休憩は間近
血糊あり。閲覧注意。
鉄壁の魔女と呼ばれるジンニーナ・タンツの遠隔魔法によって、銀紐隊名物の血塗れ隊長や血染めの防具は、すっかり見られなくなった。
ただ、騎士団本部にもナーゲヤリ中央議会にも秘密にしているため、公的な協力謝礼金は出ない。その代わり、普段はしてもらって当然という態度の隊員達から、寸志が集められる事になっている。
薬品マスター、フリードリヒ・ブレンターノの解毒剤散布により、ヨハン・レーベンが呼び集める鳥たちも、毒沼や魔獣の毒液から守られた。
魔獣避けは散布しながらの移動なのだが、完全に寄せ付けないわけではない。ジンニーナの守りの壁があるので、極論すれば何もせずに唯進めばよい。しかし、それは、隊員のメンタルに多大なダメージを与える移動方法なのだ。
左手の森の中から弾丸のように飛び出す毒牙兎は、守りの壁にぶつかれば紅い塊となる。痩せすぎた奇妙な茶色の野兎は、すっかり形を失う。
そして、進化した壁に血の跡を残さず、毒々しい牙や毛を晒す肉塊の姿をくっきりと隊員の眼に焼き付けながら、滑り落ちて行く。
そんなものを延々と見せられるのは、流石に勘弁してほしい隊員達であった。
ヨハンの鳥だけではなくて、壁から突き出される武器の数々には、守りはかけられていない。そこにかじりつく毒の牙や、氷尾長の尾羽が繰り出す氷の刃への対処は、各人の技量にかかっていた。
沼から跳ね上がる刃牙班魚のどぎつい緑色をした細身が、棍、槍、ブーメラン、魔法を乗せた空気砲等に向かって、獰猛に刃の歯を立てようと口を開ける。口と同じくらいの大きさをした眼を凶悪にぎらつかせながら、群れをなして襲う。
弓遣いフリードリヒ率いる5名を乗せた、三機の水空籠の底に張られた守りの壁同様、少しずつだが削られてゆく。守りが無い分、毒で腐食もする。
彼等の得物は特殊加工と魔法が施されている。それでも多少は損なわれる程の猛攻を受けた。
「ちっ、こんな入り口で消耗させられんのかよ」
短槍を華麗に振るうロベルト・ヘンデルが、舌打ちをする。毒沼は、銀紐隊員なら日帰りで来たことがある範囲なのだ。フリードリヒ、ヴィルヘルム、ゲオルクの3人組がやって来る頻度ではないにせよ。
ただ、交易都市国家モーカルとの共同討伐以来、鍛練がてら金目の素材を集めに沼まで来たのは、やはり3人組くらいなものではあった。
「愚痴んな、ロベルト。沼越えたら食事休憩だろ」
班長を勤める、副隊長フリードリヒが慰める。今回の遠征は、全貌不明の死の平原踏破である。移動しながらの食事は避けて、出来る限りの体力温存と機材のメンテナンスを行う予定だ。
それにつけても、ジンニーナの壁が有難い。
銀紐隊員全員一致の想いに、夫ジルベルト隊長は誇らしい気持ちで一杯だった。
(ジン、ありがとう)
平原側で魔獣や妖木等を駆逐しながら、何度も愛妻に通信を入れる。他の隊員には見えないし聞こえない。しかし、妻に触れられないもどかしさに隊長が不機嫌になるため、皆何かしら感づいていた。
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