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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
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山越えのモーカル商人

 ジルベルトとジンニーナは、暗くなる前に下山出来るよう、山道を急いだ。ユリウス・デシーカ魔法守備隊長とは、遠方の大発生について、情報共有の見通しを話すことが出来た。


 現時点で守備隊に届いている範囲では、この辺りへの協力要請はまだ無い。鳩騒動の前に、2人が屋台で話した感じでも、商人達の危機感はなかった。本来なら、港で情報を得たかったのだが、時間がない。予定変更を余儀なくされたから、仕方のない事だ。


 デシーカ隊長が謝罪してくれても、ジンニーナの決心は揺るがなかったのだ。


「滞在を伸ばして、また魔獣がでたら、ジルは見殺しに出来ないでしょ」

「ジンもだろ」

「さあね。どうだろ?兎に角、町を出てしまえば、そう言う場面に出くわすことも無いでしょ」


 2度とモーカルでの仕事を請け負わない、というジンニーナの言葉は、曲げないようだ。細腕一本で、世界を旅してきただけの事はある。国から生活が保証されて、生まれた場所に住み続けているジルベルトとは、生き抜く覚悟が違う。



「デシーカ隊長は、好い人なんだけどねー」

「残念だな」

「隊長が丸く納めようとするから、部下が融通利かなくなるのかもね」


 ジルベルトが、よく飲み込めない顔をした。


「何故だ?」

「モーカルみたいに人の出入りが激しいとさ、身内に甘く余所者に厳しくなんのよ」

「逆みたいに見えるが」

「定住してる人達にとっては、常に敵か見方かわからない異分子がやってくんのよ?」


 ジルベルトは、軽く頷く。


「言われてみれば」

「身を守る為に、閉鎖的になんのよ。外面は社交的だけどね」

「そんなもんか」

「そんなもんよ」



 話しながら、峠を越える。


「ん?」

「なんだ?」


 ナーゲヤリ側から、ガサガサと落ち葉を蹴散らす音が聞こえる。魔獣だろうか。


「多分、刃角鹿(ハカクカ)と、人間が2人ね」

「1人は、魔法使いだな。多分両方、モーカルの人間だ」


 ジルベルト得意の魔力感知で、詳細に分析する。


「2人とも、ナーゲヤリでは感じたことがない魔力だな」

「何かあったのかしら。ナーゲヤリ側から来るなんて」

「通商が再開したとは、聞いてないよな」

「うん、聞いてない」


 タンツ夫妻は首を捻る。



 やがて、あわくって駆け登る2人のモーカル人に出くわした。1人は、モーカル商人だ。魔法守備隊員が1人付き添っている。


「戻って!」


 商人が、息も絶え絶えに叫んで寄越す。


刃角鹿(ハカクカ)だっ」


 守備隊員も、蒼白だ。


「あんな大物が戻っていたなんて」


 ジンニーナに守りの壁をかけて貰い、多少冷静になった、守備隊員が言う。


「早いな」

「精々、毒牙兎(ドクガト)の小さな群れ程度かと思っていたのにね」


 銀紐隊長ジルベルトと、赤毛の魔女ジンニーナも同感だ。予想よりも、魔獣の戻りが早い。

次回、魔獣の角


よろしくお願いします

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