声も高い。


前期課程で行われた公式試合10戦で、9勝1引き分けという圧倒的な戦績を収めることに成功した。

ちなみに、得点王に輝いたのはこの俺だ。

すまないね、美味しいところは頂きました。

合計31得点、一試合平均3点という驚異の点取り屋である。


まあ、攻撃魔法値が飛びぬけているし、練習も頑張っていますので。

結界は努力の後に付いてくるもの!


MVPはスカイフットボールの化身とも呼ばれる早瀬あやがその座に輝いた。

どうやらチーム内の俺との一騎打ちだったみたいだけれど、水琴春鷹にはMVPを取らせない!という力でも働いたのかな?嫌われ者のつらいところである。


もしも俺にも投票権があるのなら、金持ちのエリートで悪さばかりしてきた男よりも、健全な美少女で誰にも壁なく接する早瀬あやに投票する。間違いなく!


MVPがあやでよかったよ。変に嫉妬せずに済むというものだ。

一度くらいは取ってみたいけど、また次のシーズンに守備も頑張って取れるようにしよう。


順風満帆である、と言いたい感じなのだが、いいことの後には大抵変なことが待っている。

それが水琴春鷹の人生である。


そして、それを告げるかのように、マークから連絡が入った。

『春鷹、真剣な相談があるよ』


マークは過去に何度かやらかしていることがあるからな。

実に怪しい案件だ。

もちろん相談に乗ると返信した。


この連絡を受けた時、全と一緒にアイスクリーム屋さんに並んでいた。連絡内容を聞いた全も一緒に行くとのことらしい。

俺と同様、全も皆と打ち解けたいと思い始めているらしい。

相談に乗るのはいい兆候だよな、と思う。


俺たちは彼女のいない暇な男二人組だからな。こうしてスカイフットボールの練習後に、カップルが沢山居並ぶ中、男二人でアイスクリーム屋の行列に並ぶというタフな精神訓練を行っている。

ちょっとやそっとの相談ごとなんて、楽に聞き入れて解決してやる器量は持っているのだよ!


「全君も、聞いてくれますか?」

「ああ、話せ」

こっちから向かうと言ったのに、マークの側からアイスクリーム屋まで出向いてくれた。

海の見えるおしゃれな広場では、カップルたちが楽しそうにアイスクリームを食べている。


そんな中、男三人で横並びでアイスクリームを食べているのは、なかなかに寂しい絵面である。


「僕最近、自分に才能がない気がしてきたよ。あ、スカイフットボールの話です」

どうやら、マークはチーム内での自分の実力が不足しているように感じているらしい。

いくつか具体的な例を挙げて、その自信のなさとなる根拠を示していた。


そんな話か……と一安心したのは隠しておこう。

彼の場合、もっと大事な場合があるから、結構警戒してた。


しかし、マークが実力不足だということは一切思っていなかった。

ただ、言われてみれば、確かにそんなミスシーンがあったなと思い返す。

そして、やはりミスが多いのは、マークのイメージだということを今更ながら俺も思い返す。


始め、一番実力で怪しかったのは影薄君だった。

しかし、毎日練習を真面目にこなし、実はジムにも通っていた彼は、着々と実力をつけて今じゃ誰にもまねできないスキルを体得しつつある。

正面から近づいて、相手からボールを取るという離れ業だ。

あの存在感の薄さがなければ不可能な芸当。

正面から来てなぜ気が付かない!


そんな離れ業だけでなく、地の実力も影薄君はすごい勢いで成長を遂げている。

今じゃ足を引っ張っていたという記憶が薄れつつあるほどだ。


誰が一番実力が怪しいか考えると……やはりマークになるな。

俺やあや、そして守君は実力が抜けている。

影薄君は前述のとおり。

マーチス、マーティンは非常に堅実な守備で高い評価を得ている。

実際、ベストメンバー表彰で、マークだけが格ポジションのベスト3から漏れていたのだ。

センターポジションランキングで、マークは8位だったはず。

一人だけやけに低かったな。

これは……上手に励まさなければ!


マークはミスが目立つが、その真面目なプレーはきちんとチームの力となっている。

いい点を上げてやらねば、と思っていたのだが、全の野郎が余計なことを口にする。

「データを出して知っていた。マークだけミスがみんなの倍はある」

「やっぱりよー!僕、才能ないよー!」

頭を抱え込んでうなだれるマーク。

彼は繊細なんだ。全、気を付けたまえ!


俺の形相で理解したのか、全は遅れてマークに謝りだしていた。

しかし、マークの機嫌は治らない。

どうしたものか。とりあえず、食べかけのアイスをあげた。

チョコレート味を味わって、マークはちょっとだけ喜んだ。簡単な奴である。


二人でマークの愚痴を聞いてやることで、その場は何とかマークをどん底から釣り上げたのだが、今後もっと根本的なケアも必要になってくるだろう。

実力がぐんと伸びる方法でもあればいいのだが……。


マークと別れた後、全とも別れて寮の自室へと戻っていった。

そこへ、今度は守君から連絡が来た。

『大事な話があるから今から行っていいかい?』

今度はなんだ、あんまりいい話じゃない気がしたが、もちろん了解した旨を伝える。


不吉な知らせなのか、さっきまでまぶしいくらいに張れていた空が、突如曇りだした。


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