【GAME9-10】天野槍一郎・決断!!
――駆け抜ける天竜『ライジングドラゴン』のコースを50周走破しきった天野槍一郎。
だが韋駄天をも恐れる走りと有頂天なる憤怒の後始末、卑劣愚劣を繰り返した暴走族首領・ジオに渾身の一撃。《グランドクロス》の一突きでゴール付近に十字の亀裂が生じ、その衝撃もろともジオのマシンは大破。
なのに本人奇跡の無傷という御都合展開には黙って口を閉じて頂きたい。
「貴様ァァ……!!!」
これだけの痛快を魅せておきながらまだ腹の虫が収まらない槍一郎。ここまでキレたゲーム戦士もそうそう居ないが、心揺らぐこの状況では何をしでかしてもおかしくない。マシンのエンジンを止めて降りた槍一郎は果てたジオの胸ぐらを掴む。
「グッ……な、何だよテメェ! 俺にまだ何か文句があんのかよ!!」
「もう一度だけ質問に答えろ。ギャラリーからコースまで細工するやり方は、お前ら暴走族だけでやるにはオツムが足りないと僕は思うんだ。つまり、他の誰かの入れ知恵で僕を潰そうと企んだんだろう!? そいつは誰なんだ!!?」
あ、槍一郎の一人称が『僕』に戻ったって事は理性が戻りつつありますね。いやそんな事は置いといて。
槍一郎はこのゲームにて妨害の限りを尽くした真犯人をジオに突き詰める。神聖なレースの場を執拗にも水を指すやり方は暴走族だけでは出来ないと推測した彼は、共謀を企てた者の詳細を掴もうとした。
「……だから言ってるだろ、エリアのプレイヤー全員――」
「とぼけるな!!! 全員にしてはエリアのギャラリーが100人程度な訳ないだろ!! 平日でも1000人規模のプレイヤーがこのエリアに来場してるんだ!!」
「…………」
ジオの顔色から明らかに何かを隠している素振りを我々はおろか、槍一郎は見逃さなかった。白を切って黙秘でやり過ごそうったってそうはいかない!
何しろ後から駆けつけた倭刀が、証拠を持ってきたのですから!!
「その通り! だからそこらへんにしといてくだせぇよ先輩!!」
ピットから抜け出してゴールラインまで足を運んだ倭刀。すると彼の手元から何かロープらしきものを握ってるかと思いきや、御用改めで確保して縛り縄にさせたプレイヤー数名であった。
「……倭刀、何だいそいつらは――?」
「先輩の言ってた真犯人って奴さぁ。暴走族の仕業に仕立てて、外部から妨害云々で先輩を潰そうと企んでいたのはコイツらなんすよ」
やっぱり、暴走族でヒャッハーな奴らが狡猾な事をするには知恵足らず。そこでそれを補おうというか罪を着せるに絶好な囮にされたのが暴走族NARASI。
『如何にも』な印象連中でやりあって標的のプレイヤーを潰そうとしていたのだ。ジオ以上に卑劣な連中は姿すらも隠していた!
「先輩がレースしてる間にこのゲームのデータ調整してる管理棟に向かってみたら、案の定見つけてやったって訳、このお邪魔虫を!」
倭刀は握った縛り縄を強引に前へ引き出して、ゴミ袋を放り出す程の粗雑ぶりで捉えたプレイヤー達を見せしめにした。しかも既に全身ボコボコに殴られているという事は……うん、皆まで言うなって事。
(――!!? あの十字のマークは……)
槍一郎は捕らわれのプレイヤー達の胸元の刺繍に彫られていた南十字星のような十字のマークを見て、静かに驚愕を示していた。一方のジオは?
「あっお前ら……?! あ、イヤイヤ……その、誰だよソイツらは?」
あ、ジオ動揺したな!? 私は見逃してないぞ! ほらヤマさんや、決定的な証拠で懲らしめてやりなさい!!
「アンタ黄門様かよ、んでヤマさんって誰やねん。ほらよ、これで観念するか?」
追い打ちにジオに見せたのはレースバトル時に取られていた妨害の証拠となるプレイVTRのデータメモリー。
実はエリアのデータを管理するコントロールパネルを接している管理棟では、各ゲームで不正や検証に使うための映像が自動的に保存される役割も果たす。
つまり真犯人がそこで立て籠もっていたという事は、証拠隠滅を図るための策。そこにタイミング良く倭刀が乗り込んでそのデータの消去が免れたという訳だ。
そのデータメモリーにはジオらが無線でやり取りしたものも含めた妨害の一部始終がしっかりと残されていた! これを観たジオ、並びに片棒担いだプレイヤー全員は顔面蒼白白旗状態だ。勝訴確定!!
