【GAME6-10】ハートフルオーブ・GET!!
▶▶▶ NOW LORDING...▽
「う……ん……?」
一寸先は闇、と言っても目先が漆黒の闇、瞼を閉じて気を失っていたみのりがようやく意識を取り戻した。
そこに広がった風景はゲームワールドオンラインの太陽が沈み、瑠璃色の空。更にその周りには彼女の親愛なる仲間達6人の姿。
「――遅ようさん、みのり! ホント良く頑張ったぜ!!」
「……剣くん?」
称賛する剣のテノールボイスでみのりはガバッと上体を起こし、意識を失うまでの記憶を脈絡を辿りながらプレイバックする。
「えっと確か……レイドバトルで私だけが生き残って、ジンくんにとびっきりの技をかましたのよね。それでゲームが終わって、何か珠みたいなものを取ろうとしたときに倒れた。うん、ちゃんと覚えてる…………あ、オーブ!!! オーブはどうなったの!!!?」
記憶の末端かつ最重要ワード、オーブを思い出して急に大声でそれを求めるみのり。そーいえばあの後どうなったのでしょうか?
「ここにあるよ、お姉さん!!」
呼びかける声に振り向けば、そこに立っていたのは闘いに敗れたスピリットプレイヤー・ジンくんと、桃色輝く宝珠『ハートフルオーブ』。
「ジンくん! あ、怪我とか大丈夫なの? あんなに大きいダメージ与えたのに」
ゲームとはいえ、ジンくんに止めの大ダメージを食らわせたことで負傷してないか心配するみのり。ホントピュアである。
「お姉さんホントに優しいんだね。でも大丈夫、アメイジングは振動エフェクトとかはあってもオーバーキルされてもケガしないようになってるから!」
「……そっか、良かった!」
その通り。『アメイジング』は大胆なゲーム演出はあれど安全面は保証済! 良く考えれば、ジンくんのユニットでプレイヤー達を食った攻撃もあったのに、それで負傷されたら大問題であろう。
「そんな事よりも! 30人のレイドバトルでたった一人、プリンセスのお姉さんが【愛】を象徴する桃色の『ハートフルオーブ』を獲得したんだから!! 出来れば僕からお姉さんにこのオーブを受け取ってほしいな!」
元々はジンくんの気まぐれで主催したオーブ争奪戦。であれば主催者兼オーブの管理人から受け取るのは筋が通る話だ。
「え、でも……良いのかなぁ? 私なんかが滅多に手に入らないオーブ手に入れちゃって……」
自分自身の力でオーブを獲得したのは紛れもない真実。しかし優れたプレイヤーではない劣等感からまたしても謙遜するみのり。
「まだんな事で躊躇ってのかみのり。グズグズしてったら俺が代わりに貰ってやろうかな〜?」
「バカ、みのりちゃんの為に主役譲ったくせに勝手にオーブ強請るな剣!!」
「そーよこれはみのりちゃんが頑張って掴み取ったタマもの……じゃなかった、賜物なんだから! ねーみのりちゃん!!」
剣の悪ふざけに槍一郎とレミが割り込んでギャーギャー騒ぐ始末。それを見ていたジンくんはクスクスと笑ってはいるが、謙遜するみのりに質問する。
「……お姉さんからはここにいるプレイヤーの誰よりもゲームへの愛情が伝わってきたよ? それでもどうしてオーブを貰うことを躊躇うの?」
その問いにみのりは真剣に説いた。
「……あのね、私7人で一緒に行動している時にいつも思うことがあるの。
剣くんみたいに運も無いし、槍くんみたいなスピードも、穂香ちゃんのような類稀なるセンスもない。他の皆にある誇れるものは何一つ無いって……そんな私がオーブなんか取ったら、不公平じゃないかって思う時があるの。私普通すぎて何も無いのに――」
「でも騎士のお兄さんは、お姉さんにオーブを取ってほしいって思ってたみたいだったよ? で邪魔されそうになった所を助けてくれたじゃん! 詳しくはお兄さんから聞いてみたら?」
「ちょッッ!!?」
いきなり話を振り渡されてもどう言えば良いか分からず戸惑う剣。意外と予想外なサプライズ演出には弱いようだ。
「剣くん……」
暫くして話が纏まった剣はひと呼吸置いて、説く。
「……だってさ、みのりはこの一年間、皆の中で一番ゲーム頑張ってたじゃん!! ミスったらその理由をノートに書いてたりとか、ゲームの知識をG-バイブルで調べて実践したりとかさ、そんな姿を俺はずっと見てきたんだよ!!
あんなに一生懸命なみのりを見てたらさ……『全然弱くなんか無いんだ、みのりだってとっても強いんだ』って、勇気付けたくもなるだろ!? 俺らは親友なんだからさッッ!!!!!」
「…………ッ」
熱のこもった本音に、思わず言った剣も声を詰まらせ、みのりの瞳が潤み始める。
――どんな強敵にも屈せず、理不尽な敵に挑み仲間を助けてきた剣達を見て、みのりも彼らの力になりたいと思っていた。
PASは使えない、優れたプレイヤースキルも個性も持っていない。
ただ大好きなゲームに挑むための【努力】を武器に戦ってきた。
そんな彼女が磨き上げてきた能力は、格好良いというよりも泥臭い意味になってしまうだろう。ただそれでも、能力が無くても出来ないことは無い事を証明したかった――!!
