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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
第一章・魔獣防衛都市ナーゲヤリの人々
18/110

袋を用意すべきです

今回は2話です。


R2/9/8 23:00,9/9 0:00 です。


 明け方から降り続いた雨が、午後になってもやむ気配がない。


 今日も戸口が開けっぱなしの隊長室に、籠手遣いヴィルヘルムと薬品マスターフリードリヒが顔を出す。隣の副隊長室から、午後の仕事を確認しに来たのだが。


「隊長~あれ、居ない」

「ちょっと待つか」


 雨で予定を変更しなければならない部分もあるので、とりあえずは、待ってみる。



 2人が戸口で待っていると、華麗なる短槍遣いのロベルト・ヘンデルが通りかかった。


「隊長なら、『お使い』ですぜ」


 この男の特技は多言語である。


「さっき、新しい辞書の予算認可を貰いに来たとき、出掛ける準備してました」

「俺ら呼ばないなんて、珍しいな」

「ゲオルクと行ったんじゃね?」

「俺も、誰と行くのか聞いたんすけど、隊長だけみたいした」



 副隊長2人組は、顔を見合わす。


「団長に、1人でも行けるだろって言われたみたいっす」

「何、俺ら、お守りだったの?」

「嫁さん見つけてからは、確かにそうだったな」


 フリードリヒが納得する。ロベルト・ヘンデルは不安そうに、聞いてきた。


「見張ってなくても、過剰殺戮しなくなったんすかね?」

「うーん、どうかな」

「そもそも、俺らに伝言すらなく出掛ける時点で、駄目じゃね」


 主の居ない隊長室の前で、3人の隊員は、沈痛な面持ちで立ち尽くした。


「デートと勘違いしてるよな」

「張り切って惨殺するよな」

「すね」



 所変わって、ナーゲヤリ国立植物園。ここは、武器の材料や薬草の、研究施設である。


「植物には、くれぐれも、傷を付けないで下さいね」


 園長が、厳しく注文する。


「となると、おびき寄せて眠らせる、とか?」

「うん」

(数匹なら、外で焼けばいいか)



 植物園に、万力蛇(マンリキダ)が出たのである。


 万力蛇は、細い外見に似合わず、巻き付かれたら鋼鉄のような締め上げをしてくる。速さは普通の蛇程しか無い。それでも、充分捕まえにくい。


 罠を仕掛けたり、捕獲網を持って捕まえようとしたり、職員も努力はした。しかし、力及ばなかった。



 万力蛇は、地味な蛇にしか見えない。細くて枯れ枝のような外見をしている。森や公園では、目立たないため、気づいたときには手遅れとなるケースが多い。


 植物園では、毎日詳細な記録を取っている。その為、発見は早かった。しかし、スルスルと隠れられてしまい、なかなか退治出来なかったのだ。



「じゃ、出力絞って誘きだすから、始末してね」

「取りあえず、捕まえて、外で焼こうぜ」

「是非、それでお願いします。丈夫な袋を、すぐに準備致しますね」


 園長は、明らかにほっとした様子で、袋を取りに行く。


「公園とか、民家の庭も調べないとね」

「そこは、別料金だろ」

「でもねぇ」


『ジル&ジン魔獣討伐本舗』は、だんだんに仕事が増えている。子育て中で、害獣駆除に手こずる家庭からの依頼は、そこそこ入って来ていた。


 しかし、騎士団からの依頼は、相変わらず『給料内』。民間協力は義務ではあるが、多少の労いがある。ところが、騎士団の『お使い』には、お駄賃などと言う気の効いたものは無い。


「いつか纏めてふんだくってやる。記録は全部付けてるしな」


 案外、執念深いジルベルトであった。

次回、植物園の攻防


よろしくお願い致します。

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