48話 ランカー潰し
雷さんはバッグを手に持っているため、その中に改造ショップの商品が入っていることが予想できた。
こんな時間に来てくれたのは、何かいい商品でも売りつけるためだろうか?
改造ショップ好きの俺としてもありがたいのだが、少し突然すぎて驚いてもいる。
「すみません、こんな状態で招き入れてしまって」
「変なお客も多いからあまり気にしないアルよ。金持ちは裏の顔がある人多いし、部屋を無茶苦茶に壊すくらい……やばいけど慣れているアルよ!」
それ、大丈夫じゃないですね。
とんでもない誤解が生じ始めていますよ。
「今日は改造ショップの店員として来たのが一件、店子と一緒に相談したいことが一件アルよ。でも金持ちの癇癪に巻き込まれたくないから、また今度にするアルね!」
明るく振る舞っている雷さんだが、やばい俺と縁を切ろうとしているのが見え見えである。
ここを逃すと下手したら数年会えない可能性も。
「待ってください。癇癪持ちじゃないので大丈夫です。とりあえず、上がってください。こちらの事情も話しますので」
「色恋沙汰はもっと嫌アルよ」
「おらんやろ、どう見ても」
俺が否定する前に三瀬先店子に否定されたのだが!?
金持ちでイケメン高身長ですよ!
そこまで彼女いないと断言できる要素は何でしょうか!?
何かあるのなら教えて頂きたい!切実に!
言いたいことはたくさんあるのだが、とりあえず帰すことにはならなくてとりあえずホッとした。
大事な要件っぽいし、何も情報無く帰したら気になって睡眠に影響が出てしまいそうだ。俺は結構繊細なんだ、気をつけていただきたい。
窓が割れ、テーブルの脚が折れて、コップが何個か割れている事件後の俺の部屋へ、二人はなんとか座れる場所を探して座り込んだ。
「まずはどちらから行きますか?」
「うん、改造ショップのモットーは一に商売、二に商売、三に商売アルよ。まずは商品を見てよ」
「そうしましょうか」
俺としてもそっちの順序がありがたい。
何か凄い話を聞いた後だと、せっかくのいい買い物でも楽しめないかもしれない。
楽しめるものは先に楽しんでおこう。
「MP回復薬開発したアルよ。大手がやっている魔法ショップでも取り扱っていない珍品アルよ」
ああ、それつい先日欲しかったかも。
危うくダークボムで死にかけたあの時、MP回復薬を持っていれば東条蓮にかっこよくパスできたわけだ。
ファンキャン内でもそうだったように、MP回復薬は改造ショップしか取り扱わないレアアイテムだ。欲しければ彼らから買うか、高額転売に手を出すしかない。
改造ショップと揉めようものなら、MP回復薬なしで本編クリアを目指さないといけないハードルートになる。改造ショップと揉めることだけは、本当にお勧めしない。
ローンで商品を買ったマークが改めて心配だ。ちゃんと支払いはしているだろうか。
「買っておきます」
話し的に最近完成したと見ていい。
ゲーム本編では最初から当たり前に変えたのだが、完成は本編の3年前か。興味深い。
「どのくらいいるアルか?」
「とりあえず100個ほど」
「大口アルね。上客はこれだから大好きアルよ。支払いは?」
「カードで」
「ありがとうアルよ!」
カード対応している改造ショップは本当に素晴らしい。
こういう裏稼業は意外と対応してないことが多いからな。改造ショップ様様である。
これで次回、東条蓮が無理をしてまた封魔の書を使う場面が来てみろ、そして直後にダークボムという悲劇。誰もが死を覚悟したその時、俺がポケットからこれを取り出すのだ。
MP回復薬です、これで回復して封魔の書を!
ふっ、惚れられてしまうな。これは。
「もう100個追加で」
「なんでアル!?」
俺の妄想など知りようもない雷さんが急遽入った追加注文に戸惑っていた。
「そんなに持ってきていないから後日の配送になるアルよ」
「結構です。支払いはカードで、一括!」
MP回復薬は結構高価な品物だ。しかし、一括で200個を買うこの力、これこそが本来の水琴春鷹の力である!
