【GAME9-6】孤独の疾走!共謀という名の罠!!
――TIPS――
サイバーターボシティのレースコースのスピードパネル・障害物等のギミックは、エリアの管理局にあるコントロールパネル装置によってランダムで管理されている。
このエリアの運営局のさじ加減次第で、コースの難易度が極端に上がることも……
――龍の胴長な身体のように、クネクネとスラローム状に曲がりながらもサイバーターボシティ随一の最長コースと謳われる『ライジングドラゴン』。
そのコースに完全独走と言わんばかりに1台流星の如く突っ走るは、槍一郎のオフロードバイク『サファイアストリーム』、そこのけそこのけ迅速ランサーのお通りだい!
……と言っても障害物がある訳じゃなし、そして大差をつけてのトップじゃ遮る敵マシンも無いだろう。――と思いきや?
――ウィィーーーーン
ライジングドラゴンの中間地点、マシンの最高速度の競り合いで差が決まる一直線のストリームラインのコース外両端から複数のノズルがせり出す機械音を立てた。
丁度トップを突っ走る槍一郎がそのストリームラインを走ろうとした、その時!
ブシャーーーーーー!!
『!!』
何と突如如意棒のような複数のノズルからまるで槍一郎を待ち構えていたかのように、大量の茶色の液体が放出された。
「ヤバいですぜ先輩!! その液体、グリース(液状潤滑油)や!!!」
『何――!??』
槍一郎の前方に待つグリースで塗られたコースを突っ切れば、スリップして横転・タイムロスの3連悲劇が高確率で起こる。
しかし力量のあるレーサーは、前方でのアクシデントを乗り切るための瞬発力とテクニックに長けている。無論槍一郎も例外ではない。
(ここでカードは消費したくはない。ここはレーサーの勘を信じればいける――!)
槍一郎は己の力量に賭けた。常に蒸していたアクセルのハンドルグリップを元に戻し、慣性の法則に従って一旦の低速状態のままブレーキを添えてグリース地帯を突っ切った。
バイクのバランス、スリップの予感は……問題なし!! 辛うじてタイムロスは逃れた!
『この要領は雨や積雪でアイスバーンになった道路の時に車の低速移動させるのと同じだ。無駄に急ブレーキやアクセルを掛けるから、タイヤの制御が利かなくなってスリップを引き起こす。だからバイクもタイヤと接地する面を離さなければグリースだろうとスリップは免れる』
バイクのスリップは乗用車以上に危険ではあるが、高校生の槍一郎も良くバイクの本質を知っていたものだ。
「ふぅ……あの暴走族野郎め、卑劣な事をしやがって……!」
ピットで見守る倭刀も槍一郎のテクニックでホッと胸を撫でおろし、ついでに怒りのオプション付き。
だが一難去ってまた一難、レースのトップに呪いを振りかけるように第ニのトラップが待ち受ける。
スタートから2/3付近、大蛇のクネクネダンスの如しスラローム地帯300メートルにて……
――グヮン、ゴロロロロロ!!!
「今度は丸太だァァァ!!!」
両端の坂状になっているフェンスから横長の丸太が現れ、またもや槍一郎の活路を妨害しようと言うのか!? 戦慄のローリングログが迫る!!
『やむを得ん、使うぞ!!』
いざとなったらカード発動。槍一郎はマシンのフロント内のCPUモニターを作動させ、予めインプットしたデッキの手札と見なす5枚のカードデータをウィンドウでタップして発動させた!
『アクションカード、【ニトロブースト】!!』
◎――――――――――――――――――◎
<アクション・カード>
【ニトロブースト】EG:③
属性:赤
・アクセルバトル効果:一定時間マシンの
速度を時速30キロアップする。
◎――――――――――――――――――◎
――ギュィィイイイアアアア!!!!
