討伐隊の編成
隊長会議は、先ず緑紐隊からの報告で始まった。
銀紐隊員ロベルト・ヘンデルが見つけた、広域の魔獣大量発生記事から、あちこち調査に出掛けたのだ。
モーカルにジルベルトが派遣された頃は、外国まで足を伸ばす事が出来なかった。ナーゲヤリで他国に通信したり、ロベルトの翻訳した記事を精査したり、忙しかったらしい。
「詳しい状況は、国際会議を待ちますが」
緑紐隊長フランツ・プファルツは、一言断りを入れてから話し出す。
「森向こうの街道筋でも、魔獣が現れているようです」
会場がざわめいた。森向こうには、殆ど魔獣が出ない筈だ。この世の魔獣には、幾つかの生息地が存在する。それ以外の場所にも、居るには居るのだが、生息地に比べれば問題にならない程度なのだ。
生息地のひとつが、ナーゲヤリを取り囲む『死の平原』。他にも、『魔の海域』や『悪夢の岩山』などが有名だ。
「具体的な報告を」
ハインツ団長が促す。
「はい。こちらの地図をご覧ください」
プファルツ隊長ほ、投影機を操作して、広域地図を映写する。
「ここがナーゲヤリ。これが山」
ポインターを素早く振って、説明を始める。
「山を下り、『森の道』を辿って、この森を行くと森林都市国家コカゲーがあります」
森の道は、世界3大交易路のひとつだ。東の大森林を抜け、陶器や干した果物等が運ばれてくる。
「コカゲー近辺では、今のところ魔獣の目撃証言が無いようです」
コカゲーは、森の加護を受けている。森林都市国家コカゲーが位置する森の中心地には、魔獣が全く出ないのだ。
「うむ。世界の加護に変化が起きたわけでは無いんだな」
団長始め、会議の出席者が安堵する。森周辺に魔獣が頻出するとなれば、加護の力が弱まったのかと危惧されたからだ。
「では、森向こうの街道に現れる魔獣は、何処から来たのか」
フランツ・プファルツ隊長は、真面目な顔で皆を見回す。各隊長は、次の言葉を待っている。
「魔の海域に何かがあったと言う説が有力です」
「やはり、海上調査が必要か」
団長が、ちらりとジルベルト・タンツを見る。
「モーカルに押し寄せた堅塩鷗は、何処で増殖したのか解りません」
プファルツ緑紐隊長が、慎重な発言をした。団長は、
「大海を渡ってきたとは思えないが」
「堅塩鷗は、渡り鳥の魔獣です。魔の海域沿岸の断崖で、繁殖する事が知られております」
「じゃあ、そこで増えたんだろ」
「そうとも限らないんですよ」
「と、言うと?」
「堅塩鷗は、魔獣ですからね」
普通の生き物とは、生態が違う。繁殖地が一定とは限らないのだ。
「調査に出るなら、まず、近場の崖。銀紐隊の担当が妥当でしょう」
機動力を期待される銀紐隊は、近場の様子見を頼まれそうだ。その結果次第では、隊ごと遠方調査に旅立つかも知れない。
「それから、コカゲーと森の道。ここは、既に緑紐隊が調査中です。」
途中報告から、少なくとも鷗魔獣の群は、森と関係が無さそうなのだろう。
「魔の海域へ遠征する班、これはモーカル港が復興しないとダメですね。」
ジルベルトは、不満を露に、眉間の皺を深くした。
(結局、銀紐に丸投げか?)
恐らくは、民間協力と称して、タンツ夫人ジンニーナもセットなのだ。
次回、崖の調査に備える
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