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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
53/110

血の弾幕に耐える

R15 血糊表現あり。閲覧注意


不自然な表現等を改稿しました

 堅塩鴎(カタシオカモメ)が、港に波状攻撃を仕掛けている。昼の光に反射して、魔獣の生み出す塩の結晶が、目潰しにもなっていた。


 ジルベルト達ナーゲヤリの5人は、赤毛の魔女ジンニーナが展開する魔法の壁に守られている。容赦のない塩粒をものともせずに、港に入り込んでゆく。


 ジンニーナは、まず港に居た人々に、守りの壁を被せてあげた。彼等の中には、遠い異国で大魔法使いジンニーナと出会った者がいた。大柄な赤毛の魔女を眼にしただけで、既に安心を感じているようだ。



「ジンニーナさん、治癒は使えますか」


 ヴィルヘルム副隊長が、期待を込めて聞いてくる。


「少しはね」


 ジンニーナは、防御に突出した大魔法使いであった。けれども、他の魔法だって、そこそこ使えるのだ。


「自信はないけど、やってみる」


 守りの壁と違って、ジンニーナが施す治癒は、広域魔法ではない。1人1人を地道に直してゆく。それも、重傷者が、赤黒い身体で折り重なっているような場所で。


 堅い塩の結晶に傷つけられた皮膚は、1面に破れて赤く腫れていた。傷口に溶け出す堅塩鴎(カタシオカモメ)の塩が、余計に痛みを酷くする。



「怪我人はジンにまかせるぞ」

「はい」


 ジルベルトが言うなり、ジンニーナの壁から、体術使いジークフリート・エルンストが飛び出す。ジークフリートは、こちらからは仕掛けられる程度に、軽く体に沿って壁を作ってもらう。


 一流の通信員であるジークフリートだが、長い手足を活かした、近距離攻撃が得意なのだ。魔獣の群れに迷わず突入する。その様子は、やはり銀紐隊員に選ばれるだけの事がある。


 手足に纏う頑丈な籠手と脛当を、面で押すかのように、堅塩鴎に当てる。ばんっと堅いものが弾けるような音を立て、白い魔獣達を凪ぎ払う。


 塩の礫は、予想以上に手強い。ジンニーナの作った、薄い壁があっという間に壊されてしまう。

 かけ直して貰おうにも、魔女は慣れない治癒で手一杯だ。

 鴎が飛ばす塩の結晶が、頬や額といった、剥き出しの皮膚を削り取る。透明な結晶は、ジークフリートの血潮を浴びて、赤く染まっていた。



 ジークフリートの血に浸された結晶が、3人の銀紐隊員達を襲う。ルードヴィッヒ・シュヴァンシュタインが、数本のナイフを操り、自分に飛んでくる赤い塩を弾き返す。


 ルードヴィッヒは、短剣を使って打ち返す赤い塊で、器用に堅塩鴎を撃ち抜く。弾き返した塩たちが、小気味のよいカンカンという音を立てる。


 ジルベルトが、風と炎の愛剣で、部下達が屠った魔獣を処理してゆく。勿論、自分も多くを退治する。

 勇ましく両手の魔剣と、愛用の鎖分銅を振り回し、銀鬼の紫がかった銀色の髪の毛が、乱れていた。



 港中で、汗と血が混じりあい、なんとも言えない嫌な臭いがしている。休む暇なく、血液を纏った大男が港を駆け巡る。


(ここで待ち合わせている、モーカル魔法守備隊は無事だろうか。)


 ジンニーナの治癒魔法は、気休め程度だ。この惨状を前に、ユリウス・デ・シーカ隊長率いる、モーカル魔法守備隊は、持ちこたえているのだろうか。

 視認出来る範囲で活動している隊員は、2名だけだ。それも、かなり疲弊している。


(少なくとも、強力な治癒魔法が使える隊員は居ないのだろうな)


 もし、1人でも強力な治癒魔法が使えたのなら、傷が早く癒えたであろう。


(ジンにばかり負担をかけたくないんだが)


 そうも言っていられない。

 離れて働く愛妻を見ながら、ジルベルトは、一刻も早く守備隊員達を探し出そうと決意した。

次回、モーカル魔法守備隊との合流


よろしくお願い致します

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