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26話 真面目な料理人

『トーワ最旨中華屋』と書かれた看板の店の前に立つ。

今日は日曜日、約束通りバイトにやってきていた。


料理スキルランクが偶然にもBもあった俺は、学園に黙ってこうしてこの店を救いに来たのだ。

店主が腰を痛める前に、その究極の味を誰かが引き継いでやらねばならぬ。

他に引き継いでいく人間がいなのなら、俺が引き継いで店主の気持ちを楽にしてやろう。


恐らく厳しい修行が待っているだろうから、気合を今一度入れ直して、扉を開いた。

「おっ、あんたが今日から入るっていう新しい料理人? 」

なんか金髪の若いおねーさんがいた。

安い酒を飲ませて、高い金を取る店に間違って入ってしまったらしい。

すぐ出た。


入り口を間違えたらしい。

ここの店は……、あら? トーワ最旨中華屋であっている。

じゃあさっきの金髪おねーさんは誰?

奥さんが一日で若返ったとか?

そんな訳はない。


恐る恐る、もう一度店に入ってみた。

「なんだよ。なんで出ていったんだよ」

「いや、店を間違えたかとおもいまして」

「間違ってねーよ。新しい料理人だろ? 」

「そうですけど、店主と奥さんは? 究極の味を伝授してもらうために来たのですが……」

「あー、それウソウソ。前も同じ手で料理人を捕まえてたからな。まだやってんのか」

嘘?

同じ手?

あの後継者がどうたらこうたら述べて、泣いていたのは作戦だったのか!?


「店主と奥さんはどちらに? 」

「この店普段から繁盛してるからなかなか休みが取れないんだよ。だからあんたみたいな料理人捕まえて休みを取って、今日は日帰りで温泉旅行に行ってるよ」

「え? 後継者は? 」

「前も使ってたなー、その手」

「たかしは? 何か帰ってこないとか言ってた」

「店主の息子さんね。よそで中華屋開いて成功してるよ。どこかの金持ちバカ息子に店に火をつけられて、その代わりにでっかい店を立てて貰ったんだって」

馬鹿な!?

究極の味どこ行った!?

これじゃあ正真正銘ただのアルバイトではないか!

それにたかしのエピソード、痛いほど心当たりがあるぞ。


「なんかすっかり騙されましたって顔しているな。どうする? 今日は営業休んじゃうか? 騙した店主が悪いしさ」

金髪さんはここで長いのだろうか。

施錠も任されているし、今の休む発言も昨日今日入った人のできるものじゃないだろう。


彼女がいれば、恐らく店は回るはずだ。

「いいえ、店主への文句はまた今度にします。レシピや材料は全て揃っていますか? 」

「レシピはもちろん、材料の下ごしらえも済んでるよ。あとは調理だけ。確信犯だなこれは」

だろうね。

俺一人の調理で回るように手を回している。

温泉を存分に楽しむつもりだな!


「けど今日は日曜日です。新人の俺と金髪さん二人で回せるでしょうか? 」

「誰が金髪さんだ。ギリギリ茶髪だっつーの。この店は平日にサラリーマンであふれるだけで、案外土日はそれほど忙しくないんだよ。学食に満足いかないトーワ魔法学園の連中が来るのと近場に住んでる人位だ。二人でいけるだろ」

「それなら問題ないです。店は開けましょう」


荷物を置いて、俺は手を腕まで念入りに洗った。

料理人は一に清潔、二に清潔、三に清潔である!

昨日読んだ本に書いてあった。


食中毒でも起こしたら一大事だ。

手を洗ったら、エプロンとコック帽をかぶる。

これで中華鍋を持てばなんか様になってくるな。


まだ開店前なので、用意された材料と調理器具、レシピを念入りに確認していく。

店のオープンまで1時間ほどある。

一通り流れを想定できたので、金髪さんと一緒に開店準備に入った。


「なんかやる気だな。すごく真面目にレシピを読んでたし」

「ええ、俺のせいで店の評判を落とすわけにはいきません。最低限の味は出すつもりです」

「騙された人間とは思えない意気込みだな」

「それはまた別件で苦情を入れます。今は店を守らねば! 」

「真面目だなー。まあいいけど」

二人で協力して、開店10分前には全ての準備を整えた。


店は清潔そのもの、さあいつでも来るがよい、客!


迎えた11時。

いきなり客が3人入って来た。

皆おじさんの単体客。金髪さんが言っていた近くに住んでいる人たちだろう。


金髪さんは接客担当。俺が調理担当だ。

金髪さんの料理ランクはFらしい。戦力としては期待できそうもない!


「麻婆定食ツー、エビチリ定食ワン。味濃い目で」

金髪さんからの声が聞こえてきて、メモも流れてきた。

金髪さんはなれた様子で飲料水の提供に入る。


「金髪さん、まずはレシピ通りに作りたいので、エビチリの味濃い目は断って頂けませんか? 」

客に聞こえないように、金髪さんに伝えた。

「ん? あの人大酒飲みで細かい味わかんないから気にしなくていいと思うけど、まあ言ったげる」

定食の白ごはんと卵スープ、辛い漬物は金髪さんが用意してくれることになっている。

その手を止めて、客の元に戻る金髪さん。


少し心配で覗き見た。

「おっさん」

見知った仲なのか、肩をぽんと叩いて呼びかけていた。

おっさんって……。

「高血圧なんだから味濃いとかやめときなー。可愛いJKからの忠告なんだからありがたくうけとりなよ」

「おお、それもそうやなぁ。じゃあ濃い目の代わりに愛情たっぷりでな」

「そういうことなら楽勝よ」

流石!

