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36話 高等部生徒会長はエロい

バイトしていることが夢野さんにバレて以来、教室内で夢野さんからの視線をちょくちょく感じるようになった。

けれどなかなか要件を告げてこないのでどこか焦れったい。


昨日食べた中華に満足している、とかいう話でないことはあきらかだろう。

しかし、結局彼女からは何も告げられることがなく、昼まであっという間に過ぎていった。


食堂でいつもの通りシンプルなおにぎりを食べていると、夢野さんではないのだが、意外な人物から声がかかった。

「やっ、ご飯中失礼するね」

先日レベル3ダークを倒して負傷したとき、救護班を呼んでくれて事情聴取までされた派手目のお姉さん。


そう高等部の生徒会長である、花咲雪美先輩だ。

少し明るい性格と馴れ馴れしい態度は苦手だが、俺を子供扱いをしてくれるので結構好きな人である。

身長が高くていつもブスっとした表情をしている春鷹は昔からあまり子供扱いされない。

その心の欲求が未だに残っているようで、子供扱いされると無性に嬉しいのだ。


それと彼女の豊満な胸元とか、長い手足とか、やたらいい匂いがするところとか、そこもちょっとだけ好きだ。いや、ちょっとじゃないかも……。


「水琴君、シンプルなもの食べてるねー。もっと男らしく肉でも食べなさいよ」

「いえ、こういうのが好きなので」

「よかったらお姉さんがステーキでも奢ってあげようか? 」

「他人から貰ったものは喉を通さないんです」

「どこのシノビ!? 」

本当は脂っこいものがダメなだけなんだけどね。


「ねーねー、水琴君、この間言ってたこと覚えてる? 」

この間のこと……。レベル3ダークを倒した日のことか。

「デートしてくれるとかですか? 」

ちょっと欲張ってみた。

「なにそれ。いいけど? もしかして水琴君は大人なお姉さんがお好きなのかな? 」

す、好きかもです!

若干胸元を寄せてくれる先輩のサービス精神に感謝感服であります!


「ま、まあ冗談です。確かランカーへのお誘いでしたよね」

「そうそう。覚えてんじゃないの。真面目そうに見えてスケベなのね。男ってみんなそう」

世間の男の皆さん、すみません。俺が欲張ったばかりに、また男どもの評判を落としてしまいました。

「ねえ、あれから結構時間あったけど、ランカーへの興味出てない? 」

そうは言われてもなー。


ゲーム内じゃ立派な称号だったし、ランカーに入るのも、その最上位のナンバー1を手に入れるのも難易度が高くてやりごたえがあった。

しかし、実際こうして誘われる立場になると面倒くさい。


レベルの高いダークとの戦いは強制招集だ。

ただでさえ忙しいのに、そんな危険な目にあってまであまりやりたくはない。


それに、中等部の生徒会長様からさんざん釘を刺されているからね。

この人の甘い誘い文句には気をつけろと。

それもあって誘いには凄く後ろ向きだ。


「ランカーですか。ごめんなさい、今のところほとんど興味はありません」

「そう? いいこと一杯あるけどなぁ。例えば、かなりモテるよ」

……なんですと!?


「おっ、水琴君見た目がいいからこういうのには引っ掛からないと思ってたけど、意外と興味がおあり? 」

彼女どころか、友達作るのですら命がけなこんな世の中じゃ……。

俺の動揺を見て、勝負どころと判断したのか向かいの席に座っていた生徒会長が隣の席に移動してくる。

隣まで来ると余計にそのいい香りが鼻をくすぐる。

体をぎゅっと寄せてきて、耳元にふーっと息を吹きかけられた。

「ひゃっ!? 」

「ふふふ、私のボディに魅力されているようじゃ、まだ大人の世界を知らないなー。ランカーになったら私の10倍、100倍アダルティックな女の子いーっぱい、いーっぱい近づいて来ちゃうよ? 」

この10倍、100倍だと!?

あり得るのか、そんなことが!


「それそれそれ。どう? 大人のお姉さんのカ、ラ、ダ、は? 」

俺の左腕に先ほどから先輩の柔らかいものが当たってしまっている。

なんという小悪魔。

なんというエロティック。

なんという幸福。

こんな人が生徒会長でいいのだろうか……。

「それそれそれ! 」

いいと思います!