「ほんま金持ちは楽やなぁ」
大人買いしている俺を見て、三瀬先店子がそんなことをつぶやいた。
少し嫌な感じに映ってしまったかな。ちょっと反省。
「けれど、やっぱアタシらの方がおもろいわ。なあ、雷」
「当たり前アルよ!初めからあるより、ゼロから稼いだ方が面白いに決まっているアルよ!」
そういうポジティブな感情が改造ショップのエネルギーの源なんだろう。
改造ショップ、そりゃ逞しく生き残るよなと思った。
「商売は基本雷さんが対応するんですね」
「アタシは雷の様に本心を隠して笑顔を作るのが苦手やしな。言いたいこと言っちゃうタイプや」
ああ、なんだかそんな感じがする。
「それに雷に任せとけば、大抵相手も乗り気になって細かいこと聞かずに商品を買うんや。MP回復薬はまだ開発段階で飲みすぎると腹を下すで。そこら辺ちゃんと聞かんとあかんよ」
えっ!?
雷さんを見た。
さっと目を逸らされた。
おい!無事不良品を200個掴まされたんだけど!?
元来俺はお腹が弱いのだが、大丈夫だろうか。大丈夫じゃないでしょうね!
腹を下す覚悟でMP回復薬を使うしかないのか……。
雷さん、覚えておけ!
「うちは返品不可やからな。念のため」
「知っていますよ」
そこら辺はゲーム通りだ。売ったものは絶対に返品を受け付けないのが改造ショップの特徴である。
改造ショップにはたまに大当たりとも呼べる商品があったりする。
けれど、買ってみたら実は全く性能の違う製品だったということがある。
そういった場合、泣き寝入りが基本だ。
ただし、改造ショップからの依頼を受けて仕事をこなせば交換対応してくれることがある。要求される以来の難易度が非常に高いので、やはり大抵は泣き寝入りだ。
「はあー、次に行きましょう」
改造ショップと上手に付き合っていくには、一喜一憂しないことだ。
格安ですごいアイテムを譲ってくれるようなことがある日もあれば、今日の様な日もある。
まだ未発売の商品を先にたくさん仕入れることができたんだ。良しとしよう。
仕方ないと思うその心、とても大事である。
「そうやな、こっからはアタシが話たるわ」
いよいよ本題だ。いや、改造ショップのモットーから言うと商売のほうが本題か。
「実はな、あんたを改造ショップの端っこポジションやけど、加ええようかって雷と話して決めたんや」
「俺を改造ショップの一員に!?」
なんでまた、というのが正直な気持ちだ。
改造ショップは秘密重視。謎の存在で神出鬼没が基本。
悪いことをしている自覚はあるので、それが基本のスタイルだ。
そんな中に、かなり目立つであろう俺を入れるのか?
「そうや、率直な感想としてどうや」
「うーん、戸惑っていますよ。改造ショップは神聖不可侵だと思っていましたので。事前情報からはそう見えていました」
「そうやな。その見立て通りや。けどな、少し事情が変わってな」
「事情が?」
なにかもじもじとしだした三瀬先店子。何か言いづらいことでもあるのか?
