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37話 幸運な一日

何度か夢野さんからトライされかけて、直前で引き返すという両者にとって心臓の悪いことが続き、それでも夢野さんは中華屋のバイトの件には触れてこなかった。


本日もパーティーでの実践訓練があるとのことなので、もういっそのこと俺から聞いてみようと思う。

オラオラオラァなんか文句あんのか!

そんな高圧的にはいかないし、いけないし……。


「はーい、今日も実践訓練いきますよー」

クリスティン先生のゆるーい掛け声が飛ぶ。

今日も訓練場であるドームに集められている。


ちなみに今日は2組との合同練習だ。

2組にはマーティンがいる。

俺のことを見つけるとその白い歯を見せてニコッと微笑んできた。

……知らないふりをした。

「ワッツ!?」


先日持っていった餃子が相当気にいった様子で、俺のことをあれ以来ブラザーと呼んでいる。マーチスも大体同じ感じだ。


そろそろ5月ということもあり、1組にも2組にもちらほらと欠席者が見受けられた。

5月病は大体この頃からやってくる。

寮生活が始まっているので、慣れない生活に体調を崩している人も多いらしい。


そんな欠席者の穴を埋めるための1,2組合同訓練である。

パーティー内に欠席がいる場合、今日だけよそから補填するか、もしくはよそのパーティーに入るかである。


俺たちのパーティーに欠席者はいない。

彫刻クラブに熱中しているせいか宇佐ミミさんは心身ともに健康だ。

夢野さんは俺になぞの意識を向けてくるだけで、彼女も健康。


俺たちはもともとのパーティーで訓練ができそうだ。

「はーい、じゃあ宇佐さんはあっちのパーティーに臨時で入ってね。夢野さんはあっちねー」

なぜか俺たちのパーティーにメスが入れられた。

ワッツ!?


「先生、俺は? 」

「あなたは、ダークロボの耐久値のアップデートがある来月まで訓練には参加させませんー。一台壊したせいで、経費が凄く嵩んだんですよー。理事長から何度グチグチ言われたことかー。だから、あなたにはしばらく攻撃魔法を使わせませんー」

とのことらしい。

教育機関はどこよりも平等であるべきだと思うのですが、そこら辺はどのようにお考えで!

水琴家はそもそも学園に多大な寄付を行なっているはず。


ダークロボの一台や二台で文句を言われるような額ではないと思う。

パパに言いつけちゃうぞ!

と、リアル春鷹ならやっちゃいそうだが、当然そんなことはしない。


クリスティン先生からのまたもや理不尽な要求を俺は飲み込むしかなかった。

まあ、たまにはいい。最近いろいろと手を出し過ぎて疲れてもいた。

授業中に公然と休めるのはなんだか贅沢な気分だしな。


「じゃあ、水琴君は私といらっしゃーい」

はい?

俺はプールサイドにたたずみ、水の中ではしゃぐ子供たちを優雅な気分で眺めるあのポジション的なものになるのではないのですか?

「はやくー」

やはり聞き間違いではない。

俺は授業中にも関わらずクリスティン先生にどこかへ連れていかれてしまった。


「クラス委員長ですからねー。買出しについてきて貰いますー。今日は2組の先生が指揮をとってくれるので私たちは買出しですー」

教員用の車に乗せられて、ようやく目的を教えて貰うことができた。

要は使いっぱしりというわけだ。


教育の機会を奪われて、更には未成年への強制労働の要求だと!?

そういうのには断固戦いますよ!

「アイスクリームを買ってあげますからねー」

……アイスを買って貰えるならいいよね。

対等な対価であると言えよう!


アイスはそこまで好きじゃないし、春鷹の体は極度に冷たいものは食べられないが、やはり子供扱いされるのはとても嬉しい。

春鷹の記憶にある限り、実家ではやたらと尊大な扱いを受けるし、外では水琴家の御曹司とあって距離を置かれるし、同級生とは近づけないしで、そんな感じで人の暖かみには飢えている。


「水琴君、庶民の味には慣れていないでしょー?」

慣れていないどころか、食べられない。

胃が弱いからな。

「先生のを一口貰えばいいです」

「あら、意外とかわいいのねー」

車は学園を出発した。


学園都市内では今日も先輩方が街中を清掃していた。

平日でも人通りが多い学園都市である。

先輩方なしにこの街の快適感は存在しえないと言えよう。感謝せよ、くされ人間ども!