伊達に金髪してねーな。

金髪にコミュ障なしという話は本当だったようだ。


金髪さんが厨房にいる俺にウインクとグーサインを出してきた。

俺もグーサインで返す。愛情追加、承りました!


えーと麻婆とエビチリか。

レシピ通りに行こう。


レシピに書かれた通り、丁寧に材料を加えて加熱していき、寸分違わず仕上げて見せた。

テクニックに差はあるだろうけど、まあ形にはなった。


出来上がると、すぐに金髪さんが客に提供してくれた。

心配な俺は食べている様子をみた。


皆パクパクと美味しそうに食べている。

苦情は……なさそうだ。


俺の料理スキルランクBと、ここのレシピがあれば満足いく味が出せることが分かって少しホッとした。

「悪くない腕してるじゃん」

厨房に戻って来た金髪さんが褒めてくれた。

「レシピのお陰です」

「ここの店主、人の顔を見ただけで料理スキルランクが大体わかるらしいよ。それで目をつけられちゃったかもね」

そういことか。凄い能力だけど、いい迷惑である。


店の扉がまた開き、客が流れ込んできた。

今は昼時、油断している暇はどこにもなかった。


金髪さんが客を捌いていき、注文をどんどん取っていく。

俺は指示されたメニュー通り、ひたすら中華鍋を降り続けた。

忙しくて目が回るとはこのことだろう。

途中から自分が何をしいてるのかわからなくなった時があった。


日曜日は忙しくないってどこのどいつが言った!


昼時は本当にトーワ魔法学園の生徒らしき客が多かった。

安くて美味しいここの定食メニューは学生にありがいたい。


驚いたことことがあった。客の中にマークがいたことである。

頼んだメニューは餃子定食。

昨日あげた餃子の味が忘れられなかったとみえる。


俺の作った餃子定食もマークは美味しそうに食べていた。

アルバイトしていることがバレるのはなんだかまずい気がしたので、マークに正体は明かしていない。

あの様子なら、俺の作った餃子でマーティン、マーチスも満足してくれそうだな。


そうして知り合いとも会いながら、俺と金髪さんは大量の客を捌いていった。

午後3時。


ようやく店に静寂が訪れる。

「ふー、ここらで昼にしよう」

「そうですね」

「なにか適当に賄いを頼むよ」

「はい」


俺は少し多めに余った材料を適当にチョイスして、彩りチャーハンを一人前作った。

それを金髪さんに提供する。

たまごスープを準備していた金髪さんが、俺の顔見た。

「お前のは? 」

「ああ、俺は脂っこいものダメで」

だから白ごはんをよそいで、辛い漬物と卵スープだけで十分だ。


「なんだかあっさりしてんなー。だからそんなに痩せてんだよ」

全く返す言葉もないとはこのことだな。


すっかり疲労して腹ペコな俺たちは遅めのお昼を頂くことにした。

「うわ、うまー。客の反応からして思ってたけど、新人いい腕してんじゃん」

「どうも。金髪さんも客のあしらい方もうまかったです」

「金髪さんってな……まあいいか。あたしはそのくらいしかできないしな」

「一休みしたら、一旦清掃して夕方の部に備えましょうか」

「そうだな。夕方はこんなに急がいしくないから安心しろ」

本当ですか?

金髪さん日曜日は急がいしくないと言っていた前科があるからな。

むやみやたらには信じられない。

それにしても、白ごはんうまー。味付けなんていらないな。


金髪さんはチャーハンを俺は白ごはんの漬物付きを食べ終わり、共にスープを飲み干して、しばしの休憩に入った。

金髪さんが若干のうたた寝に入ったので、俺一人で皿洗いをしておこうか。


バシャバシャと洗っていき、たまっていた皿たちを綺麗にしていく。

そんなとき、店の外が少し騒がしい気がした。

何かが起きたみたいだ。


俺のそんな気にしている様子を見て、目覚めた金髪さんが説明してくれた。

「あー、ダークが出たなこれは」

ダーク!?

日曜日は街行く人も多いだろう。

被害が出る前に早く何とか処理をせねば!


俺は濡れた手を拭いて、コック帽を外した。

「金髪さん、ちょっと行ってきます! 」

「なんであんたが行くのよ! 」

「ちょうど客もいませんし、トーワ魔法学園の生徒としてダークは放っておけません」

「客がいないんだから休みなさいよ! 疲れてんでしょ!? ダークなんて放っておけば誰かが処理してくれるわよ! 」

金髪さんの静止を振り切って、俺は扉を開いた。


「誰かが処理していたら、すぐに帰って来ます。一応行くだけですから」

「えー、そんな真面目すぎるでしょ……」

「それが目標ですので」

俺は少しばかり店を開けて、ダークがいると思われる方向へと走り出した。






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