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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第二章・交易都市国家モーカル
36/110

国の外までお使いに

今回も1話

 ジルベルトにも、休日はある。しかし、殆どが休日出勤で潰される。特に、『ジル&ジン魔獣討伐本舗』を始めてからは、無償の協力要請で、ジンニーナまでが呼び出される。


「ジンは、休んでろよ」

「魔獣討伐は、国民の義務だからね」

「お前、人が良すぎるよ」

「ジルの方が忙しいでしょ」

「魔獣討伐は、騎士団の使命だからな」


 毎回、押し問答になる。


「2人の方が、早く終わるわ」


 最後はいつも、ジンニーナに押しきられるのだった。



 今日も、団長の所謂『魔法のお使い』に駆り出されていた。しかも、今回は泊まりがけである。


「タンツ、お前、山の状況調査と、ついでに、モーカルで国外の情報拾ってこい」

「他のメンバーは」


 ジルベルトは、希望を捨てずに聞いてみる。


「奥さん連れてけよ。たまには旅行も良いんじゃないか」

「妻は、騎士団の人間ではありません。酷使しないで下さい」


 団長は、粛清の後でも、相変わらずである。むしろ悪化している。自分の監督不行き届きが、招いた事態だったから、不機嫌なのだ。


 婚約者クララ・シュタインベルクとその両親に、様々な説明と謝罪が必要だった。にもかかわらず、まだ結婚出来ないでいる。目の前のジルベルトは、出会ったその日に結婚して、街中から祝福されていると言うのに。



『銀鬼』と『鉄壁』の出会いは、街の安全にプラスでしかなかったのだ。結婚して定住してくれたからこそ、『お使い』だって頼めるのだが、団長は、やはり面白くない。



「隊長が抜けるんだ。他の連中は動かせんだろ」

「本末転倒ですよね」

「つべこべ言うな」


 あまり不満を言うと、副団長経由で、中央議会に団長交代が打診されるかもしれない。ジルベルトとしては、それは、どうにか避けたい。


「せめてジンニーナの宿泊代は出して下さいよ。国民の義務の範疇を越えてますからね」



 次の団長候補は、ジルベルトだと噂されていた。

 若すぎるとの声もあるが、副団長は、ベテラン騎士である。補佐がしっかりしているから、もう交代しても良いのではないか、との意見すらある。


 本人は、中央議会との連携など、どうしてよいか解らない。これ以上仕事を増やされたくない。今ですら、『雑用隊の何でも屋』なのである。


 だいたい、団長だって、現場に出れば頼りになる。事務仕事に向かないだけだ。不適材非適所なのである。

 彼は、魔獣討伐最前線では、神がかった指示を出す。臨機応変の対応から、ハインリッヒ・“采配”・ハインツとあだ名される男なのだ。



「じゃあ、独りで行け」

「そうします」


 銀紐隊長ジルベルトは、不承不承(ふしょうぶしょう)に引き受けた。

次回、夫婦でハイキング


よろしくお願いします

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