平原の沼地へ
森の外縁部は、壁から遠ざかるにつれて起伏を増していた。平原とはいえ、真っ平では無いのは当然だ。
見通しの悪いでこぼこした地形の為、一行は慎重に歩を運ぶ。
更に、森から突き出た枝や、疎らに生える平原の妖木が視界を悪くしている。三列横隊の左端2人づつ6名は、適宜枝を落としたり、森から飛び出してくる中型の魔獣を迎撃したりと忙しい。
一列目の中央にいる副隊長フリードリヒ・ブレンターノが、魔獣避けを散布しながら、手慣れた様子で採取もしている。壁を離れて1日程度の距離なら、植生を把握済みなのだ。
今回の調査遠征では、測量と記録、そしてなるべく多くの討伐を行う。その為、フリードリヒ一人や、ヴィルヘルムとゲオルクを加えたいつもの三人組での行動より、遥かに進みかたが遅い。
調査の三日分くらいなら、三人組にとっては、まだまだ庭の範囲といえる。
フリードリヒは、魔獣や妖木の魔力に反応して発火する薬品も開発していた。彼は、鏃に巻いた魔力伝導率の高い布に、その薬を染み込ませ、離れた場所へ射こむ。
近寄ると厄介な竜巻草や、魔獣が巣にしやすい浮遊木を事前に焼き払う為だ。
ただし、根こそぎ焼き尽くすことはしない。妖木や妖草の類は、フリードリヒやヴィルヘルムにとって、貴重な素材であるからだ。
今回の調査中に使う薬品や矢等の消耗品も、2人は使う側から補充している。
ゲルハルトも、礫は現地調達だ。そもそも、ゲルハルト・コールの場合、何も石や土塊でなくともよい。小枝でも、草の切れ端でも、布でも、あるいはテーブルや椅子だっていいのだ。
ヴィルヘルム・フッサール製作の空気球発射装置を使えば、空気砲に魔法を纏わせる事も可能である。
物に何かしらの魔法を乗せて投げる、それがゲルハルトの攻撃手段だ。礫を多用するのは、単に小石や土塊が投げやすいというだけだ。
(ジン、そろそろ防毒障壁頼む)
準備期間中に、ジルベルトとジンニーナのタンツ夫妻は、夫婦の魔力循環を利用した通信を確立していた。思念通話も可能だし、音声通話も出来る。
それどころか、映像交換も実用化していた。ただし、二人の間で互いの目の前に通信画面が現れたように見えるだけ。他の人とは共有出来ない。
「毒沼の瘴気区域に入るぞ」
後列の中央から、ジルベルト隊長が声を張る。ジルベルトは、ジンニーナや交易都市国家モーカル魔法守備隊から教わった方法で、指示を伝える。魔力を乗せた拡声技術を使うのだ。
風や魔獣の声、そして15人がそれぞれに使う武器の音にかき消されず、声は隊員に届く。
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