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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第四章・死の平原を越えろ
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森林都市国家コカゲーの少女

 交流の無い国の少女と、仲良く連れだって山を下りてきたフリードリヒ少年は、両親に酷く呆れられた。


「ただいま、父さん。薬友達のアイニだよ」

「こんにちは」

「類は友を呼ぶって言うけどさあ」


 靴屋であるフリードリヒの父親が、裏口から入ってきた息子に答える。


「その紹介は無いだろう」

「どうしたの」


 隣の台所から、母親が覗く。


「フリッツが、友達連れてきた」

「あら、いらっしゃい」

「こんにちは」

「薬友達のアイニだよ」


 フリードリヒは、おなじ文言を繰り返す。


「あら」


 母親は、言葉に詰まる。

 薬に夢中な子供2人は、大人の反応など気にしない。妙な間が出来ても、そのまま2階へと上がってしまう。



「薬友達ですって」


 母が父に助けを求める。


「うん」


 父も困っている。


「変わった色の髪だったわね」

「そうだな」

「物語に出てくる森の妖精みたいで可愛いわ」

「ああ」


 なんとか、話題を変えようとする。

 アイニの髪は、緑がかった栗毛だ。物語の妖精は、茶色がかったうす緑なので、印象は違う。似ていると言えば似ているのだが。


 森の妖精は、秘薬の製法を知っている。お伽噺では、大怪我をした王子様や騎士を助けたりするのだ。

 まれに、悪い妖精も出てくる。そちらの場合は、無理矢理、妖精の国へと姫君やご令嬢をさらって行く。


 両親に、また妙な沈黙が訪れる。



「おやつ、持っていきましょうね」

「それがいい」


 2人は、薬友達の件を聞かなかった事にした。

 フリードリヒの実力は、知っているのだ。息子が認めた友達なら、少女も危険な事はしないだろう。

 とはいえ、まだ子供である。おやつを運ぶついでに、様子はみたほうがいい。両親は、そう結論付けたようだ。



 フリードリヒの母親が、おやつを持っていくと、2人は、採取してきたらしき薬草を並べて、熱心に話していた。


「おやつにしたら?」


 母親の声にはっとして、フリードリヒが立ち上がる。


「そうだ、アイニをコカゲーに帰してあげなきゃ」

「えっ、コカゲー??」

「うん。コカゲーから山に登って、刃角鹿(ハカクカ)に出くわしたんだ」

「よく無事だったわね」


 母親は、驚く。


「運が良かったよ」


 フリードリヒは、真面目に答える。


「でも、俺がコカゲーまで送ってく事は出来ないし」

「そうね」


 フリードリヒが帰ってきてから、初めてまともな言葉を聞いた母親は、真顔で頷く。


「どうしたらいいかな」


 「大人に相談する」という、常識的な子供の行動に、母親はほっとした。


「騎士団に聞いてみましょう」


 森林都市国家コカゲーと城塞都市国家ナーゲヤリは、国交が全く無い。これが、モーカルの子供なら、一般ナーゲヤリ国民でも、送って行くことが出来るのだが。

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