正直、らしくないその姿に俺は違和感を感じていた。
三瀬先店子といえば、どこまでも勝気で傍若無人な人だ。
間違っても女性らしい弱さを見せる人ではない。
「店子、頑張るアルよ!」
「うっさいわ!あっち行っとけ」
「言えないなら代わりに言ってあげるアルよ!」
「言えるわ!自分でな!」
少し照れ臭そうに、頬をポリポリ掻いて三瀬先店子はようやく貯めていた言葉を話し始めた。
「そのな、前に言ってくれたやろ。同じダークマスターとして、相談に乗ってくれるって」
「え?」
ああ、言ったな。
喧嘩を売るようなことを言った日に、そんなことも言っていた。
そうだ、思い出してきた。去り際に彼女に伝えたのだ。
彼女の悩みの重みは俺でしか分かち合えないだろうからと、そう思って伝えた言葉だった。
「あれな、結構嬉しかったんや。なんや偉い力手に入れて、正直雷のやつもイマイチ理解しきってくれんし結構満足してた反面、少し不安やったんや。けどな、あんたが相談に乗るって言ってくれた次の日から、なんか心の重荷がどすっと落ちたんや。めっちゃすっきりしたわ。ほんまありがとう」
「あ、ああ、え?いえ、どういたしまして」
ちょっと意外だ。いや、かなり意外だ。
5人のボスの中でも一番気性の荒いだろう三瀬先店子に素直に感謝を述べられてしまった。
仲良くなりたい、戦いたくないとは思っていたけど、あれ?
こうも上手くいくとは思ってなかったから、こちらも凄く嬉しい。
「それだけでって言うのもなんですが、そんな理由で改造ショップに入れて貰えるとは思ってませんでした」
「結構助かったんやで、ほんま。それに今回は別の件も絡んできたんや。少し厄介な相手やし、あんたは仲間に加えておこうかなと思ってな。ランカーナンバー10に入ったんやろ?大したもんや」
「どうも。別件ってなんですか?」
厄介な相手と聞いて、少し俺は身構えた。
悪い予想が当たっていないといいけど。
「ランカー潰しって知ってるか?」
「いえ、知らないですね」
「あんたがナンバー10を引き継いだやろ?当然前任者はおるんや」
それはそうだ。
確かに聞いてなかったなとは思った。
なぜ前任者がいなくなって、俺に引き継がれることになったのかと。
「ランカー潰しによって、前任者のランカーナンバー10が病院送りになり、更に悪さが暴かれて退学処分になったからや」
「病院送りにされた側が退学ですか?」
「それは直接結び付かんのや。病院送りはランカー潰しに実力で負けただけ。その後ランカー潰しが情報を暴露して、それが退学処分に相応しい内容だっただけや」
「なるほど」
どんだけ悪いことしていたのかはわからないが、少しかわいそうではある。
意外な形で前任者の過去を知ってしまったわけだ。
「ランカーたちはやられっぱなしじゃ顔もが立たんから必死に探したんやけど、あの花崎雪美でさえその影すら踏めなかったちゅう話や」
悪知恵が誰よりも働きそうなあのエロい会長がね。
……まずい。非常にまずい。
どう考えても奴しかいない。それも想定ではもっと悪い方向に出ている。
「そのランカー潰しがな、調子こきやがってアタシらにまで喧嘩売ってきやがった」
「改造ショップに!?」
「そうや、ほんま腹立つわ。雷の部屋に次のターゲットは改造ショップやて書かれた紙があったんやて。あたしらの正体を学園中に発表して叩き潰すと書いてあったわ」
「あったアルよ!びっくりアルよ!」
雷さんが言うとなんか緊張感に欠けるな。
「そこでな、雷と話し合って決めたんや」
うわ、なんとなくその話し合いの結論が見えた。
彼らの性格からして、あまりに明確な答えに辿り着いてしまう。
「どこのガキか知らんが、ランカーの一番下をつぶしたくらいで調子に乗りやがって。喧嘩売ってくるなら全面戦争や。ぶちのめしたる!」
ですよねー。
三瀬先店子の性格からして絶対にそっちにふれると思っていた。
雷さんもニコニコした顔をしているが、本性はあれではない。
間違いなく三瀬先店子と同意見で叩き潰すつもりだろう。
「そこであんたの力が必要や。あんた情報戦には強いやろ。相手もかなり情報戦に強いと見てる。仲間になってくれたら、心強いわ。もちろん断ってくれてもええ。そうなったら雷と二人で叩き潰すだけやし」
情報戦に強い設定だったな。
本当はゲーム内の知識だが。
「あまり過激な発言はよしてください」
「なんや、及び腰やな。あんたのことは同志やと思ってるからこんな相談してるんやで」
同志!?
