【GAME51-4】オリジンの聖地への道!!
――オリジンロードへの逃避行から数十分が過ぎた。
最強の黒尽くめアバター【シャドウ・D】の魔の手から逃げに逃げて、その奥へ通ずる『オリジンの聖地』へと向かう剣と桜であったが、またしても脅威が彼らの前に迫る。
「どーもこの緊張感は慣れないな。倒せねぇ敵から逃げなきゃいけないってのは」
「今は私語は危険です。距離を見計らって別の方向へ逃げましょう」
二人は【シャドウ・D】と思われる存在をいち早く察知し、その足取りと足音の距離を予想して、抜き足差し足と気配を消しつつ移動する。
だが地獄耳な二人は、その忍び寄る気配と何度も追われたアバターとは違った何かを察していた。
「………何か妙じゃね? 桜」
「私も気付いていました。近付く足音が【シャドウ・D】とは違う音がします」
【シャドウ・D】の気配で例えるなら、奴らは全身レアメタルの合金で出来たアンドロイド。
即ち奴らが近付く音は決まって、ガチャガチャと機械が動くような重く硬い音がするという。
しかし今二人に近付いている気配は、剣たちと同様にコツコツと靴が鳴る音と全く同じ音がしていた。
「もしかして、俺らと同じプレイヤーがここに紛れ込んでるって事か?」
「だとしても……その者が我々の味方である保証はありませんよ」
アバターとの鉢合わせではない事に半ば安心しつつも、油断は出来ないまま緊迫の間が続く。
すると、正体不明のプレイヤーの方から剣たちに声を掛けてきた。
「おーい、誰かおるんかー!? 居たら何もせぇへんから助けてくれぇぇぇぇ!!」
「不覚にもこの迷路に迷っちまったんですぅぅぅ!!」
「我ら救出求めたり! 特にJKな女子からの救いを求めるものなり!!」
このガサツで独特な関西弁を耳にした途端、剣は呆気に取られたというか、予想外かつ期待を遥かに反れたような微妙な顔が浮かんだ。
「最近見かけねぇと思ったら……何しとんねんな」
「剣さん、ご存知な方なのですか?」
「ご存知も何も、面倒くさい程の腐れ縁な御方や」
ではその証拠を見せてやろうと、剣が曲がり角の先にいると思われるプレイヤーの前に自ら現れ出るならば。
「やっぱり! 服部のあんちゃんじゃねぇか!」
「んぁ!? 貴様は剣かぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
▶▶▶ NEXT▽
えー、突然の展開でびっくりした方も居るでしょう。
なんだってオリジンロードに、お騒がせ不良軍団『伊火様』の服部詫摩と、子分のA太にB太郎が出てきたのか?
あの人達が最後に出たのって何時でしたっけ……あ、そうだ【GAME14】のツヨシ城GWクエストの時でしたね。
あれから一年以上が経ち、服部達は恩師であり、アミューズメントパーク『ギャラクシー』のオーナーの松坂さんに恩返しする為に、パークで警備員として働きながらゲームワールドでも出稼ぎに出てる話ですが……
どうして『オリジンロード』の修羅場で迷っていたのか理解に苦しみます。
そこで一発で納得させる方々に聞いてみましょう。
「あの馬鹿……、オリジンの聖地の前で待ってろと言っただろうに!」
モニター越しで頭を抱えて苦言を呈するのは、ゲームマスターの一文字蒼真。
どうやら彼は、服部達の『ギャラクシー』での警備経験を見込んで、クエストにおいて『オリジンの聖地』内でのボディガードとして急遽アルバイトとして雇ったようですが、監督不行が仇となって三人とも迷ってしまったらしいのです。
「どうやら彼らは転送先を間違えたらしい。しかし【シャドウ・D】が彷徨くこの迷路をよく生き延びられたものだ! 素晴らしいサバイバル能力だ」
「感心してる場合じゃないですよ社長! 急いで転送させますので……」
「慌てるな蒼真。ハプニングもクエストの一環だ。これで桐山剣はこれらの存在をどう扱うのかという責任が出来た。これをリスクに思うかどうかは彼次第だがな」
(社長も大概変わってんだから……)
クエスト管理のアクシデントすらも一興と考える本宮社長の寛容さには、流石の蒼真も足元には及ばなかったようで。
▶▶▶ NEXT▽
一方『オリジンロード』では、例のごとく剣を久々に発見してギャーギャー騒ぐ一種の風習が見られた。
「剣さん、あの野蛮な方達は誰なんですか?」
高貴な桜さんには目に毒か、嫌そうな顔を伏せつつ剣に耳打ちする。
「別に悪い人ちゃうで。俺を倒したくていつもちょっかい出してくる服部のあんちゃん。リアクションがおもろいから遊び相手になってんよ」
「てめぇッッ、何でこんな迷路にメイド女を連れてきとんねん! リア充か、御主人様気取りかゴラァ!!」
