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50話 いきなり躓く

三瀬先店子との共闘を誓った俺は、来たるダークマスター同士の戦闘に向けて特訓を試みようと決めていた。

とりあえず、筒抜黒波は三瀬先店子が、灰直全は俺が見る形で決まった。

それぞれの相性を考えてのことだ。

物理面が弱い俺が物理攻撃タイプの灰直全の相手が務まるのか?という不安はあるのだが、ダークたちをうまいこと使えば物理攻撃など襲るるに足らない。

水琴春鷹の真の実力を見せてやろうではないか!


レベル上げをする当てもある。

ステータスも使用可能魔法もここらでぐっと増やしておきたい。それにダークマスターとしてもっとうまくダークを使っていかなければならない。

そこまでしっかり詰めておかないと、灰直全という男には勝てないだろう。

自信はあるが、準備は最善を期すのが俺のやり方だ。


当面の計画を決めた後、いつもの日常に戻る。

一日の授業を真面目に受けて、その後のクラブ活動にもしっかりと力を入れた俺は、きちんと余力を残しつつ特訓へと向かおうと思っていた。

特訓場所は俺の認識だと、24時間営業である。


更衣室で着替え終わった後、マーチスからのジムへのお誘いをいつも通り断った俺はそそくさとその場を後にした。

スカイフットボールの練習場を出て、目的地へ向かうために学園の敷地も出ようとしたところで、マーティンから連絡が入った。

「カフェルオンのメンバー全員更衣室前に集合らしいよ」

スマホに届いたメッセージはそれだけだった。

何かと思ったが、要件があるなら早く終わらせてしまおうと考えてすぐさま更衣室前へと向かった。


そこには既に俺以外のメンバーが全員そろっていた。

皆、影薄君がいないとか言っているけど、ちゃんと後ろにいる。薄いけど。


俺たちを集めたのは、メンバーの誰かではなかったようだ。

あやに声をかけて招集をしたのは、高等部のスカイフットボールをやっている女性の先輩だった。


「集まって貰って悪いね」

「いえ、なんの要件でしょうか?」

あやもこの後用事があるみたいなので、少し口調が急かし気味である。


「これ、出てきたの。あなたたちが更衣室を使った後でね」

女性の手の平にあったのは、さっきまで火が付いていただろうまだ若干熱が残る吸いかけのたばこだった。

正直びっくりである。

カフェルオンのメンバーにそんなことをする人はいないと思っていたからだ。


「本当に私たちですか?」

当然同じように思っているあやも嚙みついた。

「ええ、間違いなくあなたたちと私たちの間に他のグループは入ってないわ。私が見つけた時はまだ火もついていたから、もっと先のグループっていう訳ではなさそうだけど?」

目撃証言も、物的証拠も握っているのか。

疑いたくはないが、俺たち7人の中にタバコを吸った人物がいるのか……。


「犯人が黙っているなら私が先生にこの事実を伝えるわ。あなたたちのチームはしばらく活動休止でしょうね」

「そんなっ……」

あやの顔には大きな動揺が広がっていた。

誰よりもスカイフットボールを愛する彼女だ、こんなことでそれを棒には振りたくない思いでいっぱいだろう。


犯人が自主的に名乗り出るのがいいのだが、少しくれた時間内では誰も名乗り出なかった。

しかし、俺はどうしても一人心当たりがある。


……マークだ。


彼を信じたい気持ちはある。

友達だし、ブラザーだし、いいパスをくれるし、俺の作る餃子大好きだし。

でも心当たりがあり過ぎる。


いつも気さくな性格で明るい彼が、今日の練習中はずっと俯いたままだった。

得意のYeah!!も聞けなかったし、挙句ジムにも行こうとしなかった。

何か用事でもない限り、ジムに行かないはずがないこの男が、マーチスたちの誘いを断っているのを俺は見た。


そして更衣室に最後まで残っていたのもマークと守君くらいだ。

犯人はマークだと思う。

しかし、確証はないし、友達を突き出したくもない。


このまま黙ってしまえば、カフェルオンのスカイフットボールはしばらく禁止される。

そうなってしまえば、あやだけでなく他のメンバーも傷ついてしまう。

そんな結果は嫌だ。


俺には分かっている。この場を全て丸く収めるには、一つだけ手段がある。それを実行するまでだ。

静かな挙動で、そして美しく挙手した。

「この水琴春鷹が、タバコを吸わせて頂きました!」

ふんっ、決まったな。


マークがタバコを吸ったのだとしたら、それは悪いことだ。

しかし、マークは元来そんなことをする人間ではない。スポーツマンだし、校則もちゃんと守るし、フットワークが軽く、社交的ないいやつだ。

タバコに手を出したのも、もしかしたら何か深い悩みでもあるのかもしれない。

今度そっと手を差し伸べて、その悩みを一緒に解決してやろう。

きっとタバコを吸った犯人だと名乗り出るのは怖かったに違いない。

ならば、俺が引き受けるまでだ。


なんたって、水琴春鷹はクズだからな!

