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58話 巨悪

停学と休みが明けて、学園にいつも通りの日々が戻ってくるのだが、朝から俺のデスクに重要通知が届いていた。

モニター上に表示されているのは、中等部生徒会からの呼び出しであった。


重要案件とあるので、またも何やあるらしい。

……アイドル活動でもバレたか!?


ドキドキな気持ちを抑えながら、指定されていた放課後に中等部生徒会室へと向かった。

高等部生徒会室には行ったことがあるが、中等部のは初めてだ。


時間通り生徒会室についた俺は、ノックをして入室する。

部屋の中は高等部生徒会室と似たような作りで、部屋にはやはり大きなテーブルがあった。

そこに座っている6人が現生徒会のメンバーである。


一番奥には生徒会長の東条蓮が座っていた。

高等部生徒会は花崎雪美がトップなだけあって、多少雰囲気が緩かった。

しかし、ここは真面目な東条蓮がトップに立つ場所だ。

彼女がメンバーを選定しているからか、他の生徒からあふれ出す堅苦しいまでの真面目オーラ。

……少し息がしづらい。


「水琴春鷹君、優等生なあなたにふさわしくない行動が最近目立っていますね」

「うっ……」

その通りなので反論しようがない。

授業こそいままで通り糞真面目に受けて、積極的に先生の補助役を買って出ている。

奉仕活動もいまだにさぼったことはない。


「タバコの事件に、それに朱里さんとの一件」

中華屋バイトのことは言葉を濁してくれた。ありがとうございます。

「あなたらしくもない。それに本日呼び出したのは、別の件もまた疑惑が出てきたからです」

アイドル活動か……。

どう弁明すべきか。


「先日あなたのランカー加入時に瞬間移動スポットの使用を許可しました。ランカーに与えられた権限ですが、乱用は禁じられています。多少の使用は可能になっておりますが、先日匿名での使用ログが生徒会へと送られて来ました」

「はあ……」

あれ?

アイドル活動のことじゃないのか?

瞬間移動スポットの話になってしまい、正直戸惑っている。

あまり心当たりがないからだ。


「どうやらシステムがハッキングされた形跡があり、ID不明者の利用が多数見受けられます」

うっ、先輩方のことじゃないか。

先輩方は瞬間移動スポットのハッキングに成功しており、そのシステムを完コピして、さらに新しく自分たち専用の瞬間移動スポットを増設している。

技術力が半端ない。

しかしログを残すなんて、詰めが甘いぞ。この後しっかりと報告してあげないと。


「学園側が設置した瞬間移動スポットを使った場合、使用者のIDと元の場所、飛んだ先の場所のログが残ります。不思議なことにID不明者の利用時、場所のログも一切残っていないのです。送られてきたデータによりますと、場所ログが取れない利用者が、ID不明者以外に一人だけいたのです」

冷や汗が止まりません。

完全に俺だ。

詰めが甘かったのは俺も同じか。

先輩方はポイントを増設しているから、場所ログが残らなくて当然だ。

公式には存在しない瞬間移動スポットだからな。


「あなたですよ。水琴君。しっかりとログの取れているデータと、場所のログがエラー表示される2パターンあるのですよ。あなただけね」

「うっ……」

先ほどからうめくような声しか発せていない。

非常にまずい。

「生徒会では以上のことから、あなたが瞬間移動スポットをハッキングしたのではないかと推測しています。一体どういった理由があるかわかりませんけどね、これも仮説が出てきました」

ふう、ハッキングしたのが俺という予測か。

先輩方の影が見えていなくて一安心だ。

瞬間移動スポットが増設されたのもばれていないとみていいだろう。


「なんでしょう?」

とりあえず、予測を聞いてみた。先輩方の野望を見抜かれた訳では無さそうだけど。


「あなたの利用ログに一か所、授業中の利用があるんです。IDも場所のログも残っています。学園内の瞬間移動スポットから、倉庫街へと飛んでいますね。ここからいろいろ推論を働かせました。この日、北の倉庫街で危ない薬を打っていた犯罪者集団が一斉摘発を受けています。この先を言う必用はありますか?」

あるでしょう!

