壁を離れて森の縁へ
翌朝も早くから、銀紐隊15名は全員で南門を出た。銀紐隊員は、何となくぞろぞろ出発した昨日と違い、およそ三班に別れた。15人のうち、先ずは壁の上を進む3人を送り出す。
後に続く2人も、水空籠で壁の上部を担当する。
銀紐隊員達は、壁の上部、中部、地上と、三班に別れて、半日で城壁北端に到着するだろう。
死の平原に接する部分が終われば、壁を離れて、森の外縁部分を進む予定だ。
門を出てすぐ身軽に登って行くのは、ヴォルフガング・シュリーマン。夜明けから活動している音波雀をいなしながら、危なげなく上を目指す。
3本あるブーメランを、片手で器用に投げている。時間差で投げることによって、音波雀に超音波攻撃の隙を与えない。
後に続くティル・シュトラウスは、伸縮自在の魔法の鞭で体を支える。顔の回りにたかる雀や虫の魔獣は、細かい棘のついた鞭で払う。
虫の魔獣は、山では殆ど生息が確認されていなかった。モーカルからの報告によると、海辺にも発生しないという。
死の平原に特有の魔獣であるらしい。
今回の調査では、普段から死の平原に来ている3人組の愛用している、薬品マスターフリードリヒ・ブレンターノの虫除けを使う。
からくり技士ヴィルヘルムの開発した、竜巻草の入った小さな『腰籠』も使う。ボール状に編んだ小さくて丈夫な籠に、竜巻草の欠片を埋めてある。
動く物が近づくと竜巻を発生させる特性を活かして、虫魔獣を吹き飛ばす。
籠には、フリードリヒの虫除け薬がたっぷりと塗ってある。風と同時に虫除けを振り撒く。二段階攻撃である。
城壁付近の虫魔獣は、二種類だ。
小針蚊は、普通の蚊に似ている。毒性も弱く、せいぜい痒みが出る程度だ。しかし、この蚊が持つ小さな針は金属製だった。うっかりすると、膿んでしまう。
毒足蝿オレンジと紫野の縞々模様だ。見るからに毒々しい足を獲物に触れて、硬直させる。
出発前に隊長の妻ジンニーナ・タンツから守りの壁をかけて貰わなかったら、相当緊張したことだろう。
ジンニーナは、今回の遠征を聞いてから思い付いた遠隔魔法を、すっかり便利に使いこなしていた。
始めは、夫ジルベルトとの『夫婦の魔力循環』を利用するつもりだった。循環する魔力にのせて、魔法を常時発動させる予定だったのである。
だが、何度か試すうちに、魔法が弱まったら遠隔でかけ直す方が効率的だ、と解った。
しかも、遠隔で守りの壁をかける実験を繰り返し、銀紐隊15人全員一時に対応出来るようになった。
毒や軽い攻撃程度なら、まるで気にせずに活動出来る優れものである。
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