鮮血の地下水路
今回は1話です。
下水道には、沢山の出入口がある。城塞都市国家ナーゲヤリの各家庭に繋がっているのだから、当然だ。
その総てに見張りを立てるのは不可能だ。しかし、大群が脱出可能な出入口だけなら、見張りが用意可能な数だ。
加えて、ナーゲヤリ国民は、みな魔獣討伐経験がある。各家庭の狭い排水口から逃げ出して来る分くらいなら、何とか対応してくれそうだ。
鋼棘鼠は、普段なら通りやすい道で、存分に鋼鉄の棘を使う。しかし、追い詰められたならば、狭い道を棘で破壊しながら進むのである。
ただその場合、集団だと互いに刺しあってしまうため、一匹ずつの間隔が広がるのだ。出てくる度に対応すれば、一般国民でも対処可能な範囲と思われる。
そう踏んで、ジルベルト達は、自分達を下水道班として、出入口閉鎖班を、広く騎士団に募集することにした。
下水道に潜るのは、鋼棘鼠が本来活動を休止する、昼間の時間帯だ。退勤間際の騎士団長ハインリッヒ・ハインツを掴まえて、直談判する。
「明日ぅ?んな急に人員裂けねぇよ」
「一刻も早く対処しないと、ナーゲヤリが壊滅します」
「てめぇ、タンツ、良いご身分だな」
ジルベルトは、報告の間、ジンニーナと繋いだ手を離さない。
「いくら、重要な協力者だって、騎士団中枢に、部外者連れてくんな」
全くもって、正論である。出入口閉鎖班の募集に、ジンニーナが居る必要は感じられない。
しかし、2人は不服である。
「そもそも、なんで銀紐に回ってきたんす?こんな青紐っぽい仕事」
同行していたヴィルヘルム・フッサールが疑問を口にする。大規模掃討戦なら、広域対応が得意な魔法隊が適任だ。魔法隊が制服の胸に提げているのは、青紐である。
「街中で大規模魔法ぶっぱなせるかよ」
「あー、確かに」
「かといって、個別にチマチマ退治できる規模じゃ無さそうだしな」
「何で、そんなんなるまで放っといたんすか」
「共同討伐があったからな。単純に人手も調査時間もなかった」
団長室に押し掛けた4人に、沈黙が落ちた。200年振りの危機に比べれば、後回しにもなるだろう。
「そんで、なんで俺らに?」
フリードリヒ・ブレンターノが、蒸し返す。
最早、赤毛の部外者には、構っていられない。他の隊に押し付けるか、騎士団全体で取り組ませることが出来る好機なのだ。逃す訳には行かない。
「一気に叩けて、しかも打ち漏らし対策で小回りも利くって言ったら、お前らしか居ねぇだろうが」
「騎士団全体で協力すれば、早く片付くんじゃねぇですかね」
「フッサール、お前、何様のつもりだ」
ハインツ団長の機嫌が悪い。自分の采配に文句を言われるのが、気に食わないのだろう。
「協力要請だけでも、出して貰えませんか」
ジルベルトは、冷酷な見た目に反して、丁寧に頼む。しかし、団長は、頷かない。白けた用な眼差しを、手を繋いで立つ2人に投げる。
「『鉄壁』と『銀鬼』が居りゃ、むしろ過剰戦力だろ」
銀紐隊副隊長のヴィルヘルムとフリードリヒは、共同討伐での悪夢を思い出して震えた。
翌日、各家庭を含めた、城塞都市国家中の下水道出入口には、守りの壁が展開された。下水道内部に向かって、誘因の魔力が注がれる。
外に出ていた偵察個体も、魔力に惹かれて『鉄壁の魔女』の元へ。その隣には、双剣を構えて待ち構える、銀鬼が立つ。
後は、お察し。
今回も、後片付けには、銀紐隊長腹心の3名が駆り出された。彼等以外には勤まらないだろうと、ナーゲヤリ城塞騎士団長ハインリッヒ・ハイツ直々のご指名であった。
「くっそー!ぜってぇ、采配に文句言った腹いせだろー!!」
ヴィルヘルムの絶叫は、赤黒く染まった地下水道に、木霊しながら虚しく消えていった。
次回、雀のお宿へお使いに




