雀のお宿へお使いに
今回は2話
R2/9/8 11:00,12:00
鋼棘鼠の掃討作戦で、ジルベルトとジンニーナは、一躍時の人となった。真っ昼間の街中での出来事だったからである。
気を良くしたジンニーナは、自宅に『ジル&ジン 魔獣討伐本舗』という看板を掲げた。銀色の金属で作られた透かし彫りの中に、綺麗な緑の文字が踊る。
「あたしたちの子供みたいでしょ」
照れながら言うジンニーナ。ジルベルトは、感激して抱きしめる。ついでにあちこちチュッとする。
「ごめんね。魔力が高すぎて、子供は無理かも知れないからさ」
父母どちらか若しくは両方の魔力が高すぎると、なかなか子供は出来無いのだ。もし出来ても、赤ん坊は、引き継がれた膨大な魔力に小さな体が耐えられず、産まれる事すら出来ない場合が多い。
「可能性はあるだろ。諦めんな」
「ジル……」
騎士団は、別に副業を禁止していない。本業に支障がなければ、制限はされないのだ。だから、2人で話し合って開業したこの店は、団長にも報告済みだ。
「団長、これはどういう事でしょうか」
ジルベルトは、1枚の要請書を手に、ハインツ団長の元を訪れていた。
「どうもこうも、正式な銀紐隊長への指名討伐要請だ」
「『ナーゲヤリ中央広場・樹木定期検査』とありますが」
樹木の定期検査は、騎士団の仕事ではない。ナーゲヤリ環境局の担当だ。とうとう、外部組織の雑用まで回されて来たのか。しかも、隊長への指名要請とは。
「音波雀だよ」
団長は、落ち着いて返答した。
音波雀は、丸い小さな茶色い鳥だ。薄茶の斑入りの可愛らしい体で、嘴が銀色だ。愛らしいこの小鳥は、一度嘴を開くと、超音波の囀を放つ。
厄介なことに、音波雀は群れる。群れてお喋りを始める。大災害である。
「今度は空ですか」
「今度は空だな」
ハインリッヒ・ハインツ団長は、取りつく島もない。
「仕事始めたんだろ。何でも屋。よろしく頼むぜ」
「何でも屋じゃありませんよ。外注扱いですね」
「バカか。給料以外は出さん」
ジルベルトは、言葉を失う。
「お前も、魔剣遣いだしな。魔法が必要な案件は得意だろ」
世界最高峰と目される『魔力感知能力』を持つ、ジルベルト・タンツ。その真骨頂は、魔獣の単身殲滅を完遂する事にある。
魔力感知で、隠れた魔獣の群れや巣を炙り出す。しかる後に、魔剣と鎖分銅を駆使して、巣ごと根絶やしにするのである。
因みに、後片付けは、1人では時間がかかりすぎる。その為、何時も腹心3人組が手伝わされる羽目になる。彼等の惨劇耐性は、一朝一夕で獲得されたものではない。
「今後、こういった『魔法のお使い』は、タンツに頼む」
「お使い……」
拒否権は、無いようである。
次回、中央広場で逢い引きを
よろしくお願い致します。




