想定外、ギフト。
「ねー、教えてよお、吉乃ちゃん」
と、美咲が甘えた声で言う。
今日は引く気がないらしく、テーブルの上に身を乗り出してパフェのグラスを横にずらした。
この攻防は、もう三か月続いている。
けど、答えられるわけがない。
なぜうっかり美咲の罠に引っかかってしまったのだろう。女の勘とやらは侮れないが、それから毎日ファミレスで「相手を教えて」攻撃を受けている。
自業自得とは、まさにこのこと。
「──りんごのキャラメルケーキのお客様」
ぬっと割って入った明るい声に、私も美咲も顔を上げる。
顔馴染みの店員「和泉」くんに、美咲がひょいっと手を挙げると、それはお高いレストランのように恭しく置かれた。
「──かぼちゃタルト、ですよね?」
和泉くんが私ににこっと笑う。
皿を置く動きはやけにゆっくりで、彼は囁くように言った。
「ヨシノさん。いつになったら、お友だちに紹介してくれるの?」
「え」
私の声を、美咲の叫び声がかき消す。が、すぐにハッとしたように口を塞ぎ、私たちをキラキラした目で見つめた。
彼はにこっとまた笑う。
「はじめまして。和泉です」
と言いながら、ネームプレートを指さした彼は「ね?」と私を見た。
「ヨシノさん、ずっと言えないって言ってて……僕、年下ですから」
黙る私とは正反対に、美咲はうんうんと大きく頷くと、ちょっと失礼、とファミレスを出ていった。
携帯をしっかりと持って。
「……あの」
私が顔を伺うように見ると、和泉くんは笑顔を消し去る。
「いい加減、都合の良い浮気相手はやめたらどうですか」
「えっ?」
「見たんです。あのお友達の彼氏と揉めてるの」
私は首を横に振った。
外に出た美咲がテンション高く電話をしているのを見て、焦って和泉くんに向かって両手を振る。
「ち、違うの」
「へえ」
「いや、本当に違うんだってば!」
「素敵な人だと思ってたのに。残念です」
「え」
ふてくされたような言い方に、私の手が止まる。外では美咲が彼氏と合流した景色が見え、和泉くんが目を細めた。
「僕と付き合ってることにしたので、ちゃんと別れてくださいよ」
「だから違うって。あれ、兄!」
「え」
和泉くんは目を丸くして私を見た。
「だから、兄なの!」
「……も、揉めてたんじゃなかったんですか」
「兄に文句言ってただけ」
「……彼氏を教えてって毎日言われてるんじゃ」
「……す、好きな人を教えてって、言われてるだけ、です」
「それ誰ですか?」
誰って。
あなたですけど、なんて、言えるわけがない。




