城塞都市国家へ向かう
今回は2話になりました。
R2/9/6 14:00,15:00 です。
撤収が始まると、ジンニーナ・ロッソは、当然のようにナーゲヤリ魔獣討伐隊に着いて来た。と、言うより、下山でも殿を勤めるジルベルト・タンツと、勝手に組んでいた。
彼女は、流しの大魔法使いである。気分次第で、仕事を選ぶ。誰も咎めることは出来ない。犯罪者でもないし、同行拒否のしようがない。ハインツ団長は困り果てていた。
2人は、離れようとしない。目に余るようなベタつきでは無かったが、団長と3人の銀紐隊員達は、別の心配をしていた。
ジルベルトとジンニーナは、今回の討伐隊に於ける、頭ひとつ抜けた実力者2人だ。万が一、魔獣の生き残りが出ても、瞬時に対応するだろう。
しかし、2人のご対面を目撃した者達には、不安しか無かった。
既に新婚気分で有頂天になった、この鬼才カップルは、やる気を出しすぎるのである。オーバーキルなのである。辺り一面血の海が出来てしまう。
「魔獣も居ないし、普通の獣もかなり減ってるな」
剛剣を鞘に納めたまま、ゲオルクが、副隊長2人に話しかけた。辺りは、引き裂かれた大木や、転げ出た大岩による惨状である。討伐隊は、苦労して、足場の悪い山道を降って行く。
「いや、まだ魔獣いたら、びっくりだろ」
ヴィルヘルムが言えば、フリードリヒは、淡々と見解を述べる。
「獣は魔獣にやられたんだろうな」
「う~ん、しばらく肉は鶏だけかぁ?」
ヴィルヘルムは、情けない顔をした。
ジルベルト達銀紐隊が住む、城塞都市国家ナーゲヤリは、血気盛んな魔獣防衛都市である。山を背に魔獣蔓延る平原を睨む要塞。住民は総て武装している。魔法使いもいる。そして、牧畜の気配は無い。
かつては、牛や羊の飼育を試みた事もあるらしい。しかし、今では、肉や乳製品を始めとした食糧品の殆どを、山向こうにある交易都市国家モーカルに頼っている。
だから、全体的に高い。腕に自信のある者は、休日は山に入って、肉や山野草を採取して生活していた。
銀紐隊に至っては、訓練と称して食糧調達に出掛ける隊員が、後を経たなかった。勤務中に。堅物隊長ジルベルトは、山帰りの隊員を見付け次第、厳重注意を行ってきたが、効果は無い。
養鶏場は、魔術隊である『青紐隊』と、医療隊の『黄紐隊』が共同で経営している。研究のついでらしい。少し怪しげだが、今のところ、食べて異変が起きたと言う話は聞かない。
山の獣が激減したので、肉は養鶏場に頼るしか無くなった。獣がある程度増えるまで、入山制限が敷かれるだろう。植物も、山の魔獣とドラゴンによって、かなりのダメージを受けた。山野草採取も、当分は禁止だ。
こうした立ち入り監視業務は、ジルベルト達『雑用部隊』の仕事である。残念ながら、規制を行っても、密猟者や不正入山者が、必ず出る。本当は、銀紐隊は、『雑用』を担当している訳ではないのだが。
彼等は、真の精鋭部隊である。銀紐隊は、15人の特殊技能者で構成される特務部隊だ。彼等に出来ない事はない。他の隊は、一般的な技能によって組織されている。出来ることは、各々限られているのだ。
その結果、他の隊への振り分けから漏れた、あらゆる仕事が『銀紐隊』に押し付けられる。
故に、一般人や共に仕事をしたことが無い騎士団員からは、『何でも屋』『雑用係』と馬鹿にされるようになったのである。
次回、城塞都市国家ナーゲヤリの日常
よろしくお願いします。




