第一次堅塩鷗調査班
その夜、ジルベルトは、赤毛の妻を前にして、決まり悪そうに巨体を縮める。一応は、団長の身勝手な協力要請を拒否したと伝えたのだが。
「ふうん。でも、ジルは最初の班で崖に行くんでしょ」
ジンニーナは、大変不服従そうだ。
「まあ、仕事だからな」
「少しは休んだらどうなの?」
「状況を確かめておきたいんだ」
「報告聞くだけじゃダメなの?」
「第2班からは、それでもいいんだが」
ジルベルトは、むしろ隊長だけの調査班を組む方がよいとすら考えていた。折角の隊長会議が、単なる銀紐隊の派遣決議に終わった事を悔しく思う。
「今後の対応を考える為にも、最初は隊長クラスが調査に行く方がいいんだよ」
「そうなの?」
ジンニーナは、疑わしそうだ。
ジルベルトは、生まれた国の公共団体に所属している。常に、団体としての行動を視野に入れつつ、真面目な組織的行動をとる。
個人で活動してきた、放浪の魔女ジンニーナには、その辺りの感覚が理解出来ないのだ。
「悠長に様子見している段階じゃなさそうだからな」
「群れが出る度に、ジルだけが出掛けるなんて、不公平よ」
今までは、お人好しに協力出動していたジンニーナだが、短期間に繰り返される対応要請で、気持ちが変わったようだ。
「まあ、銀紐はもともと、そういう隊だから」
「へええ」
食後のお茶を飲みながら、夫婦の食卓に気まずい沈黙が落ちる。
崖の調査班が組まれると決まった後、銀紐隊長室には、ロベルトからの最新情報がもたらされていた。
集められた副隊長2名とナンバー4のゲオルクが、険しい顔で報告を聞く。
「広域での多発的大量発生、終息の兆しが見えず」
国外の通信メディアから、翻訳してロベルトが読み上げた。
「東の大陸では、海岸地方を中心に、魔獣被害が増加の一途を辿っている」
東の大陸といえば、海の道の起点となる湾岸都市国家ハンセーンが有名だ。他にも、長く穏やかな海岸線に沿って、幾つかの都市国家が存在している。
「また、内陸部にも、大型魔獣が大群を成して現れる、と言う報告が後を経たない」
海岸地方より頻度は落ちるが、それでも異常な程に短い間隔で、群れが発生しているようだ。しかも、通常は大きな群れなど作らないような種類の魔獣が。
「領海の調査によると、やや水温が高くなっているという」
ロベルトは、また別の国の報道記事を読み上げる。魔の海域を擁する、南方大陸では、水温上昇に伴い、海の魔獣が増殖しているらしい。それを狙う海鳥の魔獣も、豊富な餌で大繁殖してしまう。
その一方で、普通の魚介類は激減し、海産資源に頼った国々が大打撃を被っている。
「海で魚魔獣が繁殖し、失業する漁師達は、出稼ぎ労働を余儀なくされている」
だが、特産物の流通が止まった街でも、関連産業が影響を受けた。海の恵みを受けたおおらかな国々に、恐慌の嵐が吹き荒れている。
次回、断崖の銀紐隊
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