表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/77

53話 学園理事長

停学中で部屋での生活を余儀なくされているはずなのだが、思わぬところから呼び出しがあった。


それをもたらして来たのは、ちゃんと俺が部屋にいるか確認しに来たクリスティン先生であった。

まずはいつも通りの緩いテンションであいさつをしてくれた先生は、ちゃんと大人しくするように言い聞かせてきた。了承した旨を伝える。

そして停学中に勉学に励めるように課題まで出してくれた。

しっかりと取り組めば成績に反映してくるとのこと。

学園生活を楽しみつつ優等生も目指している俺としてはありがたい配慮だ。


感謝を述べて先生を見送ろうとしたのだが、先生からもう一つ大事な話があると言われた。

「水琴君、いよいよ何か本格的にまずことでもしましたかー?」

「いえ、あまり心当たりはないです……」

先生は微笑みながらも、どこかその顔が作りものなのではないかと思えるような違和感があった。

微笑みから一切表情が変わらないのだ。

本当に心当たりはない。

先輩方の野望を知ってはいるが、腐れ人間共に計画はまだばれていないはずだ。


「ふふふ、理事長が呼んでいましたよ?こればかりは先生、さすがに庇いきれませんよー」

「理事長が?」

「ええ、灯和秀則学園長本人ですよー。先生給料減らされたくないですし、理事長には意見しませんよー」

「そんな!?少しは助けてください!」

「無理ですー。ふふふ、さようならー」

笑顔のまま後ずさりしながら去っていくクリスティン先生。

俺の伸ばした手が先生に届くことはなかった。


理事長本人からの呼び出しだと?

心当たりがないのが、逆に怖い。


灯和秀則とえいば、このトーワ魔法学園を創設した一族であり、ゲーム内の世界では最高の魔法使いと呼ばれていた。

一生徒がタバコを吸っていたというのは確かに問題ではあるが、わざわざ理事長が出てくるとも思えない。

となると、どういうことなのだろうか?

やはり全く心当たりはない。


しかし、まだこの学園にいたいのならば行かないわけには行かないだろう。


重い腰を上げる。

トーワ魔法学園高等部と中等部、その校舎屋上でつなげる一本の橋がある。

その橋の上にポツンと建つ小さな四角い建物がある。


この橋は通常生徒の立ち入りは禁止となっている。

屋上自体は入ってもいいので、その謎の四角い建物を知っている生徒自体は多い。


しかし皆遠目からしか見たことことはなく、誰かが出入りしているのも見ないらしい。

誰も学園校舎内で理事長を見たことがないので、あの中に引きこもっているのではないかという説が濃厚だ。


ゲーム内の知識を披露すると、確かにあの中には理事長がいる。

そして日が昇り、日が沈むまで大抵中でずっと書物を読み漁っている。


ゲーム内でも当然ここは立ち入り禁止なのだが、好奇心の強い主人公文月大夜が踏み込まないはずはなく、理事長の隠れ家に踏み入れるイベントがある。

文月大夜はパーティーメンバーの一人でもある親友を誘って忍び込もうとするのだが、理事長の謎の魔法に拘束されて、罰として橋から一日つるされるエピソードがある。

結構いたずらに容赦のない爺さんである。


そんなこともあるので、正直結構怖い思いをしながら向かっている。

俺も吊るされてしまうのかな……。

文月大夜は親友と二人で吊るされただけまだいい。一人で吊るされるのはマジでキツイ。


屋上まで来た俺は橋と、その上に建つ四角いモダンなつくりの建物を目に入れた。

ゲーム内の姿のままだ。


橋に足を踏み入れる。校舎は5階建てなので結構な高さがあり、風が強い。

手すりのようなものはないので、ここに建つだけで結構な罰ゲームだ。

ここに来ようとして、そして吊るされた文月大夜の行動力はやはり主人公のそれだ。

チーズバーガーで腹を下すような男が来るような場所ではない。


何とか、ようやく建物の扉までたどり着いた。

なんでこんなところに建設したんだって今更ながらに聞きたい。


ノックをした。

「春鷹か、入るが良い」

正体がわかっているどころか、名前で呼ばれた。まさかの親近感!

俺も秀則と呼んだ方がいいのだろうか。


扉を開けると、やはり中では理事長が小さな椅子に腰かけて古い書物を読んでいた。

建物は小ぶりだったが、中に入ると四畳半くらいしかないのがわかる。

理事長は白髪の長い髪、そして立派な顎鬚を持つ凛々しい爺さんだった。ゲーム内通りの姿なので、どこかほっとしている。


「呼ばれたので来ました。それと、俺のことを春鷹って」

「ああ、そりゃ生まれた時から知ってるからの。それにその名は私がつけた」

「へ?」

説明を求める俺の疑問を理事長はいったん躱して、中に入るように言った。

そこら中に何語ですかっていう感じの書物が大量に散らばっているので、勝手に軽く整理して場所を確保した。

少し埃っぽいので窓も開放。

「冬之介のようなマイペースだの」

「父ですか?」

「ああ、顔も似とるが、勝手に整理しだすところとかな。よく似とる」

書物に顔を向けたままだが、理事長が楽しそうにそう言った。

冬之介と俺が似ているとは思っていなかった。

顔は似ているが、それでも理事長から見たら行動も似ているのか。

俺の入り混じっていない本来の春鷹ならどう評価されていたのだろうか? 

