調査は延期
ジルベルト銀紐隊長は、モーカル魔法守備隊員と合流出来て、ほっとした。いくら銀紐隊が魔獣防衛都市ナーゲヤリの精鋭部隊だと言っても、大型船が停泊する広い貿易港に、たったの5人では、厳しい。
しかも、そのうち1人は、不得手な治癒に専念している、民間協力者だ。残りの4人も、手強い案件に対応するときの、常連4名ではかった。
連携が取れないことは全く無いのだが、個々の撃破力は、多少落ちる。広域対応が可能な、フリードリヒ・ブレンターノと、機動力に富むゲオルク・カントの不在は、やはり痛い。
「タンツ隊長、守備隊からあと5名治癒に回しますね」
「ありがとうございます」
「そろそろ、治癒魔法の得意な隊員も到着する筈ですが、兎に角このままでは死人が出る」
モーカル魔法守備隊員も、港の人々に弱い守りの魔法をかけたり、避難誘導したりと、出来る限りの対応をしていた。しかし、ジンニーナの『壁』とは比べ物にならない。
最低限死者を出さない効果はあった。だが、重傷者は、かなりの数に登る。
最初の避難指示の後は、2人を残して、桟橋防衛に全魔力を注いでいた。治癒魔法使いが、絶対的に不足している状態だったのだ。
「魔獣対応は、任せて下さい」
「頼もしいです」
役割分担の相談をしながらも、魔獣の群れが小さくなってゆく。2つの都市国家から選ばれた、魔獣退治専門家達は、順調に仕事をこなしている。
怪我人対応班も、既に活動を開始していた。一刻を争う現場で、無駄な長話はしないのだ。
モーカル魔法守備隊から、応援が駆けつけるまでに、事態を好転させるのが目標である。
(デ・シーカ隊長は、攻守と治癒を同時に展開しているな)
他の隊員は、そのうち1つか2つの運用だ。流石、隊長を張るだけの事はある。
(その上人格者だからな)
ジルベルトは、自分達の団長と比べながら、鎖分銅を蛇のようにくねらせて、堅塩鴎を捌く。
ヴィルヘルム副隊長も、同じことを考えていそうだ。短い話し合いが終わった時、守備隊長に、尊敬の眼差しを投げた。
後の2人は、そこまでの余裕がない。
魔獣が降らせる塩の塊で、桟橋は傷だらけ。鋼鉄の船にすら、無数の穴が空いている。船荷も、ほとんどは駄目になったに違いない。
大型の貿易船が、軒並み傾いて沈んでゆく。港での事故なので、撤去が必要だろう。
堅塩鴎の襲撃が終息しても、港は長期閉鎖を余儀なくされると予想された。
(海上調査隊は、延期だな)
現状、港の復興が最優先。奇跡的に無事だった船があるとしても、沖合いへ調査巡航はしなくて当然だ。
(それにしても、大量発生が繰り返し起こるんじゃ、きりがない)
新しい対応策の開発が急がれる。国際会議まで、まだ時間がある。せめて、ナーゲヤリとモーカルだけでも、密に連携していかないと、人類存亡の危機に陥るかもしれない。
次回、群れ発生の対策を練る
よろしくお願い致します




