死の平原は資源の宝庫
鳥の魔獣ですら、逃れられない竜巻草の巻き上げる風の渦を、事も無げに乗りこなす人影がある。
フリードリヒは、用心深く近寄って行く。
「んっ?ヴィル?」
遠目に見える優男は、同期のヴィルヘルム・フッサールに似ている。魔獣討伐任務で見せる、華麗な籠手捌きを駆使して、竜巻に乗っている。
「おーっ!フリッツじゃん。なにしてんのっ」
竜巻を乗りこなす怪しい男が、フリードリヒに向かって叫ぶ。
(ヴィルか。何してんだよ)
「お前こそ!なんだ?大丈夫か?」
「おうっ!なかなか楽しいぜっ」
なよなよした見た目からは想像がつかないほど、図太い。
「それより、フリッツ、何してんだよ?」
「いやいや、お前だろ」
ヴィルヘルムは、怒鳴り合いながらも、竜巻に乗っている。
「面白い素材見つけたんだよ」
器用に両手の棒を動かして、ヴィルヘルムは地上に降りてきた。
「これ」
ヴィルヘルムは、両足を地面につけると、竜巻草の暴風域を脱出する。そして、手にした木をフリードリヒに向かって突き出す。
「浮遊木」
「浮遊木?あちこち浮かんでるやつか?」
ヴィルヘルムの手にした棒と、遠くに漂ういくつもの木々を交互に見る。
「折ったり切ったりした後は、魔力を流して浮かせたり飛ばしたり出来るんだ」
「ヴィル、魔法使えんの」
今度は、浮遊木を片手にまとめて、手袋に着けた石のような飾りを見せてきた。
「魔法石、いや魔法結晶か?」
「この辺、けっこう落ちてんだよ」
「えっ、自然に出来るもんなの?」
魔法石も、魔法結晶も、魔力の塊である。より純度が高い物を魔法結晶と呼ぶ。どちらも、魔法使い達が工房で作っている。かなり高価な代物だ。
「ここでは、色んな魔力や魔法がぶつかり合ってるからなあ」
「へえー」
魔法がぶつかり合うと結晶が出来るとは初耳だ。
「あ、ほら、見てみろよ」
遠くの空で、大型の魔獣同士が激突している。
チョロチョロ襲ってくる鋼棘鼠や、音波雀をいなしながら眺めていると、魔獣同士の魔法がぶつかり合って弾けた。
そして、バラバラと石のようなものが、死の平原へと降り注ぐ。
どうやら、魔法結晶のようだ。
「お前は、何しに来たの?噴霧実験?」
「いや、竜巻草取りに来たんだけどさ」
「薬になんの?」
「まあな」
竜巻草の効果は、当時の隊長に報告しただけで、仲間には話していなかった。
「ふーん。次は俺も竜巻草試すかなー」
それ以来、2人は時々、連れ立って死の平原へと繰り出した。死の平原には、試していない素材が、いくらでも待っている。2人にとっては、楽園のような場所なのだった。




