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雑用騎士ジルと魔法のお使い  作者: 黒森 冬炎
序章・魔法使いの結婚
11/110

城塞都市国家ナーゲヤリの日常

今回は、2話です


R2/9/7 0:00,1:00

 ナーゲヤリ城塞騎士団銀紐隊長ジルベルト・タンツは、幸福の絶頂にいた。

 魔獣討伐から帰還してすぐに、最愛の魔女ジンニーナ・ロッソと結婚手続きをすませたのだ。



「こら、タンツ!いい加減にしないか!報告書!!」


 ジンニーナを伴って、手続きに急ぐ銀鬼ジルベルトの背中を追って、騎士団長ハインリッヒ・ハインツの嘆きの怒声が響く。


「書かないと思った」

「だよなー」


 ゲオルクが、ほら見ろ、とため息を吐き、ヴィルヘルムが疲れきった顔を見せる。


「はあ、フリッツ書いてくれよ」

「何で俺が」

「タンツに書かせろ」


 ヴィルヘルムとフリードリヒが押し付け合っていると、団長に釘を刺された。


「書くんですかね」


 フリードリヒが疑問視すると、


「書かせるんだ」


 と言い捨てて、団長は行ってしまった。


「どうしたもんかね」


 3人は、旅装も解かずに途方にくれて立ち尽くした。そのまま、銀紐隊事務棟の前で、しばらくの間、通りかかる残り11人の銀紐隊員から、邪魔にされていた。



 驚いた事に、結婚手続きを済ませたジルベルトは、銀紐隊長室まで戻ってきた。あれほどベッタリしていたジンニーナの姿が見えない。

 緩んだ顔を見る限り、喧嘩分かれした訳ではなさそうだ。


 銀鬼と怖れられるジルベルト隊長は、がっしりとした巨体に、ふわふわと喜色を漂わせて、隊長室に収まっている。


 開け放した戸口から、3人が覗くと、鼻唄でも始めそうな雰囲気だ。きちんと手を動かしている。戸口からだとよく見えないが、恐らくは今回の報告書だろう。


 3人は顔を見合わせると、急いで団長室まで報告に走った。



 ジルベルトは、魔獣討伐の報告書を素早く仕上げて提出を済ませた。


「まったく。先に仕事をしろ。勤務中に婚姻届出すやつがあるか」

「以降気を付けます」


 団長の小言はさっと流して、いそいそと家路につくジルベルト。なんと、独身寮の退寮手続きと、新居の手配を総て完了していたのだ。



 庶民的な店が立ち並ぶ小路の裏手に、清潔な集合住宅がある。若夫婦や勤め人の青年が入居する、格安の物件だ。陽当たりは悪いが、治安は良い。買い物にも便利だ。


 この集合住宅では、店を構える事も可能だった。ジンニーナは、ここで何か魔法を活かして収入を得たいと考えていた。


 荷物というほどのものは無く、片付けはあっという間に終わった。仕事に戻った新婚の夫を待ちながら、赤毛の魔女は、ゆっくりとお茶を飲む。


 窓から、音波雀(オンパジャク)が入ってきた。魔女の守りでこの建物に被害は無い。それでも、音波雀が放つ超音波(さえ)ずりは、放置出来ない。


 ジンニーナは、ジルベルトが用意してくれた、小型魔獣捕獲装置に魔力を流す。ここナーゲヤリでは、魔獣討伐は、国民の義務だ。身を守るだけでは足りない。


 山の魔獣は壊滅したが、平原の魔獣は相変わらずだ。城壁を越えてくる魔獣に、街中でも悩まされている。放置すれば、街で増殖してしまう。魔獣は、追い払うのではなく、確実に仕留めなければならないのだ。

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