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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
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飛来

 ジルベルトは、珍しくイライラしながら堅塩鷗(カタシオカモメ)の巣穴を出入りする。

 そう、次々に入っては出てきているのだ。風を纏い駆け込むと思えば、炎を従えて飛び出してくる。

 魔獣の卵を焼き付くしているようなのだが、余りにも素早いので、見物人と化した部下達に、その実感が湧かない。


 前回巣穴に入って調査した、ヴォルフガング・シューマンの報告によれば、岩壁に穿たれた無数の穴は、どれもかなりの深さを持つ。岸壁の洞穴は、中に入れば幾つもの巣が作られていた。

 銀紐隊がやって来るまでは、人も魔獣も寄せ付けず、繁殖し放題だったのだ。

 垂直にも見えるごつごつした崖は、さながら空中要塞のようだ。



 潮風の吹き付ける断崖絶壁を、平地のように駆け巡る大男は、巣穴一つ一つをいちいち出入りしなければならず、もどかしく思っているらしい。

 流石に、他の隊員達も同じように、切り立つ崖を駆けずり回れるとは思っていないのだが。


 ついぞ見たことの無いほどに、密集した魔獣の巣が、ジルベルト・タンツ隊長を焦らせる。彼の魔力探知能力を、絶え間なく魔獣の気配が襲う。


(ああ、煩わしい)


 纏わりつく不快な感触に、ジルベルトは殺気を膨らませた。

 己の身体を覆うなら、愛しい妻の魔力がいいのに。



(出掛けに掛けて貰ったジンの魔法が剥がれるじゃないか)


 魔獣の鷗が打ち出す、とてつもなく堅い塩が、隊長に物理的損傷を与えることは出来ない。鷗の攻撃は、ジルベルトの愛しい赤毛の大女が、心を込めて包んでくれた守りの壁に阻まれているのだから。


 ジルベルト隊長は、妻との魔力循環を感じとる。

 そこへ、嫌な堅塩鷗の魔力が、割り込んでくる。それほどまでに濃い魔力が漂っているのだ。


(コロニーが出来てから、相当経つな。なんで気付かなかったんだ)


 コロニーに淀む魔力の量は、先日ドラゴンが出た討伐よりも前から溜まっていた、としか考えられないくらいであった。

 銀紐隊は、しばしば訓練と称して山に立ち入っていた。それなのに、誰一人として、鷗の大群を見つけられなかった。


(感知出来なかったのは何故なんだ)



 ジルベルトは、ロベルト・ヘンデルが翻訳・紹介した資料を思い返す。


(まてよ)


 確かに、あり得ないほどの魔力量だ。しかし、他の魔獣とは、生態が違う。


(堅塩鷗の繁殖は、爆発的に起こる)


 即ち、短期間で大群にまで膨れ上がるのだ。群れの形成は、案外最近なのかも知れない。



「誰か、街で堅塩鷗をみたか?」


 銀鬼は、通信装置で2つの班に問う。

 通信機の向こうが、少しだけざわつく。

 やがて、荒波が岩に砕ける音を背景にして、ヴィルヘルムの声が届く。


「こっちの班だと、ティルか見てます」

「こっちは、ヨハンの鳥達と既に一戦交えたそうですぜ」


 山中班のまとめ役は、ロベルトだ。幅広く魔獣の情報を収集しているため、視野が広い。適任だろう。

 彼以外の陸上組が、どちらかというと遊撃向けの人員だと言う事もあるが。

次回、

ジンニーナ、出迎える


よろしくお願い致します

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