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28話 有名人

月曜日。

いつものように教室で一人ぼっちで過ごしていると違和感を覚えた。

今朝からそう、それこそ登校したときから何かやたらと教室中から見られている気がする。


だるまさんが転んだの要領でパッと振り向いたりしたときには、2,3人びっくりしてリアルにこけるかもしれない。

見えていないのに、不思議と視線を感じるのは人間の不思議な能力だな。

危機感を察知しているのかもしれない。


誰も何も要件を告げてこないので、クリスティン先生が教室に現れるまでこの状態は続いた。

視線を向けられるだけ向けられて、何もないってのは結構居心地が悪いものだ。

前みたいに一人きりはそれはそれで辛かったのだが、これもなかなか表現しづらい辛さがある。


かといってこちらから出向いて聞くのもどうかと思う。

同じスカイフットボールチームに入っているマークあたりなら性格的にずかずか言ってくれそうだが、残念ながらマークとはクラスが違う。


何かやったかなー。

金曜日はこんな視線なかったし、何かあったとすれば土日か。

土曜日はスカイフットボールの練習後に清掃活動をしただけだ。

日曜日は中華鍋を振っていた。

右腕全般が完全に筋肉痛である。


悪いことは何もしていないと思うけどな。

もしかして過去にやらかした悪事が今頃になって出てきたのか!?

そういうのは困る。

100%俺が悪いので、弁明のしようがないし、すぐに償えるようなことならいいんだけど、そう簡単にはいかないことが多い。


宇佐ミミさんなら何か知っているかもしれないけど、彼女はクラス内では仲の良い女子グループと一緒にいる。

あそこに割って入るコミュニケーション能力はまだ俺にはない。

つまり、真実は闇の中!!


モヤモヤはするが、仕方がない。

全ては俺の過去の悪事のせいであるのだから。


午前の部の授業中も謎の視線は続いた。

けれど、俺のやることに変わりはない。

「ここ、ここ誰か魔法式を答えてみて」

シーンとする教室。

バッとまっすぐ俺が挙手をした。

「水琴春鷹が答えます! 」

「今日も君だけ元気だね。じゃあどうぞ」


視線があろうとなかろうと、そんなことは関係ないのだよ。

俺は今日もせっせと真面目に学園生活を送るだけなのだからな!


俺の端末が共通スクリーンとなり、浮かび上がるホログラムに答えを入力していく。

ここは絶対にテストで出るので、丁寧な文字を心掛けた。


ここ共通スクリーンモードで書いたものは他の生徒が使用している端末にも自動的に内容が反映される。

俺が丁寧に書いたら、皆も綺麗な文字で復習できるという訳だ。


真面目に午前授業を受けた後は、昼も定刻通りに食堂へと向かった。

華やかなメニューが並ぶ中、お腹の消化力が弱い俺は今日も変わらず梅と昆布おにぎりを一つずつ購入して食べた。


後からやってきた生徒たちがボリュームたっぷりの定食メニューを頼んで、先に着いた俺より先に食べ終わる姿を見るとどこかやるせない。

よ、よく噛んで食べましょうっていうし!

俺の方が健康的な食べ方だし!

強がっては見るものの、やはり謎の敗北感はぬぐえなかった。


そして、もう一つ気になる点がある。

この食堂でも謎の視線は付きまとった。

他のクラスにも知れ渡るほどの悪事が知れ渡っているらしい。

どの件だろうか。心当たりが多すぎて全く絞れないんだよな……。


ようやくおにぎり二つを食べ終わると、時間が結構過ぎていて、食べ終わった人たちが教室へ戻り、食堂内はまばらに席が空きだしていた。

平日は毎日この光景を見ている。

ふー、休憩時間が短くなるからもう少し早く食べたいものだ。


教室に戻ろうと席を立つと、そこに走ってくる影があった。

早瀬あやがスマホ片手に、それを振りながら駆け寄ってくる。


「おーい、春鷹! 」

「あや、どうしたんだ? 」

「もしかして食堂で食べてたの? 」

「ああ、ずっとそうだ」

「もしかして一人で? 」

うっ……そこはそっとしておいてほしいんだが。


「そう、一人だ。ゆっくり食べたいからな」

「そっかー。食が細いからねー、春鷹は。それよりさ、この動画見てよ」

あやが掲げながら持って来たスマホだ。

何か見せたがっているとは思っていたが、珍しい動画でも見つけたのか。

それをわざわざ見せに来るって相当だなと思う。


「ほらこれ」

ホログラムモードにして、映像を映し出す。

テーブルに映し出される人々の立体映像。


動画のタイトルが上に書かれており、『戦うコック』と題されていた。

映像は騒がしい人垣をかきわけるところからスタートする。


ようやく映し出した映像の中に、中華鍋を抱えたダークに取りつかれた男が一人茫然と立ち尽くす。

あれ!?

