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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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死の平原は資源の宝庫

 鳥の魔獣ですら、逃れられない竜巻草の巻き上げる風の渦を、事も無げに乗りこなす人影がある。

 フリードリヒは、用心深く近寄って行く。


「んっ?ヴィル?」


 遠目に見える優男は、同期のヴィルヘルム・フッサールに似ている。魔獣討伐任務で見せる、華麗な籠手捌きを駆使して、竜巻に乗っている。


「おーっ!フリッツじゃん。なにしてんのっ」


 竜巻を乗りこなす怪しい男が、フリードリヒに向かって叫ぶ。


(ヴィルか。何してんだよ)


「お前こそ!なんだ?大丈夫か?」

「おうっ!なかなか楽しいぜっ」


 なよなよした見た目からは想像がつかないほど、図太い。



「それより、フリッツ、何してんだよ?」

「いやいや、お前だろ」


 ヴィルヘルムは、怒鳴り合いながらも、竜巻に乗っている。


「面白い素材見つけたんだよ」


 器用に両手の棒を動かして、ヴィルヘルムは地上に降りてきた。


「これ」


 ヴィルヘルムは、両足を地面につけると、竜巻草の暴風域を脱出する。そして、手にした木をフリードリヒに向かって突き出す。


浮遊木(フユウボク)

「浮遊木?あちこち浮かんでるやつか?」


 ヴィルヘルムの手にした棒と、遠くに漂ういくつもの木々を交互に見る。



「折ったり切ったりした後は、魔力を流して浮かせたり飛ばしたり出来るんだ」

「ヴィル、魔法使えんの」


 今度は、浮遊木を片手にまとめて、手袋に着けた石のような飾りを見せてきた。


「魔法石、いや魔法結晶か?」

「この辺、けっこう落ちてんだよ」

「えっ、自然に出来るもんなの?」


 魔法石も、魔法結晶も、魔力の塊である。より純度が高い物を魔法結晶と呼ぶ。どちらも、魔法使い達が工房で作っている。かなり高価な代物だ。


「ここでは、色んな魔力や魔法がぶつかり合ってるからなあ」

「へえー」


 魔法がぶつかり合うと結晶が出来るとは初耳だ。


「あ、ほら、見てみろよ」


 遠くの空で、大型の魔獣同士が激突している。

 チョロチョロ襲ってくる鋼棘鼠(コウシソ)や、音波雀(オンパジャク)をいなしながら眺めていると、魔獣同士の魔法がぶつかり合って弾けた。

 そして、バラバラと石のようなものが、死の平原へと降り注ぐ。

 どうやら、魔法結晶のようだ。



「お前は、何しに来たの?噴霧実験?」

「いや、竜巻草取りに来たんだけどさ」

「薬になんの?」

「まあな」


 竜巻草の効果は、当時の隊長に報告しただけで、仲間には話していなかった。


「ふーん。次は俺も竜巻草試すかなー」


 それ以来、2人は時々、連れ立って死の平原へと繰り出した。死の平原には、試していない素材が、いくらでも待っている。2人にとっては、楽園のような場所なのだった。

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