「水琴君、今週の日曜日にランカーナンバー10の欠番について話し合う会議があるの。来てくれるよね? 」

「行かせて頂きます! 」

あの優しく誠実な中等部生徒会長、東条蓮が忠告してくれたのにも関わらず、俺はまんまと甘い罠にかかってしまったのだった。

東条先輩にはなんといい訳しようか。

いや、あの優しい人ならきっと愚かな判断をした俺を優しく許してくれるだろう。そんな人である。東条蓮という人は。


「あ、ちょっと待って下さい」

今、日曜日って言ったな。

「日曜日はダメだ」

「ん? なんでよー」

バイトだ。

どうせ店主と奥さんはまた遠出するだろうから、俺が中華鍋を振らねばならない。

俺が行かないと金髪さんが一人きりで、店が回らなくなる。


「ちょっとした用事が……」

「ああ、そうか。バイトやってるんだったね」

なぜ知っている……。

腕に当たる柔らかい感触がスーッと引いていき、体が縮こまったのを感じた。

バイトしてはいけない身で、バイトしていることをよりにもよって生徒会長に知られてしまうとは。


これが中等部生徒会長ならもっと悪かったが、高等部生徒会長でも大差ないだろう

「それは大丈夫よ。多分数日内に休みの通知が来るから。朱里も呼び出しているからね」

朱里って誰のことだろう?

バイト先も割れていると見ていいな。これは。

休みの通知が来るとわかるのはなぜだろうか?


まさか店主と奥さんと繋がっている?

あの店主、店を任せっきりにするばかりか、情報漏洩までしているだと!?

断固許すまじ!


「そういうことだから、バイトは大丈夫よ。あれ? なんか顔が白いよ」

「そ、そうですか? 」

片言で何とか平気なふりをして見せた。

「もしかしてバイトバレてまずいと思ってる? 大丈夫よ、私そういうのに目をつぶるタイプだから」

明るく楽しそうにウインクを混ぜて言っているけど、一番目をつぶってはいけない立場なのはツッコまないでおこう。

見逃してくれるのならそれに越したことはない。


「日曜日ちゃんと遅れずに来てよー。10時に生徒会室だからねー。あ、高等部のほうね」

「……」

無言でこくりと頷いた。

お色気作戦も効いたし、バイトの情報まで握られているのなら仕方ない。

ここはとりあえず行くとしよう。それにまだランカーに入ると決まった訳でもない。


俺はまだ【黒炎使い】レベル4のペーペーだし、そこのところを話せば他のランカーたちが納得してくれることだろう。出過ぎた杭は打たれるのが世の常だ。中等部1年でランカーは早すぎると俺も思う。

せいぜい先輩方にいじめられて、はじき出されるのが関の山だろう。


昼食を終えて、俺は直接教室に戻ることにした。

午後からは実践訓練の自習がある。

魔法の練習に使ってもいいし、パーティー内の仲を深めてもいい。


2時間好きに使ってくれという自主性が求められる時間だ。


宇佐ミミさんと話せるのは嬉しいが、夢野さんにはバイトの件を握られてしまっている。

気が重い。

もういっそバイトやめてしまおうかしら。


そしたら金髪さんが困るよな。

はぁー、あっちを立てればこっちが立たずってやつだな。


教室へ戻る途中、スマホに着信があった。

知らない番号のようだ。

先輩方にスマホを預けて、新しいものを貰ったのだが、データは全て移し替えている。

ということは、本当に知らない番号。


もしかしたら改造ショップの雷さんかもしれない。

たしか彼らもこうして知らない番号から連絡してくるはずだ。

「はい、水琴春鷹です」

とりあえず、出てみた。

「おっ、もやしっ子か? 」

この声は……。

「金髪さん? 」

「そうだぞー。あのな、今週末悪いんだけど、店休みな。ちょっと用事ができてしまって」

うわ、生徒会長の言う通りになってしまった。

こえー、謎の権力が見え隠れしてこえー。

「つーわけで、休みな。店主には伝えておくから」

「はい、了解です」

通話がきられた。


俺と金髪さんが休みで店も閉めるって、今週も店主夫婦は旅行に行くつもりだったな!?

ていうか、休みにできるなら俺たちが二人で店を回す必要もないのでは!?

店主に文句を言いたいことが積み重なっていくが、果たして会える日はくるのだろうか。





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