待ってくれ、俺が巨悪に手を染めている感じになっていませんか?


授業中に瞬間移動スポットを使用したことはあるが、それは先輩方から助けてと言われたから行っただけのことだ。

巨大うんこをしたという汚名まで背負ったんだぞ。この上さらに、巨悪にまで手を染めたと判断されたくはない!


「待ってください。本気でそう思っているんですか?」

「私は、あなたのこと結構好きだったんですよ?水琴君。けれどね、このタイミングで理事長灯和秀則が私たちにこう言ってきました。『水琴春鷹の行動には目を潰れ』と。まさか理事長まで抱き込んでいるとはね。規模の大きさが遥か上ね」

理事長タイミング悪!

あの人は田辺が怖いのと、水琴家から来る支援金を頼りにしているだけだから。

研究欲の熱いあの人のことだ、研究費はいくらあっても困らないのだろう。

それを減らされたくなくて、生徒会にそんなことを言ったことを俺は知っている。

けれどタイミングわるっ!!

明らかに俺がプレッシャーをかけたみたいになってるから。


「それはですね……。あー、うまく説明できない。でも信じてください。巨悪なんかに手は出していません」

「IDと場所まで誤魔化しておいて、隠したいことがないとは言わせないわ」

隠したいことがあるのは事実だ。

先輩方の野望を表に出すわけには行かない。


「あなたの真面目な生活態度や、仲間思いなところ、いろいろいい話を聞いていたのに全て作り物だったのね。失望したわ」

上手に反論できる気がしないので、あわあわとするだけである。

どうしようか。

まあ嫌われるくらいなら別にいいかもしれない。具体的な処分を口にしそうな感じもないし。


「朱里さんにも言っておきますからね。あの人は見た目こそ不良を装っていますが、中身は純粋ないい人なんです。あなたのような悪に染めさせはしません!」

なぜ金髪さんにまで報告を!?

止めてほしい。せっかく中華屋バイトで仲良くやっているというのに。

金髪さんなら俺の話を信じてくれるだろうか?それとも東条蓮の妄想を信じる?


……とりあえず、爆笑する金髪さんの姿が見えた。

あの人なら大丈夫な気がする。


「はあー、信じてと言っても無理そうなので、下手な弁明はやめておきます」

「ええ、下手な嘘で騙される私たちじゃないわ。あなたを罰する方法はまだないけれど、私たちがいつでも目を光らせていることを忘れないで頂戴」

「……覚えておきます」

話は以上みたいなので、俺は生徒会室を出ることにした。

東条蓮の隣に座っていた書記が内容をまとめているみたいで、たまたま彼女の使っているスマホケースにネコたまさんが描かれているのが見えた。

金髪さんのリュックサックに描かれているのもネコたまさんだ。

バイトの時に紹介されて以来、実は俺もネコたまさんにはまりつつある。

ネコたまさんとの偶然の遭遇に思わず、少し微笑んでしまった。


「あっ、あの人今笑いました!」

俺が微笑んだのを書記の人に見られたらしい。

「あわわわわ、悪役が罰を逃れて去り際にニヤリと笑うやつです!!リアルに見てしまいました!!」

タイミングわる!