いかんな、少しばかり先輩方の色に染まりつつある。

こういうことを考えているといつか誤って口にしてしまうことになる。気をつけねば。


「はーい、つきましたよー」

しばらく走り、学園都市内最大のデパートにたどり着いた。

……入学前に来たデパートだ。水琴家の経営する会社の所有物であやと遭遇した場所でもある。


別にいいのだけれど、なんだか少し気まずいよな。

車を立体駐車場に止めて、俺たちはデパート内へと入っていった。


先生はスマホにメモしたものを確認して、効率よく買っていくルートを考えているらしい。

俺はただの物持ち要員なのでぼーっとしていればいい。ただ、周りにすごく気になる人達がいた。


棚の隅に隠れてこちらをチラチラと伺っている黒服が数名確認できる。

グラサンが天井の証明を反射していて凄く目立つ。

早々に正体がバレてしまって、とても居心地が悪い。


先日デパート内で声をかけてきた際、田辺に言い聞かせておいた。あまりああいうことはやめてくれと。

ショッピングをしに来たのに、VIP室に通されるのはあまり好かない。


田辺から良く言い聞かされたのか、彼らは適度な距離をとってこちらを見守っていた。

次はこういう尾行もやめて貰うように田辺に伝えておこうか。


「まずは3階からよー。エレベーターで行きましょうー」

先生が適当に進みだすので、エレベーターはあっちですと誘導し直した。


エレベーター乗り場まで来ると、いきなりエレベーターの扉が開いた。

「ラッキー。水琴家、早く乗りましょうー」

……偶然だよね。

デパート内には客が結構いたけど、広いエレベーター内には俺たち二人だ。少し怪しい。工作の匂いがするな。


3階でクリスティン先生が物色しているのは花瓶のようだ。

先日誰かが割って、その罪を俺が引き受けたやつだ。

あの清掃活動で先輩方と知り合えたので、今じゃ割った人に感謝の気持ちがあるくらいだ。

人の為になることは、やはりやっておくべきだなといういい教訓である。


「これにしますー。はい、水琴家レジまで持っていってねー」

前に割れたものより少し大きい。なんとか片手で持てるが、この後荷物が増えたら大変だなとは思う。

レジに持っていく最中、棚から見える黒服たちに殺気を感じた。


……持ってるだけだから。

このくらい男の俺が持たなくてどうするよ。

あまりピりつかないで!


支払いを済ますと先生は次の目的地へ。

またもエレベーターで5階に。

エレベーターは先ほど同様、目の前に着いた途端扉が開いた。

黒服たちめ、やっぱり工作済みか!


「ラッキーですねー。今日はいいことありそうですー」

全く気が付いていないこの先生は天然と見た!


5階では、2組が必要としている物をいくつか購入。

もちろん俺が持った。

黒服たちの何人かが震えているのが見えた。

頼むから、堪えてくれ! 無事にショッピングを終えたいものだ。


「まだまだ行きますよー」

それからも同じようにすぐに開くエレベーターを乗り継いで買いものを済ます。

気が付いたときには両手で抱えるほど荷物が増えていた。


買い物カートが必要だなと思っていると、目の前にサーっと流れてきた……。

まあ、いいだろうこのくらいは。


時間をフルに使って買い物を済ませたクリスティン先生は約束通りアイスクリーム屋さんに向かった。

俺は約束通り先生のを貰うと伝えたら、先生はダブルサイズを注文。

ダブルサイズのダブルが来たのはやはり黒服たちの仕業だろうか。

「今日は本当にラッキーですねー」

この人はきっと幸せの国の人だろう。


先生の提案で、アイスクリームは屋上で食べることにした。

降り注いでくる日差しが気持ちがいい。

先生の提案通りここに来てよかった。


「授業をさぼっている分、アイスクリームが美味しいですねー」

先生がそれを言うのはどうかと思います。

「はい、水琴君も一口」

パクリ、とありがたく頂いた。

うむ、腹が冷えるが、味は良し。


「水琴君は真面目で良いですねー。先生とっても助かってますよー」

「そうですか」

「花瓶が割られたときもクラスの友達をかばってあげたし、授業中の積極的な発言もとてもよろしい」

「花瓶は……」

「ああ、あれは水琴君が割ったんでしたね。そういうことにしておきましょう。あなたのお陰でクラスが助かっていることを言いたかったんですよー。これからもいい生徒でいてくださいねー。そしたらまたアイスクリームをご馳走しますー」

……ふん、アイスクリームをご馳走してくれるなら仕方ないか。


「それにしても広いスペースですね」

屋上のことだ。やたら広いこの空間があまり活用されていない。

「土日になると何かイベントで使ったりするんですよー」

そうなのか。

これだけ広いといい具合のイベントが開けそうだ。


ゲーム内じゃ、クルミンっていう学園都市内のアイドルがいた。

彼女が好みそうな舞台だ、なんとなくそんなことを思い出していた。


ダブルのダブルは流石にきつく、先生と二人で何とか平らげることに成功した。

屋上は遮るものがなくて、流石に黒服たちも姿を見せなかった。

それが余計にくつろげた理由となった。


やっぱり監視の目なんて居心地が悪いだけだ。

二人で屋上を後にして、学園に戻ろうとしていたその時、いきなり太陽が隠れた感じがした。


なんとなく上空を見てみると、そこには謎の機械に乗った黒服の姿があった。

空だとっ……!?


終始ついてきた彼らは結局車がデーパートを出るまでその影をちらつかせていた。

立体駐車場をこれだけスムーズに出られたのも、もはや言うまでもなく彼らの仕業であろう。


大量の荷物と共に学園に戻ると、ちょうど実戦訓練が終わった頃だった。

宇佐ミミさんと夢野さんもなんとか他のグループで訓練を終えていた。


二人とも楽しそうにしているので、なんだか少し寂しい。

眺めていると夢野さんと目があった。

たたたっと近づいてきて、何かメモを渡してくる。

『放課後話があります。校舎屋上に来てください』


あ、これはあれだ。

告白だ。

未経験だけど、創作物で見たことがある。

告白とは、伝説のイベントではなかったみたいだ。


グイっと握りこぶしをした。

部屋に返ったらダーク共に自慢してやらねば!


俺氏!彼女ができるらしい!




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