俺も知ってる。この映像のダークを知っている。

昨日のやつだ。


ちょっと待て、戦うコックってまさか……。

ガヤガヤと騒がしい映像の中で、人だかりの輪の中に男が一人飛び込んできた。


言わずもがな、俺である。

ゾッとして、汗が引いたのを感じた。

見られていたどころか、映像にしっかりと残されてしまった!

エプロンを着込んだ俺がそこにいる。


「これこれ。皆がこれ春鷹に似てるって言うんだよ。私が春鷹と仲いいから、真相を聞いてみてって言われてさー」

映像は流れ続けている。

ダークフレイムを使用して中華鍋ごとダークを葬っている昨日の通りの映像だ。


戦うコックは私でしたか。

「この映像、魔法使いが一撃でダークの瘴気ごと焼き尽くしてるし、何より料理人同士の対決ってこともあってすっごい人気動画になってるんだよね。恐らくトーワ魔法学園の生徒だからってことで、中等部は今この映像で話題が持ちきりだよ」

なるほど。

今朝の視線や、食堂で感じた視線はそれだったのか。

似ている俺がこの映像の本人じゃないかって!?

その通りでございます。


「どうなの? 私は違うって言ったんだよ。ここの中華屋に今日突撃して、このカッコイイ人が働いてないか探るって言ってる子もいてさー。店の迷惑になる前に真相を確かめておこうと思って」

なぜ学園でも一番仲がいいくらいのあやが見分けられていないのだろうか。そこは少し切ないぞ。

それとカッコイイと言ってくれた子を紹介して欲しいのだが……。


「これな。俺も見たよ。びっくりするくらい俺に似ているよな。でも違うぞ。ははは、水琴家長男がわざわざアルバイトなんてしないよ。お金には困っていないからな」

「それもそうだよね。春鷹の家超お金持ちだし」

「だろ? あははは」

めっちゃ苦し紛れのいい訳だ。

あやが鋭い人なら間違いなくバレているだろう。

仲の良いあやからみんなに違うと伝えてくれれば、俺のアルバイトがバレないで済む。


学園側がアルバイトをどう扱っているかは知らないが、中学生じゃまずい気がする。

それに俺だとバレたら、実家にもいろいろ言われそうだ。

特に田辺が。後田辺が。ほぼ田辺がうるさいだろう。

店に駆け込んで辞めさせてくることが容易に想像できてしまう。


店主に騙された今となっては働く義理もないのだが、俺が辞めたら金髪さんどうなるんだろう。

そう考えていると、やっぱりもう少し働きたいと思えてくる。


ちなみに、動画のタグは”御曹司”だった。

思いっきり勘づいている人の投稿だよな……。


それでも情報拡散能力の高いあやにはしっかりと違うと伝えておいた。

きっといい具合に広めてくれることだろう。


あやが早速友達のところに戻ろうとしたところで、取り巻きを複数連れた男が近づいてきた。

着ている制服は皆同じはずなのに、先頭の男はどこか一人だけ輝かしいオーラがある。

けど、歪んだ笑みを浮かべたその顔は、お世辞にも性格がいいとは思えない。

髪の毛が俺と違ってストレートすぎるほどストレートなのも気になった。


「あや、そんな貧乏人と一緒にいると貧乏が移るぞ」

へらへらといきなり混ざり込んで、そんな失礼なことを言ってのける。

誰だこいつ。それになんだ、いきなり貧乏とは失礼だし、割って入る辺りコミュニケーション能力たけーなおい。


「おや? これは水琴家の御曹司様じゃないですか。てっきり日曜日にせっせと中華屋でアルバイトしている貧乏人かと思っていましたよ」

うわ、世間の敵がここにいます!