タバコの一本や二本、ワンカートンやツーカートンくらい吸っていても罪の重さには微量の変化しかない。

汚れきった俺にタバコの匂いなど怖くはないのだよ!


「春鷹が!?そんな訳ないわ!」

あやが俺の言葉を聞いて、すぐさま否定してくた。

その気持ちは嬉しいが、俺が罪を引き受けることでこの場は丸く収まるのだ。

少し罰則が俺にはあるだろうが、そのくらいなんてことはない。


「そうネ!春鷹一番に帰ってたし、吸ってるわけないよ!」

マーチスもすぐさま違うと否定してくれたが、これでいいんだ。

気持ちは本当にありがたいが、最善策をこれ以上邪魔して欲しくはなかったので、俺から先輩に提案した。

「すみませんでした。一緒に先生のところへ行ってくれませんか?そこで先生方の判断を仰ぎます」

「ええ、いいわよ」

面倒見のいい人で良かった。

付き添ってもらい、一緒に歩き出す。


後ろではあやたちがまだ抗議していたが、これ以上の善策はないと言える。

まあとりあえず罰則の後に、マークと一度話してみようとは思った。


高等部の先輩に連れられて、俺は担任のクリスティン先生のもとに行った。

そこでタバコを吸っていた事実を告白する。

黙って話を聞いていたクリスティン先生が、ため息を履きながら腕を組んだ。


付き添ってくれた高等部の生徒に、クリスティン先生はお礼を言って帰られせた。

二人きりになって、先生は俺を椅子に座らせる。


「今一度聞きますー。本当にあなたがタバコを吸ったのですか?」

「はい、この水琴春鷹が吸いました!」

「そんなに自信を持って言わなくてもー。もうー、水琴春鷹君のことは信頼していたんですよー。今日は部屋に戻ってなさい。とりあえず、追って処分を言い渡します」

いつもの先生の緩い雰囲気がどこか薄まり、俺は部屋での待機を命じられた。


本来行くはずだった訓練場へ行くことはこれでできなくなった。

くそー、これでは来るダークマスター同士の戦いに支障が出てしまう。

カフェルオンを守るためではあったが、少し痛い躓きであることに違いはない。


……とりあえず、部屋でめちゃくちゃ筋トレをして時間を過ごした。


次の日の朝、部屋にはクリスティン先生が訪ねてきた。

顔にはもちろん怒りマーク付きである。

「水琴春鷹君。先生、あなたのそういうところは嫌いですー」

「すみません。ガッカリさせるようなことをしてしまい」

「本当ですよー。昨日あれから早瀬あやさんをはじめ、マーク君、マーチス君、マーティン君、それにあの影の薄い子なんて言ったかなー。とにかく彼らが絶対にあなたじゃないと言うんですー。でもあなたの自白があるから処分しないわけにも行きませんー。だから先生怒っているんですー。周りの為にそういう損な役回りをするところ、先生嫌いですー」

先生の気持ちもありがたい。

しかし、水琴春鷹の黒い経歴を見て貰えば、本当にタバコなんて甘っちょろいものである。

間違いなくこれが最善策なのだ。ご理解いただくのは難しいかもしれないが、こればかりは真実を言う訳にもいかない。


「すみません。もうタバコは吸いません」

「もうっ!」

緩い雰囲気のクリスティン先生にしては珍しく気分を荒れさせて、両手をブルンブルン振り回していた。


「学園からの処分は停学1週間と反省文、それに停学明けに2週間の都市なの清掃活動ですー」

清掃活動!?いいんですか!?

先輩方との活動を学園側から許可してもらってしまった。


「もうー。もっと落ち込んでください」

顔色からばれてしまったようだ。

「授業中は基本的に部屋から出ないことー。17時以降の外出は私に許可を取ることー。いいですね?水琴君」

「はい!この水琴春鷹、甘んじて停学を受け入れます!」

「全く、こんなことばかりをしてたらいつか痛い目をみますからねー。いや、もう見てますからねー。先生忠告しましたからねー」

まだ機嫌の治らないクリスティン先生はどかどかと地面を力強く踏みしめながら帰っていった。

不満さが分かりやすく見て取れた。


罰則は停学1週間か。

痛いのは間違いない。

しかし、17時以降の外出が可能なら大丈夫だ。

特訓できる時間はある。


大事な戦いが待ち受けるというのに、いきなり躓いてしまったのはきつくはあるが、それでも許容範囲内。

とりあえず、特訓場に今日の夕方からいくことを伝えた。

そして、マーク達に部屋でできる筋トレメニューの教示をしていただくために連絡を取った。



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