俺の巨悪疑惑がさらに加速しそうだったので、急いでその場から逃げ去った。


とんだ災難である。

最近誰かの為に頑張ったことが裏目に出ることが連続しているな。

はあー、水琴春鷹が持つ不遇の運がまだ残っているのかもしれない。そんなものが本当にあればだが。


「よう」

落ち込んで歩く俺に、廊下の端に格好良く佇んでいた男が声をかけてきた。

今はあまり人と話したい気分じゃない。

誰か関係ない人間なら解けかけのアイスクリームをぶつけてやっても気分なんだ。あまり近づくんじゃない。


「まだジャブだが、結構効いたみたいだな」

「は?」

まだ話しかけてくるその男に、俺はようやく視線を向けた。

そして思わぬ遭遇がそこには待っていた。


灰色の髪の毛と、目つきの悪い視線。

何か楽しいのか、常に上がった口角。

こいつは、紛れもない。ダークマスターの一人にして、ゲーム内最強の呼び声高かった人物、灰直全ではないか。

「改造ショップは守りが固いみたいだから、お前の方を突っついてみたわけだ。いきなり埃が出るあたり、随分と悪事に手を染めているらしい」

ははあ、俺のログを洗い出して生徒会に突き出したのはこいつらだったか。

情報戦が得意な筒抜黒波が裏にいるのだろうな。


「そちらからなかなか攻撃を仕掛けてこないから、黒波のやつからの洗礼だ」

「嫌なダークマスター共だ」

筒抜黒波は一学年上の2年生である。

三瀬先店子と同級生だが、雷さんも含めて3人ともクラスは違う。

この灰直全は俺と同じ一学年。5組だ。

5組には守君やモブ金持ちなんかがいる。変なのしかいないな。


今はちょうどダークマスター同士の抗争中ということもあり、俺にこういう攻撃を仕掛けてきたわけだ。おかげで巨悪のボス、水琴春鷹様になっちまったじゃねーか。今月のみかじめ料払わんかい!!


「三瀬先店子と手を組んだんだろ?いつ攻撃してくるか楽しみにしてたのに、大人しいからつまんねーよ」

暴走することにだけ生き甲斐を感じる彼とは違い、こちらはいろいろと忙しい。

マークの借金問題で危うく内紛危機もあったくらいだ。


「それにしてもお前、なんであんなに瞬間移動スポットを多用していたんだ?」

答えたくないし、答えられないし、答える必要もない。

「北の倉庫エリアなんて、あのポンコツ清掃ロボットの寝床くらいしかねーだろ。わかんねーな。まさか本当に違法薬物の取引でもしてたのか?」

楽しそうに俺を挑発していく灰直全。

暴れたくて、力を持つ者とぶつかりたくて仕方のない彼だ。どうにかして俺に火をつけたいのだろう。


俺としてはしっかりと猶予をもって力をつけ、実力で灰直全を更生させるつもりだった。

この男の根っこは無色透明、周りによっていくらでも色を変える男だからだ。


しかし!

この男は禁忌に触れてしまった。

俺の三大許せない発言の一つに。

これを言ったものは叩き潰すと決めている。


一つ!ダイエットしているんですか?

していない!食が細いだけ!


二つ!彼女いるんですか?

いない!当分できそうにない!


三つ!清掃ロボットってポンコツだよね。

違う!かなりハイテクだし、先輩方への侮辱は俺が許さない。


「馬鹿か貴様。暴れたくて仕方がないらしいな。いいだろう、今週末やりあおう。筒抜黒波諸共仕留めてやるよ」

「はっ、あんなカスなんていらねーよ。それにしもて今の目、いいな。何が火をつけさせたんだ?なあなあなあ!」

「うるさい。場所は俺が指定する」

「ああ、やろう!黒波の奴がそのうち舞台を用意してくれるって言ってたが、話が早くていい!」

今にも飛びかかてきそうなテンションではあるが、何とか自制は効いているらしい。

楽しみにしていればいい。先輩方を侮辱したこと、その身に後悔を刻んでやろう。


「いいね、水琴春鷹。思ってたよりずっといい。けれど、もしも俺を満足させられないようなことがれば……。その時は許さねえ。お前も病院に送った後、退学に追い込む」

満足?病院?退学?言ってくれる。

「灰直全、格の違いを教えてやる。真のダークマスターを見せてやろう」

巨悪の前にどれほど個人が無力か教えてやろうではないか!


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