……問答無用で吊るされていたかもしれない。


ようやく座ることができた俺は、理事長と向き合う。

相変わらず書物を手に持ったままだが、視線はこちらに向けてくれた。

どこから話そうか。父のことでも聞いてみようか。


「父とは知り合いなのですか?」

「当然だの」

「知りませんでした」

「冬之介もこの学園の卒業生だ。その時から私は理事長をしておる」

「めちゃくちゃ爺さんじゃないですか!」

「失礼な。まだピンピンしておる。お前の父、冬之介はそれはそれは素晴らしい生徒だったのぉ」

冬之介が優秀だったのは知っている。

その強い光に惹かれる過ぎて春鷹は道を踏み外した面もある。


「魔法の才能も、スカイフットボールの才能も人を魅了するものを持っていた。一生徒でありながら、学園の理不尽に立ち向かい、この私に決闘を挑んできたことさえある」

「へー、そんな熱い一面が……」

「もちろん返り討ちにして、この橋から吊してやった」

……吊るされるのは登竜門らしい。

「そうだな。あいつは冷静沈着なようで仲間思いのいい男だった。まさにお前のようじゃないか」

「えっ?」

俺のよう?

こんなモヤシ体系の俺がいい男ですと!?

付き合ってください!


「タバコを吸って停学中なんだってな。クリスティン先生からの報告書じゃお前じゃない可能性が濃厚だと記されていた。若いが有能な教師だ、彼女がそう判断するならそうなのだろう。誰か庇いたい仲間でもいたか?」

自然とマークの顔が出てくる。

しかし、俺が黙ったままでいると理事長はまたも楽し気に笑った。


「まあいい。仲間ができてよかったな。冬之介から聞いた話では随分と孤独な少年だと聞いていたからな」

「前まではそうでした。けど、この学園に来ていろいろ変わっている途中です」

「理事長をやっていて一番うれしい言葉だの」

学園は自主性を重要視し、生徒の成長を促している。

そういう姿を見られるのが理事長の楽しみなようである。


「そういえば、さっき言ってたことですけど、俺の名前が理事長に付けられたってのって……」

急に入ってくる前の会話を思い出して、それを尋ねてみた。

衝撃的な話だが、すごく真実を知りたい気持ちでいる。

「お前が生まれるときに冬之介が私にも立ち会って欲しいと言ってきたのだよ。冬之介とは卒業後も親交を深めていたからな。せっかくだから行ったら、冬之介から頼まれたって話だ」

「なぜ春鷹なんですか?」

「冬之介と小春の子供じゃからな。夏男にしてやろうと思ったが、さすがに可哀そうだと思っての。外を見たら鷹が飛んでいたし春だったから、それで春鷹だ」

おい!爺さん、決闘するか!?


いや落ち着くんだ。この人は名づけ人の恩人だ。それに夏男にされなかったことを感謝しようではないか。決闘は持ち越しだ。


「意外な事実でびっくりです」

「冬之介から聞いてなかったか。そうそう今日呼んだのは君の家の秘書の件じゃよ」

「田辺のことですか?」

我が水琴家に努める糞真面目の眼鏡秘書である。

何かと俺にエクスヒールをかけたがる、甘やかしっぷりなのだ。

また学園に無茶な要求でもしたのだろうか?どうやら予想は当たっているみたいだ。


「あの怖い秘書を何とかしてくれ。水琴家から送られている支援金を停止するとまで脅してきおる」

「またなんで?」

「停学処分にしたじゃろう。それに学園都市なの清掃活動も科したことがあるらしいな。その件じゃよ。もう額に角が生えたかのように猛抗議してきおる。なんとかしてくれ」

「俺に言われても。それこそ父に言ってください」

「あの秘書が立ちはだかって冬之介にろくに連絡がとれん。厄介すぎるわい」

田辺がそんなことを裏でしているとは知らなった。

俺としては停学も清掃活動も甘んじて受け入れているので、そんな抗議は必要ないのだがな。


「そういうことなら、俺から言っておきます。田辺はやたらと俺を甘やかすんですよ」

「そうしてくれ。まあ、甘やかすのも無理はないかもな」

どうしてなのか、という視線を向けると理事長が昔のエピソードを語ってくれた。


どうやら幼少期より水琴春鷹はずっと食が細かったらしく、医者が心配するほどに栄養を取れない時期があったらしい。

しかしそんなころ、水琴家に就職したばかりの田辺が偶然春鷹の近くに来ると、すごく笑っていたらしい。

そして田辺が側にいるだけで、春鷹はなぜだか食も進んだ。


それゆえ、物心がつく頃までほとんど田辺が世話係のようなことをしていたとのこと。

その後、本人の優秀さと幼少期の春鷹の面倒を見たこともあり、今の冬之介の秘書にまで上り詰めたらしい。


人伝でしか知りえない情報を、俺はまさかの理事長から得ていた。

いろいろ驚きの話を聞いたが、正直これが一番びっくりだった。

田辺がやたらと俺にエクスヒールをかけたがるのには、親心に似たようなものがあったのかもしれない。


それもそうだなと思った。

あの糞真面目で合理的な男が俺にだけ非合理なエクスヒールをかけたがるのだ。

不思議に思っていた部分もあったのだが、そういうことだったのか。


田辺へ連絡し、抗議を止めるように伝えなくてはな……。そのついでに、日頃の感謝でも伝えておこう。ついでだ、このくらい。


要件は聞いたので帰ろうとしたのだが、理事長からはもう一つ話が合った。

簡単に聞き流してくれていい、とのこと。

「私くらいの魔法使いになれば、不思議とこの世界の魔力の流れというのが見えてくる。予想では3年後に魔力の奔流が起き、大きな力のぶつかり合いを予想していたのだが、なんだかそれが最近になって早り規模が大きくなった気がするのぉ……。何か、もしくは誰かが大きな変化をもたらしているのかも。まあ、そんなつまらん話だ。せいぜい気を付けたまえ」


聞き流した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