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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
最終章・未知の領域
98/110

血と毒の霧

血飛沫表現あり。閲覧注意。

 ロベルト・ヘンデルとヨハン・レーベンの長柄物コンビが一つの籠に乗せられた。ロベルトは、水空籠を器用に操りながら、片手で身の丈程の短槍を振り回す。


 2人の得物はぶつからず、絡まることもない。勢いよく突いたり払ったりしながら、槍と棍とが鋭く(くう)を切る。多少は声の掛け合いをしているようだ。しかし、殆んど無言で互いの気配や呼吸を読んで行動していた。


 操縦係のロベルトは、四方に目を走らせ、的確に魔獣の処理をする。その上で水空籠に大きな揺れや、蛇行は起こさない。

 彼も1人の銀紐隊員である。逞しく鍛え上げられた腕が、しなやかに短槍を振るう。



 同乗者のヨハンの方は、口に咥えた自作の鳥笛で、森の烏や雀を呼ぶ。その傍ら、長身のヨハンを遥かに越える長い棍を空に突き上げ、鳥たちの追い込んだ氷尾長(こおりおなが)を的確に捉える。上に伸ばした腕で棍を水平に持ち替え、その勢いで、音波雀を凪ぎ払う。



 ごう、と言う風切音をたてながら、棍が鳥や虫の空飛ぶ魔獣に激しくぶつかる。吹き飛び、叩き落とされる時に散る赤や緑の魔獣の血が、粒となって毒沼に落ちて行く。


 縦方向の回転で、沼から飛び上がる毒魚や細長い沼の魔獣を潰す。比喩的な意味ではない。ミンチである。毒々しい緑や青の魔獣の屍肉が、どぎつい黄色や赤の体液を撒き散らす。

 有害な飛沫は、銀紐隊長ジルベルト・タンツの愛妻『鉄壁の魔女』ジンニーナがかけてくれる遠隔魔法が弾く。



 縦に回転させた後は、両手を使って水平方向に回転させる。頭の上で手首を捻って持ち替えながら、車輪のようにぐるぐるまわす。

 そこへ、森の木々を三角跳びして歯を剥き出した毒牙兎(どくがと)が、死の平原へと飛び出す。群れをなして襲いかかる魔獣の兎達は、ヨハンの棍で勢いよく森に打ち返される。


 また、金属の刺を身体中から突き出した鋼刺鼠(こうしそ)は、夕方近くになれば、毒沼を物ともせずに泳いでくる。

 籠の底にもジンニーナが遠隔で守りの壁を設置してくれている。下方からせり上がる剣山は、守りの壁を多少削りながらも、尽く折れてしまう。



 切り裂かれ、潰された魔獣の血は、落下する魔獣が跳ね上げる毒々しい水と混ざる。空中に漂う血と毒の液体は、ロベルトとヨハンの起こす旋風で霧となる。


 その霧を浴びて三機の水空籠は進む。以前はこのような状況に陥ってしまうと、視界を確保する必要があった。

 しかし今回、進化したジンニーナの壁は、こちらの攻撃を通しながらも血飛沫を完全に防ぐ。壁に触れた部分は、するりと払い除けられるのだ。


 流石にヨハンの呼び集める鳥の群れにまでは、防壁が及ばないのだが。

短槍の長さは、国や流派によってまちまちのようです。


お読み下さりありがとうございます

次回もよろしくお願いいたします

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