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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
41/110

血を流すなら山の中

今回も1話です


R15 後半に血糊、閲覧注意

 ジンニーナが、誘導の魔法を放つ。ジルベルトが、魔法の短剣を抜く。カットの風裂魔法は、加減をすれば、対象を切り刻むことなく風の流れを作り出す。


 魔女が先を駆けて行き、銀鬼が後を追いたてる。打羽鳩(ウチババト)の群れは、面白いように移動した。


「すげえなあ」


 市場にいた人々は、感心して、騒がしい灰色の塊を見送った。人々の避難誘導をするまでもなく、魔獣を誘導して終了だ。



 ひとしきり噂したあと、群衆はばらけて行った。屋台の店主達は、打羽鳩に荒らされた商品の後始末を始める。かなりの損失だが、怪我人はたいして出さずに済んだ。タンツ夫妻の迅速な対応のお陰である。


 夫妻と魔獣が見えなくなる頃、ようやくモーカル魔法守備隊がやって来た。状況を確認してから、彼らは、掃除や片付けを手伝った。


「守備隊さん、魔獣討伐を手伝わなくていいのかい?」


 店主達が、呆れたように問う。


「いやあ」

「『鉄壁の魔女』と『ナーゲヤリの銀鬼(シルバーデビル)』が揃ってんだ。俺ら出る幕ないよ」

「ありゃ、やばい」

「見るもんじゃないですねー」


 どうやら、共同討伐で、運命の出会いを目撃してしまった隊員のようだ。もう二度とタンツ夫妻の討伐現場には、居合わせたくないのだろう。



 一方、見送られたタンツ夫妻は、打羽鳩の群れを連れて、山に向かっていた。モーカルの街中に、大量の魔獣を1度に処理出来る場所が見当たらなかったからである。


 中心街から2時間程度歩いて、ようやく山に入る。この山は、交易都市国家モーカル、城塞都市国家ナーゲヤリ、森林都市国家コカゲーが、共同で管理している。

 だが、明確な境界線が設定されているわけではない。そうでなければ、魔獣を追っている時、境界線を越えたら終わりなってしまう。


「そろそろいいかな」


 山を中程まで登った頃、ジンニーナが声をかける。


「ああ」


 ジルベルトが長剣も抜く。

 山の中なら、誰でも魔獣を討伐可能だ。モーカルの一般国民は、討伐を禁じられているが、外国人に討伐禁止が適用されるのは、都市内だけである。


 ジンニーナが守りの壁を展開する。打羽鳩の集団が、魔法の壁に殺到する。塊から弾き出された魔獣は、ジルベルトの魔剣が容赦無く襲う。時折、双剣を片手で纏めて持ち、拘束魔法が施された鎖分銅バインドを操る。


 一方の端を握り混み、投げた方の端で魔獣を絡めて引き寄せる。手元に来たら、するりと鎖を解いて、風裂魔剣カットで切り、溶解魔剣メルトで焼く。焼いた後の灰には、土をかけておく。


 ジンニーナの壁に当たって潰れた鳥の魔獣達も、同じように焼く。血の臭いで、付近の魔獣が呼び寄せられたら、きりがないからだ。数羽ならともかく、群れ1つの血の臭いとなれぱ、死の平原まで流れて行く。

 山の魔獣を、わざわざ増やすのは、愚作だ。200年ぶりに行われた大討伐の意味がない。



「ジル、さすがにそのまま街に降りるのは、不味いわ」

「そうか」


 モーカルは、ナーゲヤリと違って、血だらけの人物に慣れていない。打羽鳩の返り血で、全身赤く染まったジルベルトは、拭いたくらいでは綺麗にならないだろう。鉄のような腐敗した肉のような、生臭い臭いも漂っている。


 ジンニーナはと言えば、相変わらず、靴底までピカピカである。ジルベルトは、戦闘スタイルが違うので、完璧に壁で囲めないのだ。囲んでしまうと、こちらからも手が出せなくなる。ひたすら、壁にぶつかって来る魔獣が、勝手に潰れて行く。


 ジルベルトの魔力は少なく、魔獣を大量に誘き寄せる程ではない。そうなると、ジンニーナが張ってくれた壁を罠として使うのは、難しい。自分から攻め込むには、壁は、最低限有害なものに触れない程度の設定にしておく必要があった。



「仕方ないな」


 ジルベルトは、せめてと思い、血を吸って重くなった上着を脱ぐ。


「守備隊で待ってて。着替え取ってくるから」


 下に着ていたシャツにも、血は染み込んでいる。街につく頃には、異臭を放つだろう。


「シャワー借りられると思う」

「だといいが」


 魔獣の血を着けたまま、建物内に留まるのは不衛生だ。しかし、市場を襲った魔獣の群れを退治したのだから、無下に追い出しはしないだろう。


 2人は、散歩から帰るような気軽さで、山を降りて行く。

次回、魔法守備隊長ユリウス・デシーカの失態


よろしくお願い致します

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