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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
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モーカル商人と話す

 ジルベルトがハズレの宿屋兼居酒屋に着くと、モーカル商人と魔法守備隊員が食事をしていた。


「あ、タンツ隊長さん、先程はありがとうございました」


 ジルベルトに気付くと、2人はさっと立ち上がる。


「いや、座って下さい」

「本当に助かりました」

「我々だけだったら、今頃生きてはいないでしょう」

「災難でしたね」


 2人は、椅子を引いて、恩人に席を勧める。ジルベルトは、素直に受ける。聞きたいことがあるのだ。


「しかし、あれほどの大群が戻っているとは思いませんでした」


 モーカル魔法守備隊でも、山の魔獣が増えているという情報は、掴んでいなかったらしい。


「朝、山を越えたときには、多少平原から入り込んでいる程度でした」

「えっ、そんな急に増えるものでしょうか?」

「死の平原で何かがあったのだろうな」

「何かって?」


 商人が、ゴクリと喉を鳴らす。


「解らない」

「ナーゲヤリは、大丈夫でしょうか?」


 山での不運を思い出し、商人は不安そうだ。


「特に大群が侵入してはいない」

「何があったんでしょうねえ」



 恐ろしそうに眉を寄せる商人に、ジルベルトは質問する。


「港の船員からは、何か聞いてませんか?」

「私が扱うのは、国産の日用品なんで、直接聞いた訳じゃないんですが」


 ナーゲヤリで売れるのは、日用品と廉価な肉や小麦である。そうした品物は、モーカル郊外産だ。平原の道が通る東側の草原は、山や死の平原とは違って、あまり魔獣が出ない。城壁の外側ではあるが、牧場と麦畑が営まれているのだ。


「友達に香辛料売りがおりまして」


 香辛料は、逆に総て海の道から来る輸入品だ。それを扱う商人ならば、港の噂にも詳しいだろう。


「一部の香辛料が、魔獣の影響で採れなくなっているとか。元はそれほど高くなかったのに、高騰してしまって、屋台の連中が困っているそうですよ」

「え、そうなのか?」


 守備隊員が驚いている。


「今はまだストックがありますからね。街の噂にはなってないでしょう。次の荷あたりから、仕入れは難しいって話でした」

「その香辛料の産地は?」

「海の向こうにある、高原国というところです。とても熱い国だそうですよ」

「この辺りとの共通点は、無さそうですけどねえ」

「それはこれから調査しなくては」

「はい、モーカルに帰ったら、今回の報告は必ずしますよ」


 この隊員は、実働部隊な為か、受付係とは態度が雲泥の差である。万が一、また共同討伐になっても、モーカルと連携が取れそうだ。ジルベルトは、ほっとした。



 ジルベルトは、ハズレに来る前に、騎士団本部へ報告しに行ってきた。


「つい最近、大討伐を経験したと言うのに、モーカル魔法守備隊の連中は、どうなってるんだ。まともなのは、デ・シーカ隊長だけか」

「受付隊員は、街の住民と変わらず平和ボケなんですよ」

「ナーゲヤリとは違って、守られてるだけだからな」


 久しぶりに、団長と、精鋭部隊の銀紐隊長が、意見の一致をみた。


「平原調査隊を組まねばな」

「これから、今日ナーゲヤリに来たモーカル商人に、昼は聞き損ねた港の噂を訊ねてみますよ」

「頼んだ」



 そして今、欲しい情報以上の安心を得たのだ。

 ジンニーナが店に入ると、3人は和やかにテーブルを囲んでいた。山では怯えていた商人も、噂が役に立って自信を得たのだろう。すっかり打ち解けた様子であった。

次回、モーカル港の噂


よろしくお願い致します

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