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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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南門を出る

 出発の朝は、どんよりと曇っていた。黒に近い灰色の雲が、空一面に垂れ込めている。冬にはまだ遠いが、真夏の陽射しはもうとっくに過ぎ去った。


 銀紐隊の15人は、特殊な素材で出来た揃いの胴着を身に付けて、死の平原に挑む。この胴着は、適温を保つ機能に優れているのだ。素材は、1年以上かかるかも知れない探索の為に、モーカルから急いで取り寄せた貴重な布である。

 同じ素材の帽子と併せて、『裁縫屋』と渾名されるマックス・ラインラント隊員の製作によるものであった。


 その胴着の上からは、各々好みの装備をしている。銀紐隊が遠征する場合には、騎士団の制服を身に付ける義務はなかった。銀紐隊は、特務部隊だからである。

 本人達も、あまり正しく認識していないことだが、情報特化部隊である緑紐隊よりも、任務は更に機密性が高い。それ故に行動の自由度もナーゲヤリ城塞都市国家騎士団で、随一なのだった。



「天気(わり)っすね。雲も蹴散らして行きますか」


 空を見上げて、副隊長ヴィルヘルム・フッサールが軽口を叩く。愛用の籠手には、新しいからくりを付け加え、万全の体勢である。


「雨にはならんだろ」


 もうひとりの副隊長、小男フリードリヒ・ブレンターノも、空を見上げる。


「出発だ」


 隊長ジルベルト・タンツが淡々と告げれば、残りの14人が、


「はい」


 と声を揃える。

 15人は、城塞都市国家ナーゲヤリの南門を押し開き、素早く死の平原に出てゆく。ゆっくりしていたら、城壁付近の魔獣どもが雪崩れ込んで来てしまう。

 普段から死の平原に出て活動している3人が、行列の前後について速やかに門扉を閉めた。


 3人とは、勿論、副隊長2人とナンバーフォーのゲオルク・カントである。ジルベルトを含めた四人組が、公式の任務で行動を共にするのは、今では余程の事態であった。

 そうは言っても、勤務時間外には共に死の平原で集う日も多い。連携は、良く任務で組んだ若い頃よりも上がっている。


 先頭にジルベルト、副隊長ヴィルヘルムが続く。殿(しんがり)は、同じく副隊長のフリードリヒと、剛剣遣いゲオルクが勤める。


 隊列は、それ以外の序列がない。11人が、何となく2、3人ずつのグループを作って並ぶ。

 普段はガヤガヤと騒々しい連中なのだが、今、無駄口は一切叩かずに死の平原に赴く。



「予定通り、城壁付近の魔獣を殲滅してから測量だ」


 事前に計画していた通り、早朝に南門を出た一行は、始めに城壁に沿って都市国家の外周を辿る。


 普段から、街の近辺は副隊長2人とゲオルクによって、多少魔獣が減らされてはいる。だが、本格的な討伐は、ここ最近組まれていなかった。

 現在の増加率を鑑みて、まずは、街に入り込む城壁近辺の魔獣を激減させるのが目標だ。

次回、城壁を巡る


よろしくお願い致します

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