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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第三章・銀紐隊の仲間達
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船を造る

 ヴォルフガング・シューマンがくまなく探検した崖の様子を、ティル・シュトラウスが凡その地図に仕上げて行く。


「自分で見てないから、正確とは言えませんが」


 几帳面なティルらしく、仕上がりに不満が残るようだ。しかし、現状、ティル自ら崖の細かな調査は出来ない。彼には、切り立った崖を登り降りする技能がないからだ。


「今は、凡そで充分だ」


 崖の上からサポートしながら、ジルベルトは部下を(ねぎら)う。



 ある程度まで、地図が描き上げられると、ジルベルト・タンツ隊長は、撤収を命じた。


「ヴォルフィ、登ってこい」


 潮時と思ったようだ。巣穴の殲滅は、今の装備では無理だ。崖の岩間や、断崖に穿たれた洞穴の中にある巣には、ヴォルフガングしか入れない。

 ゲルハルトの魔法空気弾を使っても、広範囲な崖のコロニーは潰しきれないだろう。



 第一次堅塩鷗(カタシオカモメ)調査班には、崖に降りられる人材は、2人だけだ。鷗の魔獣がいない状態ならば、ロープを使って登り降りすることは可能。


 だが、飛び交う魔獣と、降り注ぐ塩の礫に対処しながらの岸壁移動は、困難に違いない。


(もしかして、隊長なら独りで殲滅するんじゃないか)


 4人の部下達の脳裏を、ちょっとした推測が(よぎ)る。

 だが、ここでそれを口にしてはいけない気がした。懸命にも、4人の口は、閉ざされたままであった。


 第一、ジルベルトには、正確な地図が作れない。凡その図なら出来る。魔獣討伐を使命とした、ナーゲヤリ城塞騎士団員なら、地図の作成は必須スキルだ。ただ、ティル程に正確で情報量が多い地図は、誰にも真似できないと言うだけだ。



「海からもアプローチして、飛空籠(ヒクウロウ)がもう少し大きく出来れば、崖のコロニーを殲滅出来るかも知れないっすね」


 帰り道で、空飛ぶ籠の製作者、ヴィルヘルム・フッサール副隊長が発言する。


「海から?どうやって?」


 ジルベルトが驚く。皆も息を詰めて、ヴィルヘルムの返答を待つ。



「飛空籠を改良すんですよ」

「海にも行けるように造れるのか」


 隊長が、期待を込めて問う。それに対するからくり技師の答えは、素っ気ない。


「沖合いまで漕ぎ出すのは、無理っすがね」

「どっから出る?」

「空から降りるんすよ」

「水にも浮く飛ぶ籠か」


 漸く、ジルベルトにも、副隊長の構想が伝わる。


「そっす。浮遊木(ふゆうぼく)は、何にでも浮くんすよ」


 妖木の性質は、普通の素材と違う。浮遊木は、兎に角浮く木なのである。



 飛空籠は、今のままだと無人滞空が出来ないから、鷗を避けながら崖に移るのは難しい。礫を回避した拍子に、尖った岩の突起にぶつかる可能性もある。だから、岩壁に近寄れない。


「1人乗りなんで、籠が入れる大穴でもなけりゃ、崖に移る為に籠を捨てなきゃなんねえっす」


 そこで、崖下から岩場に上陸して登る戦法だ。


「5人乗り位が出来たら便利そうっすね」


 ヴィルヘルムの提案に、ジルベルトが頷く。周りで聞いていた他の3人も、同意の様子を表すのだった。

次回、銀紐隊、海へ


よろしくお願い致します

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