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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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魔女は待つ

 赤毛の魔女は、優しく夫を引き離すと、夕飯の支度を始めた。


「折角のシチュー、早く食べましょ」

「そうだな」


 ジルベルトも同意して、食器の準備を手伝う。



「ねえ、試してみたい事があるんだけど」


 小さめのテーブルに向かいあって座り、ジンニーナが切り出した。ジルベルトはパンを千切りながら、妻の猫目に視線を向ける。


「魔力循環を使えば、ずっと守りの壁を発動できるんじゃないかしら?」

「まさか、遠征の間ずっと?」

「うん。ジル以外は無理だけど」

「俺だけでも、魔法使いすぎにならないか?」

「やってみないと解んない」

「でもなあ」


 心配そうなジルベルトに、ジンニーナは、緑の猫目を優しく細めて、提案する。


「明日、早速試してみましょうよ」

「具合が悪くなる前に、やめるんだぞ?」

「ええ。壁の強度も色々試してみたいけど、いい?」

「まあ、1日くらいなら」

「良かった!これで安心出来るわ」

「けど、攻撃可能にしといてくれよ?」


 ジルベルト隊長は、銀紐隊で最大戦力だ。彼は、司令官型のリーダーではない。


「それも含めて、実験しましょ」

「銀紐には来るなよ。団長には気付かれたくない」

「そう?なんで?」

「ジンは街に居て欲しい」

「別に着いてっても良いのに」


 ジルベルトは、活動的な妻を真剣に見詰める。


「留守番を頼みたい」

「そうねえ。ま、離れているほうが色々試せるかもね」


 ジンニーナは、大人しく留守を守るつもりがさらさらないらしい。これ幸いと、遠隔で試せることを様々実験する気だ。やる気に満ちた瞳が、キラキラと輝く。



 銀鬼と恐れられるジルベルト・タンツ銀紐隊長は、行動を決意した妻を止めることは諦める。


「街中だって、これからどんどん危険になりそうだ」

「そうねえ。設置型の壁を試そうと思ってる」


 魔獣討伐本舗の依頼も、リピーターが増えているようだ。つまり、引っ切り無しに庭や屋根に魔獣がやって来ると言うことだろう。


 しかし、設置型にぶつかって潰れた魔獣の死体は、ジンニーナが行くまで片付ける者がいるだろうか。

 血や死体を放置しては不衛生だ。罠として設置するなら、壁の巡回は頻繁に行わなければ片手落ちである。


 ナーゲヤリの精鋭と世界的大魔法使いは、その辺りの感覚が違う。ぶつかった状態を見てしまえば、依頼主の顔色が蒼白になる。その事は把握しているが、感覚として解っていないのだ。



「ほう。かなり効率的に駆除出来そうだな」

「街は任せて」


 得意そうなジンニーナを、ジルベルトは、可愛くて仕方がない、と言う風に眺めるのだった。

お読みくださりありがとうございました

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