【GAME57-3】紫煙の格闘王参る! これが酔拳戦法だ!!
――リスタート・イン・マッチ! シャッフル・高橋豪樹、拳華成闘にて新奥義解禁!
中国武術の一つ、酒に酔っ払ったかのような独特な動作が特徴的な拳法『酔拳』を、格闘ゲーム流にアレンジしたゲーム拳の拳種【酔仙遊拳】。
天翔道に代々伝わる拳術を会得していた豪樹。だがこの技には、一つのリスクがあった。
「確かにあんさんの言う通り、『酔仙遊拳』は現実・VRで使う際にゃ、酒を呑む事でその真価を存分に発揮する事が出来る。だが諸刃な武術でもある故、酒に呑まれた者は自我を失い、最悪二度と拳を振るうことは出来ひん。酔拳自体がそーゆー拳術やからな」
豪樹は酔拳のみならず、数多くの武術を習得し、独自の拳武術である『天翔道流・アイアンフィスト拳』を編み出した男。故に酔仙遊拳を使う事が如何に危険か、実戦等を通して骨身に染みる程に理解していた。
よって豪樹は初手としては酒を施さず、酔いも無いシラフの状態で立ち向かう事となった。演技の千鳥足が何処まで相手に通じるか?
「……ケッ、中途半端な酔拳で俺に立ち向かおうってのか? “紫煙の格闘王”がいつの間に腰抜けになったんだか。ケラケラ」
「何とでも言いや。強さに自惚れてっと早いうちに身を滅ぼすで」
と言いながら豪樹、腰を低く左脚を前に出しながら、利きの右手を突き出してのファイティングポーズ。左腕は腰に構えたまま。そして右手の掌底を前に出し、臨戦態勢は整った!
「バーカ、お前の相手はコイツラだ!!」
突如、拳華成闘によって展開されたVRフィールドの境域内、地底空間の地面から現れたるはゾンビかネクロマンサーか? いや、貪欲に飢えた奈落道の下っ端拳士。総勢20名はいる不意打ちの人海戦術だ!
「ケーラスの奴め、屋敷内で戦うことを前提に雑兵を控えていたのか!」
「ズルいですの〜!」
VRフィールド外にてギャラリーとなっているシェイパー兄妹はブーイング。だが奈落道にとっては批判苦情など聞く耳持たず。馬耳東風吹かれて出汁醤油かけては絹豆腐なんて。失礼してます。
「卑怯もラッキョウも大好きな奈落道のやる事や。初めから真剣勝負なんざ、宛にせぇへん! 束になって掛かってこいや!!」
拳華成闘のスタートゴング、地底空間・B3層にて鳴り響く!!
『READY.....FIGHT!!』
ゴングと共に動くは奈落道拳士たち。まるで角砂糖を見つけて群がるアリのように、高橋豪樹を標的に素手、或いは刃物を携えてのリンチ戦法。だが、
―――ヒュッッ、バシュッ、ガッッ
巨体を宙に浮かせての中段狙いの回し蹴り。軽やかに舞いながら奈落道2,3人にクリーンヒット! 近距離で群がる敵を蹴り一発、風圧も味方にして間合いを離した。
「チェェェエェエエエエ!!!」
この威圧に負けるかと奈落道拳士。奇声を上げながら豪樹に突っ込み、正拳やら蹴りやらで反撃をしようとするが、豪樹の鮮やかな組手さばきを前にしては、拳の決定打など夢のまた夢。
軽いジャブを前菜に足技で出鼻挫く。これをハイスピードで繰り出す巧みな技。剛・柔、両方を持ち合わせた豪樹に敵は無し!
