魔法使いと魔剣遣いの夫婦はなんでも屋に転職する(後)
22:00に最終回前半を投稿しています
「魔力循環を利用して、ジンの遠隔魔法で設置する守りの壁から、俺の攻撃を放てないかな?一気に世界の魔獣を殲滅出来そうだが」
「それいい。乗った」
「早速やってみよう」
ロベルトは、死んだような顔で通訳している。多言語マスターロベルト・ヘンデルは最早、無機質な自動通訳機械と化していた。
「ジンの魔力と循環させる事によって、ジンの壁を使えば広域魔力探知も出来そうだな」
「頼むわよ」
「うん、殲滅完了」
その間、僅か1分足らず。
夫婦は幸福そうにイチャイチャしている。
呆れる銀紐隊の面々は、各々心のなかでぼやいている。
ゲルハルト・コールは、浄化作用のある水とその水で育った植物の採集と栽培はどうするのか、と。
副隊長ヴィルヘルム・フッサールとフリードリヒ・ブレンターノは、噴霧器搭載水空籠はもう要らないかな、と。
その他の面々も、自分の得意分野を活かすシミュレーションを途中で放棄しながら、腹のなかで舌打ちをする。
一方砦の人々は、訳がわからず理解できない。
「え?」
「何ですか?」
「冗談言っちゃいけませんや」
ただでさえ魔法に慣れていない彼等には、この規格外な魔法使いと魔剣遣いの夫婦がしたことを丁寧に説明しなければならなかった。
「ハアー魔法ってな、めっぽう便利なもんですねえ」
「いや、この夫婦だけっす、こんなん出来んのは」
「まあでも、もう魔獣は出ねえんですかい」
「そういうこってす」
「いやあ、目出度い」
ようやく状況を呑み込むと、砦の代表者が慌てて本国と連絡を取る。ロベルトもジークフリートの協力を得て、ナーゲヤリ城塞騎士団本部へと状況を世界配信する許可を求める。
「そんで、再発は本当にねえんですかい」
一通りの通信が済むと、砦の代表者が念を押してくる。
「ああ、魔獣の気配は一切無い」
ジルベルトは答える。そもそも魔獣の起源は誰にも解らないのだ。人類がこの世に出現するよりもずっと以前から居たらしい、という事だけしか判明していない。
だから、現存の魔獣を殲滅したからといって、普通の動物同様に絶滅する保証は、本当はない。
しかし、ジンニーナとジルベルトには秘策があったのだ。
ここで皆には言わなかったのだけれども。
(自立型永続魔法を開発したのよ)
(永続?)
(まあ、理論上はね。私達は限りある命だから、確かめることは出来ないんだけど)
(ジン!素晴らしいね)
(2人の魔法を世界中に設置すれば、万が一魔獣が復活しても蔓延る前に根絶やしに出来るでしょ)
(その通りだ)
(それで、魔獣討伐本舗なんだけど)
(不要になっちまったなあ)
(なんでも屋にしてもいい?)
ジンニーナの魔法とジルベルトの筋力は、魔獣相手以外にも色々と役に立つ。元々、魔獣討伐以外の雑用も沢山引き受けていたのだ。今更どうと言うことはない。
(ああ。ジンの好きにしたらいい。応援するよ)
※※※
観光バスが荒れ地の廃墟に停まる。ゾロゾロと降りてきたグループを前に、歴史ガイドがトークを始めた。
「この壁は、昔、小さな国を魔獣という恐ろしい生物から守っていました。かつてここには、ナーゲヤリという城塞都市国家がありました。現在の平和な世の中を作った、偉大な人々が住んでいたのです」
ジルベルトとジンニーナのタンツ夫妻は、何故か歴史に名を残すことが無かった。小さな都市国家のなんでも屋として一生を終えた2人には、それが当然なのかも知れない。
雑用騎士と揶揄された銀髪の大男は、愛する妻と念願の子供を得て、幸せな人生を送った。子供は1人娘だけだったが、ジルベルトとジンニーナの得意分野を両方引き継ぐ大女であった。
タンツ夫妻の娘ヴァンダも、魔力循環の相手と出逢う幸運を得た。そしてジルベルト達の子孫だけが、ひっそりと真実を今に伝え、自立型防衛装置は現在でも改良を加えられ続けている。
(完)
これにて完結。
最後までお読みくださり、誠にありがとう御座いました。
近日中に後書きを投稿する予定のため、まだ連載中の表示になっております。お話では無いのですが、よろしければそちらも御覧下さいませ。




