銀紐隊、海へ
崖から帰って、次の日には、第二次堅塩鷗調査班が選ばれた。
小男フリードリヒ・ブレンターノ率いる5名である。前回の調査で作成された地図と報告書を元に、今回は、崖周辺への影響を調べる。崖に沿って、山中の被害状況を確認するのだ。
吹矢の名手マックス・ラインラントは、塩の礫から身を守る特殊な装備を考案した。繊維そのものに、守りの魔法を染み込ませる方法を、魔法部隊の青紐隊と共同で開発したのだ。
守りの魔法が繊維の奥にまで乗せられる素材で、複雑に編み上げた胴着やズボンは、弾力にも富む。堅塩鷗が打ち付けてくる霰のような塩塊も、ある程度は弾き返せる程の機能性を持つ。
まだ試作段階ではあるが、短期間での仕上がりは、流石と言える『裁縫屋』だった。
絡まり会う枝々を潜りながら、崖際を歩く時に、ヘルムート・エアハルトの爆弾投擲は頼りになる。軽業師とあだ名されるヘルムートは、足場も視界も悪い山中から、小型の魔法爆弾を遠投する。
堅塩鷗が塩の結晶を振り撒くアクションに移る時、すかさず爆弾を投げつける。従って、攻撃そのものを抑えつける事が可能なのだ。
それでも怪我をした場合は、カール・ヘーゲルが治癒魔法を施す。治癒していない時には、鋭い刺突剣で魔獣を端から串刺しにする。
5人目は、モーカルとの海上調査に同行した、体術使いジークフリート・エルンストだ。ナーゲヤリが世界に誇る、一流の通信員である。
ジークフリートは、街に残ったジルベルト・タンツ銀紐隊長と、現場のフリードリヒ・ブレンターノ副隊長との連絡を細かにとる。
自ら考案、開発、改良を繰り返した通信器具で、まるで隣に居るかのような通話を実現した。
その間に、ヴィルヘルム副隊長は、飛空籠を水空両用に改良する予定だ。ヴィルヘルムは、現在の1人乗りから、5人乗りくらいまでは大きくしたい。
未だ復興工事中の中央公園に、丁度良い池がある。ナーゲヤリ環境局造園技術課の厳しい見張りを突破して、留守番組が試運転に行く算段をしている。
死の平原と海を隔てる岸壁は、曲線を描いて内海を形成する。崖下の海岸線は、暗礁に守られ、船で近寄ることが困難だ。しかし、いざ近づいてしまえば、上陸可能な岩場がある。
大男タンツ隊長が、寝そべることが出来る位の幅はあるのだ。
池では波への対策が出来ないが、防水や定員の検証は可能だ。水面を滑って行き、少し浮いて暗礁を避ける練習を繰り返す。
最初は2人乗り、次には3人、と慎重に試して行く。
暗礁に見立てた障害物を、コッソリと池に設置し、日々最適の運航方法を追及する。
第二次調査隊は、第一次と違って、長い崖端を探索するため、1週間位かかった。その行程が終わる頃には、5人乗り水空籠が完成していた。
次回、岩礁に挑む
よろしくお願い致します