「シラフで気が引けるやろうが、チョイとあんさんらに拝んでみっか? 本当の酔拳って奴を!」
すると豪樹、全身を柔軟に躍動させて独特なスタンスで奈落道拳士に構える。右手人差し指を横に突き出し、一見貫手の構えにも似た指の形。身体はゆっくりと、軸がなくフラフラとした動きで敵を惑わす。
「酔いモドキが! 怯むな、掛かれっ!!」
雑兵拳士のリーダーが号令を掛ければ、再び襲いかかる敵軍。豪樹に近づき攻撃をしようものなら、風の流れに身を任せてのカウンター、並びに滑らかな動きでのヒットアンドアウェイで翻弄していく。
「なんという華麗な動きだ……」
「これが本当の酔拳なんですの……?」
シェイパー兄妹をも見惚れる程の、豪樹が豪語する本当の酔拳。その特徴的な動きの一つに『千鳥足』な覚束ない脚の動き。更に地面を転げ回りながら戦う事から、足場の悪い場所で戦う時に向いている。これがトリッキーに相手を惑わす要となる。
そしてそれを補う手技は【月牙叉手】と呼ばれている荒業。
これは盃を持つ時のような手の形(酔盃手)で、相手の喉をつかみ破壊する手技。更に変則的に人差し指の第2関節を曲げて突き出す『鳳眼拳』に変化し急所を攻める。これらが酔拳の主な決め手となっております。
更に更にもっと言いますと、本当の酔拳は【お酒を飲んで強くなる拳法】ではありません!!
「オイオイ、リアルにぶっちゃけて良いんかい!?」
「夢も希望も無い事を……」
大山さんと小原さんもびっくらこいてますが、これは本当の話なんです。
とはいえ、酔拳の正確な呼称が【酔八仙拳】と言われてるように、本来は中国の8人の仙人の酔態を模した拳法と言われています。
従って酔拳は酒と全く関係ない訳ではなく、酔った姿が拳法になって伝説になった。と言った方が正しいのかもしれませんね。
「随分拳法に詳しいねぇ、Mr.Fって語りは」
「実況だけじゃなく解説も兼ねてるとか、大した語りナビゲーターだよ」
「そりゃそーですよ! うちの弟は根っからの格闘マニアなんですから、格闘初心者にも安心な語りを心掛けてますとも、えぇ」
「「何でMr.Gがギャラリーに来てんだい」」
語りの出番無くなって勝手に休み頂いてるバカ兄が醜態晒して、誠に申し訳御座いませんでした。
「……待てよ? じゃさっきの【酔仙遊拳】でお酒を飲んで強くなるというのは……?」
今の話に沿うならば、酒を飲んで強くなるというゲーム拳版の酔拳・酔仙遊拳が嘘っぽくなるとシェイパー兄・サーブルズが危惧するが、それは心配ご無用。
「うんにゃ。それに関しちゃ本当やで、おフランス兄ちゃん。酒のアルコールが体内を刺激させて、今の酔拳よりも躍動感が加速すんねん。本来ゲームで戦う格闘家は、“食の力”が大きく反映されるもんやしな!」
戦いながらも解説に徹した高橋豪樹。彼の言い分が本当なら、今でも軽やかなフットワーク、手捌きが飲酒する事によって活性化される事になる。となれば確かに恐ろしい事になるだろう。
だが待つのだウェイト。こんな不毛な地底空間に、そんな力の源となる酒が存在するのだろうか?
「…………ある。私の屋敷の中に、酒の貯蔵庫が……!」
読んで一瞬で納得。大酒飲みの大山女将の屋敷前だからあって当然だ。
だが豪樹が飲むわけじゃなし、旧友の仲とはいえ気長に酒を渡すほど懐は大きくない女将さん。
しかし、古くも大山と深い仲であった豪樹は、戦いの最中に何を思ったか気掛かりな事を口にした。
「なぁ大山、つかぬことを聞くけどさ。お前んとこの貯蔵庫に【電撃爆酒】って一升瓶あったやろ。まだ持っとるんか?」
「んぁ? ……あぁ持っとるわ。黄色の焼酎で貴重な酒やから、飲むの勿体なくて5年くらい寝かしとる。それがどないしたん?」
と呑気に大山が語るが、一方の豪樹は深刻な面で忠告した。
「……そりゃアカンで。何でケーラスが大山んとこ狙ったんが分かった。裏プレイヤーを呼び戻すだけじゃなくて――――真の目的は、その酒なんや!!」
それは一体何を意味するのか!? そう言っている間にも、大山が言う屋敷の奥に控えた強固な貯蔵庫の地面が妙に盛り上がっているのを、私Mr.Fは見逃しませんでした。
どうなる拳華成闘、 本日の試合はこれまで! マッチブレイクッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽
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