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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第一章・魔獣防衛都市ナーゲヤリの人々
23/110

熊はご馳走

今回は2話です。


R2/9/11 23:00, 9/12 0:00



 これだけの数の光線眼熊(コウセンガンユウ)が、眼を見開いたら終わりである。一頭でも厄介なのに、外にいるだけでも、ざっと6頭はいた。


 この魔獣は、その名の通り、眼から殺人光線を放つ。光線を出すときに、カッと眼を見開くのだ。



 3人は、無言で仕掛けた。ジルベルトの双剣と鎖分銅が唸った。ヴィルヘルムの籠手から、飛び出したのは針。フリードリヒが素早く放つ矢には、焼けつく毒が塗られていた。


 フリードリヒの矢が、啜り泣くような音を立てて飛び、光線眼熊の眼を何対か焼き潰して行った。



「潰すぞっ」


 ジルベルトのかけ声を合図に、3人は前に出た。ヴィルヘルムとフリードリヒが2人で、一頭を相手取った。弓を片手に薬品を操るフリードリヒ。籠手で覆われた腕全体を使って、魔獣の太い喉元を狙うヴィルヘルム。


 ようやく一頭を仕留めた2人が振り向くと、大穴の前には、20頭程の殺人熊が、血溜まりの中で折り重なっていた。


「よし」


 ジルベルトは、メルトのふた振りで焼き払うと、大穴に石を放り込む。魔獣を焼いた煙は、風裂魔剣カットの風で、全て大穴に流れ込んだ。


 しばらく待っても、何も出てこない。恐らく、2人が一頭倒す間に、同じ作業を繰り返していたのだろう。


 そして、終了したのだ。



 ジルベルトは、双剣と鎖分銅の血をすっかり拭うと、2人の方へ顔を向けた。


 細い金属で編んだ頭巾から、魔獣の血が垂れて来た。ジルベルトは、べったり血の付いた胴着の懐から、大判の新しい布を取り出して、丁寧に顔や手を清めた。


 2人は、振り向いた時の中途半端な姿のまま、ただぼんやりと、悪鬼さながらのその姿を眺めていたのだった。



「おわぁっ」


 ゲオルクだ。フリードリヒが、薬品でつけた目印を追って来たのだ。これは、4人だけが解る秘密の印だ。今回の任務前に、決めておいたのである。


「あぁ」

「ゲオルク」


 虚ろな表情のまま、2人が声を出した。



 下山した4人の報告を見て、当時の団長は、


「お前の魔力感知は、すげぇな」


 と絶賛した。

 魔力感知で、魔獣の巣を発見したのである。


 九死に一生を得た宿屋の中年婿は、面白おかしく光線眼熊(コウセンガンユウ)遭遇事件を語って広めた。


「そりゃあもう、恐ろしかった。まるで、銀色の悪魔(シルバーデビル)だった」

「なんだい、親爺さん、その歳で嫁さん貰うわ、奇跡の生還するわ、ずいぶん景気がいいねぇ」

「そりゃまあ、そうなんだが」


 絶賛と噂はいつしか融合し、ジルベルトは『銀鬼』と呼ばれるようになっていた。



 そんな思い出の宿屋つき居酒屋ハズレは、元気に営業していた。すっかり温かくなった夕方の風が、開け放した窓から、心地よく吹いてくる。


「あら?お揃いね」

「隊長、ジンニーナさん」

「どうも」


 たまたま食事に来た銀鬼夫妻に、声をかけられた。ジルベルト隊長は、勝手に相席する。夫が無言で座ったので、赤毛の魔女も隣に腰かける。


 巨漢と大女に前に座られて、小男と優男は、圧迫感に苦笑する。


「ゲオルクは、来てないのか」

「ああ、そのうち来ます」

「隊長も、ほんとは偶然じゃねぇでしょ」

「まあな」


 4人だけに通じる薬品の印で、集合したのである。



「まあ、そんなことがあったのねえ」


 一通り聞き終わると、ジンニーナは、熊シチューを注文した。

次回、韋駄天ゲオルク

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