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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
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ジンニーナ、出迎える

しばらくは不定期更新です

 第三次堅塩鷗(カタシオカモメ)調査班は、タンツ隊長があらかた卵を潰した後、隊員一同、我に返って崖に挑戦した。魔法で強化された登攀綱(ザイル)を駆使して、崖の上下から各2名ずつ登る。巣穴に到達すれば、中に入る。上下の支援組は、親鷗の攻撃を防ぐ。


 岩壁は鋸刃のようにザイルを襲う。堅塩鷗の打ち出す塩の結晶も、僅かずつだが、繊維を削って行く。魔法で強化されているとはいえ、たいして()たないだろう。



 ジルベルトは、焦っていた。


(早く街に帰らなくては)


 飛来した堅塩鷗は、街の外壁や死の平原に、巣を作るかも知れない。岸壁程ではなくても、堅塩鷗が巣を作るのに適した場所がある。聳え立つ城塞都市の防壁や、死の平原に散在する背の高い妖木は、鷗魔獣にとって子育てしやすい。


(街の目撃情報を聞き漏らすとは)


 調査班の訓練中にも、別の『お使い』に走り回らされた銀鬼隊長。情報収集を怠ったつもりはなくても、平常時よりは疎かになっていたのだろう。


(大失態だ)



 絶え間なく上がってくる部下からの報告や、街の噂、そして『ジル&ジン魔獣討伐本舗』に来る依頼。そのどれかに、堅塩鷗の目撃情報はあった筈なのだ。

 過労と情報過多で、聞き流してしまったのかもしれない。生真面目なジルベルト隊長にとっては、たいへんに悔やまれる事態である。


 何よりも、妻との会話を蔑ろにしたのではないか、という不安が大きかった。

 出会った当初は、魔法使いに特有な『伴侶の魔力循環』の強烈な感覚によって、片時も離れたくなかった。

 出来るだけ多くの時間を共有し、話も沢山した。


 だが、次第に魔力循環の心地よさが日常となり、安心感から仕事優先に変化していった。

 周囲が顔を(しか)める程の密接ぶりだった2人だが、半年も経たない内に、平常運転に落ち着いた。

 それは、2人の優秀さ故でもあるのだろう。



(ジンは、寂しくはなかったんだろうけど)


 循環で感じる魔力には、寂しさや悲しみは混じらなかった。だが、大切な妻を後回しにしてしまっている、という事実に気づいてしまう。


 魔法使いの夫婦は、魔力循環によって、ほぼ2人で1人と言ってよい。感覚は常に共有している。半身というより、殆んど自分だ。

 だからこそ、安心し過ぎていつの間にか離れてしまう事例もあった。その別離は耐え難く、心が壊れてしまうのだという。



 ジンニーナは、ナーゲヤリの街で、ジルベルトの魔力から不安を感じ取っていた。視野共有が得意ではない為、情景を覗くのは止めておく。万が一に備えて魔力温存するのだ。そして、魔獣に異変が在るのだろうと想像するに留めた。


(珍しいわね)


 いつも冷静なジルベルトの焦燥に、ジンニーナも落ち着かない。調査班が下山する気配に合わせて、街外れまで出迎えに行くことにした。


(全然苛立ちが収まってないわね)


 余程状況が悪いのだろうか。


(怪我でもしたのかしら)


 夫の魔力が乱れており、赤毛の魔女は心配でたまらない。


(まだ見えてこない。でも、無駄に遠見を使って、魔力を減らしたら、完全浄化が必要だった時に困るわ)


 規格外の魔力量を誇るジンニーナでも、無尽蔵ではない。ここは、ぐっとこらえて静かに待つ。

次回、街の鷗

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