その努力を知っていたのは剣だけではない。他の仲間達もその努力を見守り、今こうして彼女を称える時を待っていたのだった。
「……お姉さんは幸せ者だよ。こんな良い仲間がこうして見守ってくれてたんだから」
ジンくんの言葉に、堪えていた目の奥の涙が溢れてきたみのり。自分を包容してくれる者の優しさが、何よりも嬉しくて……
「……ジンくん、剣くんも皆も私の大事な仲間よ。でも、こんなに優しくしてくれちゃうなら……仲間って言葉じゃ足りない――!!
――私の大好きな…………【大親友】よ――――!!!!」
みのりは心の底に秘めた感情を放出させるように、うずくまって泣いた。それを見たレミや穂香は共に寄り添ってもらい泣くやら、抱き締めるやら。男性チームもそれにつられて泣くのを必死で堪えていた。
それからしばらく経って、みのりの涙も引っ込みようやくオーブ授与へと移った。
「それじゃ、お姉さんに大親友の皆! 僕の『ハートフルオーブ』、受け取ってくれるね?」
「――うん! ありがとうジンくん!!」
スピリットプレイヤーの手によって、1つ目のオーブ『ハートフルオーブ』が遂に手中に収める事となった!!
~~☆♪
とオーブが渡った途端にプレイギア縁起物着信音、開いてみると。
◇――――――――――――――――――◇
【ハートフルオーブを獲得しました!!】
・オーブ獲得によりエリア・ゲームが複数アンロックされました!!
・ギルド『シャッフル・オールスターズ』メンバーも獲得と見なされました!!
◇――――――――――――――――――◇
8つのオーブは幻の決闘場への道標、7人のオールスターズは全員獲得扱いされたが、コンプリートまではまだまだ遠い。
「あ、そうだ! 一つお姉さん達に良い事を教えてあげるよ!!」
「……? なんの事なの、ジンくん?」
「プリンセスのお姉さんのPAS、覗いてみたら鍵が掛かってたみたい!! 多分それを外せば覚醒出来るけど僕じゃ外せないから、他のスピリットプレイヤー達に聞いてみてね!!」
「「「――――鍵……???」」」
みのりはおろか剣達一同はこの真実を聞いて、疑問が耐えなかった。魂の能力『PAS』に鍵を掛けるなど聞いたことも無いからだ。
その一方でジンくんはプレイギア片手に開いちゃって、呑気にチャットメールを確認してる始末。……と言ってるそばから急に彼顔が青ざめちゃった。どうしたんでしょう。
「わ゛ーーーー!!!! もう門限オーバーしてお母ちゃん怒ってるよ!!! 早くお家に帰らないと、あわあわ……
――あ、それじゃお姉さんに大親友の皆も、今日はログアウトして明日またログインしてね!! バイバーイ!!!」
「……あ、ゴメンねジンくんバイバーイ!! また遊ぼーねー!!!」
みのりは慌てふためき瞬間転送するジンくんを手を振って見送る。良い子だったけどお母さんにお仕置きされないことを祈ろう。
「てかアイツお母ちゃん居たのか」
瑠璃色からすっかり夜の帳が降りた暗闇の空。
現実世界と時刻がリンクするゲームワールドオンラインは現在午後6時半を回ったところ。
楽しいゲームを終え、あっという間の時間経過によって急に空腹感を示すオールスターズ7人。
「……もう夜も遅いしさ、今日は一旦ログアウトして現実世界で飯食うか!」
「そーいえば私もお腹空いちゃった!」
「俺もや……先輩の飯食わんと空腹は収まらんわ!」
「さり気なく僕に飯奢ろうとするな倭刀」
「ゲームしてるとホントに時が過ぎるのが速いですよね〜」
「分かるわかる! 学校もそれくらい早くなりゃいーのに!」
「……ほんなら、ワイの行きつけのラーメン屋皆で行こか! 頑張ったご褒美にワイが奢ったるで〜☆」
「「「「「「賛成ーーーーー!!!!!!」」」」」」
……会話だけ読んでてもなんて心地の良い仲の良さなんだろうか、シャッフルオールスターズ。
ゲームワールドオンラインリリース初日は、とんでもなく濃い一日となったプレイヤー達。しかしゲームワールドにとってはまだ、ほんのごく一部分しか明らかになってはいない。
果たして明日はどんなゲームが、どんなプレイヤー達が待ち構えているのだろうか? 一先ずはゲームワールドの夜明けを待つばかり……
「……剣くん」
「――んぁ?」
「いつも私を勇気付けてくれてありがと! これからも宜しくね☆」
「……こっちこそ! 宜しくなみのり!!」
剣とみのり、二人の硬い絆を証明するように優しく握手を交わす。7人はプレイギアのオプションから『ログアウト』のカーソルを開き、ゲームワールドとGWギアとの通信が切断された。
▶▶▶ SHUT DOWN...▽




