熊はご馳走
今回は2話です。
R2/9/11 23:00, 9/12 0:00
これだけの数の光線眼熊が、眼を見開いたら終わりである。一頭でも厄介なのに、外にいるだけでも、ざっと6頭はいた。
この魔獣は、その名の通り、眼から殺人光線を放つ。光線を出すときに、カッと眼を見開くのだ。
3人は、無言で仕掛けた。ジルベルトの双剣と鎖分銅が唸った。ヴィルヘルムの籠手から、飛び出したのは針。フリードリヒが素早く放つ矢には、焼けつく毒が塗られていた。
フリードリヒの矢が、啜り泣くような音を立てて飛び、光線眼熊の眼を何対か焼き潰して行った。
「潰すぞっ」
ジルベルトのかけ声を合図に、3人は前に出た。ヴィルヘルムとフリードリヒが2人で、一頭を相手取った。弓を片手に薬品を操るフリードリヒ。籠手で覆われた腕全体を使って、魔獣の太い喉元を狙うヴィルヘルム。
ようやく一頭を仕留めた2人が振り向くと、大穴の前には、20頭程の殺人熊が、血溜まりの中で折り重なっていた。
「よし」
ジルベルトは、メルトのふた振りで焼き払うと、大穴に石を放り込む。魔獣を焼いた煙は、風裂魔剣カットの風で、全て大穴に流れ込んだ。
しばらく待っても、何も出てこない。恐らく、2人が一頭倒す間に、同じ作業を繰り返していたのだろう。
そして、終了したのだ。
ジルベルトは、双剣と鎖分銅の血をすっかり拭うと、2人の方へ顔を向けた。
細い金属で編んだ頭巾から、魔獣の血が垂れて来た。ジルベルトは、べったり血の付いた胴着の懐から、大判の新しい布を取り出して、丁寧に顔や手を清めた。
2人は、振り向いた時の中途半端な姿のまま、ただぼんやりと、悪鬼さながらのその姿を眺めていたのだった。
「おわぁっ」
ゲオルクだ。フリードリヒが、薬品でつけた目印を追って来たのだ。これは、4人だけが解る秘密の印だ。今回の任務前に、決めておいたのである。
「あぁ」
「ゲオルク」
虚ろな表情のまま、2人が声を出した。
下山した4人の報告を見て、当時の団長は、
「お前の魔力感知は、すげぇな」
と絶賛した。
魔力感知で、魔獣の巣を発見したのである。
九死に一生を得た宿屋の中年婿は、面白おかしく光線眼熊遭遇事件を語って広めた。
「そりゃあもう、恐ろしかった。まるで、銀色の悪魔だった」
「なんだい、親爺さん、その歳で嫁さん貰うわ、奇跡の生還するわ、ずいぶん景気がいいねぇ」
「そりゃまあ、そうなんだが」
絶賛と噂はいつしか融合し、ジルベルトは『銀鬼』と呼ばれるようになっていた。
そんな思い出の宿屋つき居酒屋ハズレは、元気に営業していた。すっかり温かくなった夕方の風が、開け放した窓から、心地よく吹いてくる。
「あら?お揃いね」
「隊長、ジンニーナさん」
「どうも」
たまたま食事に来た銀鬼夫妻に、声をかけられた。ジルベルト隊長は、勝手に相席する。夫が無言で座ったので、赤毛の魔女も隣に腰かける。
巨漢と大女に前に座られて、小男と優男は、圧迫感に苦笑する。
「ゲオルクは、来てないのか」
「ああ、そのうち来ます」
「隊長も、ほんとは偶然じゃねぇでしょ」
「まあな」
4人だけに通じる薬品の印で、集合したのである。
「まあ、そんなことがあったのねえ」
一通り聞き終わると、ジンニーナは、熊シチューを注文した。
次回、韋駄天ゲオルク




