森林都市国家コカゲーの少女
交流の無い国の少女と、仲良く連れだって山を下りてきたフリードリヒ少年は、両親に酷く呆れられた。
「ただいま、父さん。薬友達のアイニだよ」
「こんにちは」
「類は友を呼ぶって言うけどさあ」
靴屋であるフリードリヒの父親が、裏口から入ってきた息子に答える。
「その紹介は無いだろう」
「どうしたの」
隣の台所から、母親が覗く。
「フリッツが、友達連れてきた」
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
「薬友達のアイニだよ」
フリードリヒは、おなじ文言を繰り返す。
「あら」
母親は、言葉に詰まる。
薬に夢中な子供2人は、大人の反応など気にしない。妙な間が出来ても、そのまま2階へと上がってしまう。
「薬友達ですって」
母が父に助けを求める。
「うん」
父も困っている。
「変わった色の髪だったわね」
「そうだな」
「物語に出てくる森の妖精みたいで可愛いわ」
「ああ」
なんとか、話題を変えようとする。
アイニの髪は、緑がかった栗毛だ。物語の妖精は、茶色がかったうす緑なので、印象は違う。似ていると言えば似ているのだが。
森の妖精は、秘薬の製法を知っている。お伽噺では、大怪我をした王子様や騎士を助けたりするのだ。
まれに、悪い妖精も出てくる。そちらの場合は、無理矢理、妖精の国へと姫君やご令嬢をさらって行く。
両親に、また妙な沈黙が訪れる。
「おやつ、持っていきましょうね」
「それがいい」
2人は、薬友達の件を聞かなかった事にした。
フリードリヒの実力は、知っているのだ。息子が認めた友達なら、少女も危険な事はしないだろう。
とはいえ、まだ子供である。おやつを運ぶついでに、様子はみたほうがいい。両親は、そう結論付けたようだ。
フリードリヒの母親が、おやつを持っていくと、2人は、採取してきたらしき薬草を並べて、熱心に話していた。
「おやつにしたら?」
母親の声にはっとして、フリードリヒが立ち上がる。
「そうだ、アイニをコカゲーに帰してあげなきゃ」
「えっ、コカゲー??」
「うん。コカゲーから山に登って、刃角鹿に出くわしたんだ」
「よく無事だったわね」
母親は、驚く。
「運が良かったよ」
フリードリヒは、真面目に答える。
「でも、俺がコカゲーまで送ってく事は出来ないし」
「そうね」
フリードリヒが帰ってきてから、初めてまともな言葉を聞いた母親は、真顔で頷く。
「どうしたらいいかな」
「大人に相談する」という、常識的な子供の行動に、母親はほっとした。
「騎士団に聞いてみましょう」
森林都市国家コカゲーと城塞都市国家ナーゲヤリは、国交が全く無い。これが、モーカルの子供なら、一般ナーゲヤリ国民でも、送って行くことが出来るのだが。




