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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
42/110

魔法守備隊長ユリウス・デシーカの失態

しばらく、1話ずつ投稿します

 打羽鳩(ウチババト)を片付けて山を降りた2人は、モーカル魔法守備隊の建物に入った。先程と同じ受付青年が、血を(したた)らすジルベルトの様子にぎょっとする。


「悪いんだけど、シャワー貸してくれない?」

「えっ、でも」


 魔法守備隊の設備は、食堂以外、関係者限定である。


「市場の魔獣発生は、聞いてるでしょ」

「え、まあ」

「誘導して、山の中で片付けなかったら、被害が大きくなったと思うけど?」

「はあ」

「あたしたち、中央街近くに宿とってんのよねえ」

「はい」


 緑紐隊お勧めの、情報収集に便利な宿だ。


「このまんま、ポタポタ血を垂らしながら、中央街を歩いていいの?」

「えっ、いや」

「けっこう臭うけど?」

「それは」

「シャワー貸して」

「しかし」


 ジンニーナの隣でじっとしていたジルベルトは、青年に軽く頭を下げる。そして、無言で受付に背を向けた。

 紺色マントの受付係は、あきらかに安堵した。


「そういえば、ユリウス・デシーカ隊長はまだなの?」

「はい、まだお帰りになりません」


 さっさと追い出したいのか、今度はハキハキと答える。ジルベルトは、固まり始めた血の溜まる眉間に皺をよせながら、守備隊の建物を後にする。



「ジルっ」


 ジンニーナは、慌てて追いかける。


「この分じゃ隊長も、永遠に帰ってこないだろ」

「とにかく、シャワー浴びてお昼食べなきゃ」

「ジン、悪かった」

「何が?」

「腹減ったよな」

「やだ、そんなこと?ジルこそ、動いたからお腹空いたよね」

「まあな」



 喋りながら、宿に向かう。案の定、道行く人が恐怖で息を飲む。宿の入り口でも、嫌な顔をされた。


「不衛生な状態でのご利用は、他のお客様のご迷惑になりますので」


 ジンニーナは、ニヤリと不適に笑う。ジルベルトでさえゾッとする笑みだ。忘れがちだが、銀鬼の愛妻は、世界を旅したフリーの大魔法使いなのである。


「ふふっ、正式に、討伐費用請求させていただこう?それから、2度と協力しないことにしましょ。荷物取ってくるから、外で待っていて」

「そうだな」


 国外情報が集まりやすい交易都市での情報収集は、ひとまず諦めざるを得なくなった。やはり、慣れないことはうまくいかない、とジルベルトは思った。



 荷物を取りに行く妻を見送り、ジルベルトは通りに出る。


「おや、タンツ隊長さん」


 出た所で、ばったりユリウス・デシーカ魔法守備隊長と出くわす。


「中央市場で聞きましたよ。打羽鳩の被害を最小限に留めてくだすったそうで。ありがとうございました」


 ジルベルトは、何とも言えない顔で頭を下げる。


「あ、これから宿で着替えるとこですよね。お引き留めしてすみません」

「いや、宿は追い出されたので、これからナーゲヤリに帰るところです」

「ええっ」

「魔法守備隊の受付に、ハインツ騎士団長からの手紙を預けてあります」

「じゃあ、せめて、守備隊で着替えていかれては?」

「断られましたので、遠慮させていただきます」

「なんと」


 デシーカ隊長は、言葉を失う。


「あら、ホントに外出してたの」


 支払いを済ませて出てきた、赤毛の大女が皮肉を投げる。守備隊長は、悲痛な顔で謝罪した。


 2人は、守備隊に無償宿泊させて貰う申し出は断った。ただ、着替え場所は借り、守備隊の食堂で軽く昼を取った。これも、城塞騎士団の出張経費で賄う。

 ジルベルトは、異国の食べ物を味見し損ねてがっかりだ。


 結局、情報もある程度得て、トンボ帰りで帰る事になった。ジンニーナは、しっかりと、討伐報酬を請求していた。妻を怒らせないようにしよう、と心に誓うジルベルトだった。

次回、モーカル商人


よろしくお願い致します

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