ハズレの宿屋
今回は、2話てす。
R2/9/10 23:10, 9/11 0:00
春先に行われた、200年振りの共同討伐作戦から、早くも一月が経とうとしている。音波雀で廃墟と化した中央公園も、ぼちぼち復興が始まっている。
「は~、まだ瓦礫残ってんのかよ」
「マリーナちゃんが居たら、1週間で終わるな」
「お、フリッツ、解ってんねぇ」
マリーナ・フッサールは、青紐隊の土木魔法使いである。銀紐副隊長ヴィルヘルムの恋女房だ。彼女は、小柄で可愛らしく、ちょこまかと走り回って、豪快な技を繰り出す。瓦礫撤去を手伝えば、1週間で片付け終了するのだろう。
ここ城塞都市国家ナーゲヤリは、血気盛んな魔獣防衛都市である。管轄ごとに派閥を作り、何かと言うと睨み合う。最前線で闘う城塞騎士団が、むしろ最も穏やかなくらいだ。
公園の工事は、ナーゲヤリ環境局造園技術課が担当している。彼等のメンバーに、魔法使いはいない。「造園技術に魔法を使うのは、邪道である」と言う信念を貫く集団なのだ。
そして、玄人意識も高く、「雑用隊」銀紐に応援要請を出すこともない。兎に角、時間をかけて、地道な復興が行われている。造園技術課としては、神速の域だそうだが。
「んで、フリッツ、どこ行くよ」
普段は、副隊長2人が、揃って同じ時間に帰れる事など無いのだが、今日は、本部で研修があったのだ。
ゲオルクが、副隊長代理として、留守を預かっている。
「ハズレ行こうぜ」
「やってんのかぁ?」
まだペーペーの駆け出しだった頃、1年先輩のジルベルトに連れられて、よく夕飯に来た店がある。その店は、山の麓にある。街の外れだから、通称ハズレ、である。
その頃のジルベルトは、確かにかなり厳ついが、面倒見の良い兄貴分だった。
ジルベルトは、マリーナとの恋を、茶化さずに見守ってくれた。その事を、籠手遣いヴィルヘルムは、今でも感謝している。
まあ、堅物で、羽目を外さないのは、昔からだが。それでも、まだ、銀鬼とは呼ばれていなかった。
彼に不本意な渾名がついたのは、4人で担当した初めての討伐だった。冬眠明けの熊に混ざって、光線眼熊が、山に出たのだ。
ナーゲヤリは、山向こうの交易都市国家モーカルまで、日用品を仕入れに行く。道中の安全確保は、騎士団の大切な仕事であった。
大抵は、各隊から1,2名ずつ集められた、混成部隊で討伐に赴く。だが、この時は、『死の平原』側から毒牙卯が押し寄せており、そちらに人員が割かれていた。
光線眼熊は、一匹であるし、ジルベルト達4人は、新人グループで頭ひとつ抜けていた。そこを当時の団長に見込まれて、4人だけで、討伐任務につくことになったのである。
次回、山中の血戦
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