「…………ちくしょ〜、観念するよ……」
▶▶▶ NEXT▽
――犯人達は自ら負けを認めて、改めて倭刀は公式のWGCに不正を報告。ジオら暴走族と捕獲したプレイヤー達同胞が一斉に検挙されていった。
ゲームを走破した槍一郎のラップタイムは【28分48秒984】。50周制覇のノルマである30分以内を超え、一周換算してのタイムも自己ベスト更新。それに加えて阿漕な輩も成敗しての大勝利となった。
しかし、残念ながら不正と見なされたゲームはノーコンテスト。即ち無効時合と見なされ記録は更新されず経験値や報酬はチャラ。
成果としては報われなかったが、プレイヤーの誇りへの侮辱を晴らせたんだから良しとしましょうよ、ねぇ槍一郎さん?
「…………」
ありゃ、まだ気分が晴れていないようですね……
「……まだアイツらの事腹立ってるんすか先輩?」
「いや、そうじゃないよ。結局本気を出しても理性を抑えても、僕は嫌われる性分なのかなって思っただけだよ。だから“己の壁”ってのも超えられないんだろうな……」
あのゲームを通じて槍一郎は憤った反動で並ならぬショックも受けていたようだ。もし槍一郎が本当に一人であったら抱え込んで深刻になる一方だが、今の彼には仲間がいる。それらの存在だけでも彼にとって大きく未来を変えるものだ。
「そうすか? 俺は怒って本気になった先輩は格好良かったと思いましたぜ? 意気地なしが鳴りを潜めて悪事を隠し騙すより1000倍マシだし、あんときの先輩は自分の弱さもぶち破るような清々しい魂の走りでしたぜ」
「自分の弱さをぶち破る走り……」
「そうでさ! 理不尽にも雑言にも折れずに、自分の本心のままに貫き通した槍のようで神をも超えた走り!! 俺じゃ絶対真似できませんって!!」
「…………」
不本意にも倭刀の言葉に励まされた槍一郎はこの時、ある重大な決断を固めようとしていた。
現在WGCではセキュリティが前よりも断然強化されてはいるが、プレイヤー達による揉め事やトラブルを抑えるシステムまでは完備されていない。
つまり、より優られたセキュリティにも勝る正義のプレイヤー【オフィシャルプレイヤー】が必要とされている。
現在再びその設備を整える為に、全国から凄腕のプレイヤーをスカウトする運動をWGCで活動している事を知っていた槍一郎は、今回の宣戦によって一大決心した。
「―――倭刀、ありがとう。これでやっと僕も覚悟が決まったよ!!」
「ふぇ?? 何をすか!?」
「僕はもう一度、オフィシャルプレイヤーを目指す!! この聖地を理不尽でまかり通るものにしてはいけないんだ、僕はもう一度誇りを取り戻す為に……、戦い続ける!!!!!」
槍一郎の決心と共に、蒼炎の槍の魂が共鳴したのを我々は感じた!
(……それにあの南十字星のマークの連中も、野放しに出来ないしね)
え、何ですか?
「いや、何でもないよ!」
過去の忌まわしき記憶を拭う為にも、彼には想像もつかない過酷な試練が待ち受けることだろう。その時剣や仲間達は、どう受け止めるのか?
今はその戦いの時まで我々は見守ることしか出来ないが、己の正義を槍の如く貫き通す槍一郎に熱いエールを贈ろうではないか!!
神速のランサー・天野槍一郎に幸あらん事を!!
本日は【GAME9/爆走神速ランサー】で、読み終わりで御座いますッッ!!
▶▶▶ SEE YOU NEXT GAME...!!▽
▶▶▶▶▶ NEXT GAME WARRIORS▽
さて、次回のゲーム・ウォーリアーはシャッフルオールスターズの大黒柱、高橋豪樹を主役と致しまして、現実世界のアミューズメントパークで大乱闘!?
唸れ、心・技・体のゲーム拳!!!
この世界観に『気に入った!』『あのげーむやらないの!?』『追っかけますぜ旦那!』と魂が揺れ動いたらば、
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