風をもつんざくブーストダッシュ、スラローム地帯もコース外のダート部分もお構いなしに真っ直ぐ突っ走るサファイアストリーム。この土壇場のダッシュで丸太地帯もスルリと抜けてセーフ! 咄嗟の判断力にかかれば最速への活路を阻む妨害など恐れるに足らず。
しかし二度の妨害を受けた槍一郎、並びにサポーターの倭刀は不満にも似た苛立ちを見せていた。
「――なぁ先輩、ちょっとばかり話が出来すぎてはしませんかね?」
『奇遇だね、僕もそう思っていたんだ。さっきのグリースと丸太はライジングドラゴンのコースギミックには存在しないし、暴走族のカードと考えても大袈裟すぎる。
恐らくこのコースを管理している管理棟のコントロールパネルに何か細工をしたと思われるね……!』
一年前までオフィシャルプレイヤーとして各ゲームの管理も担っていた経験から、サイバーターボシティのエリアのシステムも網羅していた槍一郎。
リニューアルしても健在していたライジングドラゴンのように、真っ当なレースコースとして妨害ギミックは無いと説明マニュアルでも書かれていたが、槍一郎の推理が正しければ何者かの小細工を入れたと思っても計算違いではない。
「んなアホな、だってあの暴走族がメンバー総員でレースしてんじゃねぇか!! …………え、まさか他のプレイヤー達ともグルになってたとか――!?」
倭刀は短気な割には、妙を得た勘も優れているようだ。そして更に正確な推察を挙げたのが槍一郎。
『こんな推理出来れば当てたくは無いけれど……恐らくこのレースゲームの敵は、暴走族だけじゃない――――!!!』
「その通りッッッ!!!!!」
『……!!?』
独走状態のコースに極めて特大ボリュームで応答したのは、大差を付けられていた筈の暴走族ボス・ジオ。知らぬ間に2〜3メートルの近距離まで迫っていた!!
そんな彼のナナハンマシンには、発動によるカードのウィンドウ表記の半透明な跡が残っていた。
◎――――――――――――――――――◎
<アクション・カード>
【テレポーテーション】EG:③
属性:青
・アクセルバトル効果:自分より一つ上の
順位にいるプレイヤーを対象にする。
そのプレイヤー付近まで瞬間移動する。
◎――――――――――――――――――◎
何とカードの効果で一気に上位プレイヤーの元までテレポートするというレースゲームらしからぬチートな能力! 明らかにこのレースバトルで槍一郎を潰そうとしている共謀犯は一体誰なのか?
とうとう槍一郎本人からその真実を問いかけた。
『オイ! さっきから執拗に僕を妨害しようとしてるけど、この際どいトラップギミックといいお前ら暴走族のやることじゃない。絶対誰かの入り知恵で仕組んだことだろう!? 誰なんだお前らと組んでいるプレイヤーは!!?』
「……幾ら足掻こうともお前が堕ちるのは確実だろうから、ここで教えてやるぜ。――――このエリアのレーサープレイヤー全員だよ!!」
『なん……だと…………!???』
「お前がこのサイバーターボシティの全コースのランキングをかっさらってるそうじゃねぇか。お前が我が物顔でトップ分捕ってるから、俺だけじゃねぇ、レーサープレイヤー皆がお前の独走に苛ついてやがる。
頭に来るんだよキザったらしいお前に俺らのシマを汚されてる感じが!!!! だから俺らがソイツらを代表して、お前を完膚無きまでに叩き潰してやるッッ!!!!!」
――この真実に槍一郎はヘルメットの下に蒼白な顔を写す。己の記録突破の為にひたすら走り抜いた証であるランキングの総ざらいが、何時しかプレイヤー達の反感を買う事になっていた。
当然ランキングは最も優れた成果として讃えるべき称号だ。しかし一年間の休止期間を経てようやく開放されたレースエリアの唯一の栄光を踏みにじられたと思った血気盛んなプレイヤー達に、そんな余裕は微塵にも無かったのだ。
(――――また、僕の強さが他の皆を傷つけていくのか…………)
槍一郎の魂が揺らぎ、その動揺が導く光を失ったかのように彼を迷走していく……
迷える槍一郎の栄光は何処へ? その答えは未だ闇の中に溶け込む。本日のゲーム、ここまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




