卵を残すな
R15 ほんのり血糊 閲覧注意
堅塩鷗のコロニーがある崖下に上陸したジルベルト達一行は、小型通信装置で山中班と連絡をとる。
「こちら、水上班」
ジルベルト隊長の呼び掛けに応じるのは、ナイフ遣いルードヴィッヒ・シュヴァンシュタインだ。
「こちら、山中班」
「崖下に到着した」
「こちらも、崖上に到着しました」
「只今より、崖の登攀を開始する」
「了解致しました。援護します」
山中班が、鷗の魔獣を狩り始めた。崖下に死骸や岩の欠片が落ちないよう気を使う。
ジルベルトは、風裂魔剣カットを操り、風の加速で崖を駆け登る。ゴツゴツ尖った出っ張りがあるが、頑丈な靴底と愛妻の魔法で守られた足は、平地を走るように崖を蹴る。
ほとんど垂直に切り立つ岩壁とは思えない自在さで、堅塩鷗を蹴散らしながら駆け回る。
「え~と」
「むう」
「あー」
「うん」
ジルベルト以外の水上班は、岸に殺到する鷗の塩弾を適当に弾き返しながら、上を向く。4人とも、銀髪を靡かせる鬼人が、全身を血で染め上げる様を、ただ呆然と眺めていた。
山中班も、上から眺め下ろしながら、隊長の様子を見学している。多少の塩塊を迎撃しながら、ほとんど物見遊山である。
「生態とか、全く関係ないよな」
細かく情報を集めて翻訳した、多言語マスターロベルト・ヘンデルが、嘆く。
「登攀……???」
烏遣いヨハン・レーベンが、首を傾げる。山の中に生き残った烏や鳶を従えて、少し離れた場所に立っている。
「あ、巣穴に入った」
ハンマー遣いミヒャエル・ディートリッヒが、身を乗り出す。
「海から近付く必要あったかな」
崖下でも、ヴィルヘルムが、隊長の移動方法を疑問視している。
「上から駆け降りても一緒ですよね」
地図を作ったティルも、閉口した。彼は今、海図の勉強もしている。今回は、海岸線の水深等を記録しただけなのだが、そのうち沖合いまで遠征するかも知れない。
内陸部に立国されたナーゲヤリは、海の知識と経験が極端に少ない。最近の同時多発魔獣災害は、世界的な共同作戦が準備されている。まだ正式な要請は無いのだが、いずれ大規模な出動があるだろう。
その時に備えて、海について学んでいるのだ。
作図の練習という意味では、今回の水上班は、有意義だった。しかし、今回の移動手段について必要性を問われれば、疑問が残る。
「何してるっ!巣は沢山あるぞっ」
珍しく語気を荒らげた銀鬼隊長から、崖下に通信が飛ぶ。
第一次調査班では、ヴォルフガング・シューマンが巣穴を調べた。しかし、調査がメインだったので、かなり残したまま。
第二次では、崖を降りずに周辺の山中を調査した。
巣穴の掃討作戦は、今回に譲られていた。
「いくら成体を潰しても、卵が残ったら意味がない!」
ジルベルト・タンツが魔力を乗せた大声で吼える。
通信機からは、ぐしゃっばりっびしゃっ、という音が漏れ聞こえてきた。
魔獣の卵は、親が暖めなくても勝手に孵るものが多い。放置したら、危険なのだ。見つけ次第処分するのが妥当である。
次回、飛来
よろしくお願い致します