誰か成敗して!


「誰? 」

と小声であやに耳打ちした。

「同じクラスの金持ちで嫌みな男。名前は覚えてない」

あやも小声で耳うちしてくれた。簡単で分かりやすい説明をありがとう。

今の説明だけでこいつの8割方を理解できた気がする。


「おっと、水琴さんへの紹介が遅れましたね。俺は志茂綿一樹しもわた かずき。当然知っていると思いますけど、水琴家と同じく財界に大きな影響力を持つ家ですよ」

志茂綿だと? マジで知らんな。

「ま、俺は日曜日に中華屋でバイトするような偽物の御曹司じゃないですけどね。ぷっ。水琴家がそこまで貧窮しているとは知りませんでした。聞けば水琴家の御曹司は授業も大層真面目に受けているそうで。どうやら家の危機を敏感に察知して将来に備えていらっしゃると見える」

嫌み男の言葉に合わせて、取り巻きたちがクスクスと笑い出す。

「おいおい、みんな。笑ったら悪いじゃないか。相手は水琴家の長男、春鷹殿だぞ」

それでもクスクスと笑い声は収まらない。

あまりの息のあいように裏でリハーサルでも挟んで来たのではないかと勘繰りたくなるクオリティだ。


「中華屋の何が悪いの? それに春鷹じゃないって本人が言ってるし」

俺の代わりにあやが嚙みついてくれた。

それにしても、本人じゃないというくだりは心苦しいな。

「お、おう。中華屋でのアルバイトも、授業を真面目に受けるのも素晴らしいことだと思う」

「ぷっ。そうですか。水琴家の長男はさぞや庶民派でいいですね。その調子で頑張ってくださいよ。せいぜい家名を落とさない程度にね」

ポンと肩を叩かれて、嫌み金持ちの連中が通り過ぎていった。


ちょっとした会話だったのだが、随分と体力をそがれてしまった。

ああいうのは関わらないのが一番だな。


「ごめんね、春鷹。変なのに絡ませちゃって」

「あやのせいじゃない。ああいうのは関わらず、すぐに忘れるのが大事だ」

「はぁー、私は同じクラスだからねー。この前なんて、君は美しいって言われてネックレスを贈って来たのよ。背筋が凍るかと思った」

うわー、痛い。それは痛すぎる。

「ネックレスはどうしたんだ? 」

「返したわよ。速攻でね」

「今度はフリマで売ろう。いい金になる気がする」

「嫌よ! 関わりたくないんだってば」

ぷっと俺たちは噴き出してしまった。

しばらく笑うとストレスも飛んでいく。

じゃあまた放課後にスカイフットボールで会おうと言って、俺とあやはその場で別れた。


動画の正体が俺だとバレないことを祈ろう。

後は時間さえ経ってしまえば、皆次第に忘れるだろう。


あとは、あれだな。さっきのモブ金持ち。

あれもなんとかせねばならない。


こちらが大人しくしていると見るやあの失礼な態度。

むっかつくー!

関わらないのが一番だが、向こうにそんな気がないのは明白。


これまで大人しくやってきた俺にわざわざ絡んでくるくらいなのだから。いや、大人しくしてたから余計に調子に乗ったのかな?

このままだと、絶対にこれからも俺の粗を探してくるだろう。


面倒くさいことこの上ない。

とはいっても、面倒くさいだけであって、それほどに警戒はしていない。


モブの癖に金持ちで取り巻きつきという彼の中途半端なキャラが原因だ。

春鷹の尖ったキャラを見習え。

名前を何て言ったか、確か志茂綿一樹だったか?


そんなキャラはファンキャンにはいない。

つまり正真正銘のモブだ。


それもそうだ。

金持ちキャラには絶対的な存在の春鷹がいる。

もう他の金持ちキャラはいらないのだ。


キャラで負けている時点で、ヤツに存在価値などない。

モブは所詮モブ。

何か強い個性や高い能力値がないからこそのモブ。


今は背伸びしているがいい。

きっとそのうち足元の小石に躓くことだろう。

合えて俺が手を出すまでもない相手である。


それでも、何度かうるさく吠えるようなら……。

水琴家の力か、もしくは俺の本人の力かで、黙らせる必要はあるかもしれない。

全ては彼次第である。





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