現状俺の同志は先輩方だけである。
その俺を同志と呼ぶだと!?
あいにくだが、その言葉には弱い!
「もちろん、やりますよ。俺は改造ショップの上客でもありますからね」
返事を聞いた三瀬先店子の顔に狂気に満ちた笑顔が少し浮かんだ。
この抗争の行きつく先を思い描いて楽しんでいるようだった。
「対価としてあんたにはMP回復薬の作り方を教えるわ。売り方も教えるから、儲けちゃってええよ」
「いいんですか!?」
あのMP回復薬の作り方を教えてくれるだと!?
あれは神聖不可侵の改造ショップの中でも最重要な商品なのでは!?
俺の驚いた顔を見てか、雷さんが説明してくた。
「それを支払うくらい店子は本気アルよ。店子の鼻は良く効くアルよ。でかい戦いになるって思っているアル。水琴君が仲間になってくれたら、生意気こいた相手を潰すのにそれはそれは本当に助かります」
語尾を忘れていますよ。それだけ雷さんも本気という訳だ。
喧嘩っぱやい改造ショップが宣戦布告を受けたのだ。
俺がしたのとは違い正面から叩き潰すという言葉を使っているので、彼らは本気で頭に来ているようだ。
俺の想定している犯人、その相手はいる。
筒抜黒波である。
俺と三瀬先店子同様ダークマスターであり、支援魔法タイプの魔法使いだ。
改造ショップのボスの正体を見抜ける人物が今俺以外にいるとなると、可能性としては彼しかいないと言いきれる。
しかし、動くには早すぎる。
彼らが本格的に悪さをするのは3年後のはずなのに。
いや、もしかしたらリアルでも小さないざこざは起こしていたのか?
その可能性はある。しかし、俺はもう一つの可能性が真実に近いと想定している。
こちらは間違いなく、ファンキャンの内容からは逸れ初めてしまっている。
おそらくは、俺がダークマスターになった影響からだろうか。
確実に運命は変化しつつある。
筒抜黒波、5人のボスのうち情報戦長けており、ブラックメールで相手をいたぶる卑怯な男だ。
そのいやらしさから、女性プレイヤーからは水琴春鷹の次に嫌われているキャラである。
当然水琴春鷹の嫌われ度には到底追いつけないがな!
水琴春鷹はそんなに甘くはない。絶望的なまでに差があるのだ。嫌われランキング殿堂入りですよ、こちらは!
そんなことは今はどうでもいいか。
それよりもまずい考えが頭に浮かんでいる。
筒抜黒波が今の段階の力で、ランカー最下位のナンバー10とはいえ、そんな強者を病院送りにできるとは思えない。
いやらしさはナンバーワンのボスである彼だが、正直戦いの面では5人のボスで一番弱いと言っていい。最初に攻略対象としてくださいと公式が言っているくらいだ。
しかし、現実として彼がランカーの一人をつぶした事実がある。
そこで、俺はもう一つの可能性を思いつくことになる。
今この学園にいて、ランカーをつぶせる可能性がある人物はざっと考えて、4人しかいない。
まずは俺水琴春鷹である。
自慢になるが、すごいスペックの持ち主だ。王道を行ったからな。邪道に行っていたら、お笑い嫌われキャラになっていた悲しきモンスター候補。
そして、同じくダークマスターの三瀬先店子。彼女はひっそりと改造ショップの経営にいそしんでいるが、その実力は疑いようもない。
後二人も、同じだ。
つまり、残る中等部からいるダークマスターたち。
最後の二人は高校からの外部入学なので除く。
筒抜黒波も強いが、ランカーを潰して改造ショップにまで喧嘩を売るとなると、おそらく残りのダークマスターと手を組んだと見ていい。
灰直全。
最強のダークマスターの呼び声高い、あの男と手を組んだか……。