服部さんてば、相変わらず龍牙さんみたいで乱暴なお方! しかし扱いには慣れている剣は一切動じず、寧ろ久々に服部と出会えて嬉しそうだ。
「あんちゃんこそ、ゲームワールドで稼いでるって話を松坂さんから聞いたぜ。それがまさか俺のGWクエストを手伝ってくれるなんてな!」
そんな事など知らずに『そうなん?』って顔を一瞬しつつも、横暴にも迷路の抜け道を無理やり聞こうとする服部。
「んなこたどうでもえぇ! 早くこの迷路の出口を教えや!!」
「アホ言うな! 俺のクエストなんやから、俺らが知るわけ無いやろ」
「そ、そんな………」
そりゃそうですよ、挑戦する側が出口知るわけじゃなし。そう聞くと服部と子分二人は、落胆してガクッと膝を落として座り込んでしまった。
「あらー、この分じゃ相当走り回ったんだな」
「じ、じゃかましい! お前なんぞに同情されたか無いわ!!」
と強情は張りつつも疲労困憊の服部を含む御三方。
「待ってください。もしや貴方達、あの【シャドウ・D】からも撒いてここまで来たんですか?」
「あ? あぁ、一応俺様もPAS覚醒しとるしな」
「兄貴の【シーフナイフ】の能力、舐めんなよ!」
「(メイド様のメアド交換して欲しいのである)」
察しの良い桜がその事に気付くと、剣もその運の良さと生命力の強さを見込んで、服部達に提案した。
「あんちゃん。この迷路を抜けたいならさ、俺たちと手ぇ組まないか?」
「何ぃ!? お前のクエストに俺様が助けろと言うんか!」
「ここを抜けるまでの間だけや! 今のルールじゃ桜もあんちゃんも力を貸しても良い事になってるから」
「うーむ……」
ここで弱みに付け込まれては、服部の沽券に関わるようで唸りながら悩む。
「兄貴、癪でしょうけど彼奴らの力を借りましょうよ。でないと俺らギャラ貰えませんよ!」
「うむ、それに吾輩もあのメイド様を御守りする義務がある」
A太に、B太郎も同行を促した所で、ようやく服部のあんちゃんの心も変わった。
「わーったよ! この間だけだかんな! あとは無様に負けようが知らん!!」
「そうこなくっちゃ! ほんじゃま頼んだぜ、服部のあんちゃ―――――――だぁあ!??」
「「「!?」」」
剣は胡座をかいて、リラックスがてらに壁に寄り掛かろうとしたその時。
突如剣の背に預けていた壁がクルッと回転し、その反動から彼の身体ごと裏側の空間へと吸い込まれた。ヴァーチャルカラクリ扉か!?
「剣さん! 大丈夫ですか!?」
桜は壁越しに剣の安否を心配し問い掛ける。
「大丈夫だ桜! お前らもこっち来てみろよ、ここ隠し空間になってるぜ」
驚きも混じりながら、お気楽に応答する剣にホッとする桜。その様子から彼女らもからくり扉の奥の空間へと進む。
―――その隠し空間とは、暗がりに何本もの炎が焚かれた松明で照らされ、無数の剣のオブジェが飾られた意味深な遺跡であった。
「こいつは、ゲームワールドに存在する無数の聖剣の精魂が祀られてる祭壇らしい」
「無数って、剣さんが手に入れようとしている《GXキャリバー》だけじゃないんですか?」
そんな桜の問には“否”と答えておこう。
この異世界には《GXキャリバー》のみならず、特性は違えど同等、或いはそれ以上に強力な武器がゲームワールドの何処かに眠っている。
それは何処に、どんなものがあるのかはまだ分からない。
……だが、一つだけ言えること。
この遺跡の中央に設置された一際大きな祭壇、それこそ《GXキャリバー》の魂を祀ったものであり、それを手にした勇者が生死を共にした剣の英姿を称えるメッセージが石碑に書かれていた。
そしてそれは、桐山剣のみが理解できる言葉であった。
【《大いなる伝説の聖剣―GXキャリバー―》
熱い魂を込めて、刃を振るう切り札騎士より。未来永劫、その手に掴む栄光を絶やさぬように。この聖剣と共に在らんことを。―マンドラ・チャンドレイユ―】
「……………………アイツめ」
この言葉は、桐山剣の心にどう動いたのか。それは神のみぞ知る心理でありました。
――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽
小説を読んで『面白かったぁ!』と思った皆様、是非とも下の「ブックマーク追加」や感想・レビュー等を何卒お願い致します!
更には後書きと広告より下の評価ボタンでちょちょいと『★★★★★』の5つ星を付けて、作者やこの物語を盛り上げて下さいませ!
次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




